医療雑記」(その3)
 谷口 啓治
  今夏7月に、「医療雑記」、「々」(その2)なる粗稿をH.Pのアラカルト欄に載せてもらった。
慶応大放射線科医師・近藤誠氏「医者に殺されない47の心得」を紹介し、筆者の体験をダブらせてお知らせするためであった。

 筆者は、H19年1月に前立腺がんの根治的治療法の一つである前立腺全摘出術を受けてから5年6カ月も過ぎていながら、PSAの検査値が0.2(医学的再発判定値)を超えて0.256(H24年7月)になっていて、主治医の勧めで放射線療法を年末年始にかけて受けた。それにも関わらず効果がなく、ついに5月17日には0.609に達していて「PSA再発」(注①)との判断か、次なる手段としてホルモン療法(内分泌療法)を受けるように勧められていた。
  筆者はしかし、放射線療法が無効であったことへの不審とか、前記・近藤誠センセイのご高説に興味を持ったことなどから、すぐに出すべき新療法の適応についての結論を出していなかったのである。

  ところが、最近、東京の知己が同じ病気との闘いの挙句に肝臓に転移して絶命する(注②)、と言った現実に直面してさすがに恐怖を感じて、主治医にホルモン療法詳細について教示を仰ぎ、同法を受容するつもりになったのである。
混雑している予約の隙間に、ねじ込むようにして外来予約を入れてもらい12月11日午後に赴いたが、なるほど待合室は溢れかえっていて予約時間を30分も遅れての診察となった。
しかし、日を改めて外来診を再度受ける、と言う結果になった。 
 Dr.とのやり取りの一片は
1、 先生;今日は定期検査でしたかネ?
2、 谷口;5月に出すべきホルモン療法についての結論が未回答だった。また、前に戴いた資料
   Aでは理解できない部分があるので聞きたくて来た。その後にホルモン療法を受けるか否か、
   答えを出す。
   別に金澤医大並木先生の本を読んだが、やはり難解である。
   前回「このまま放置したら?」とお聞きしたら「2~3年の命かなぁ」とのお答えだった。
3、 先生;(資料Bを示して)「こちらは出していなかったですか?読んでください。余り詳しくはない
   が」、とBを手交さる。
4、 谷口;次回にはホルモン療法を受けるべく結論を持ってくるが、何時がよいか?
5、 先生;とても忙しくて、今すぐに予約は何時と言えない。後日に外来予約を取ってから来てく
   れ。(いつもは、日程表を見て即決されていた)
6、 谷口;諒解!   
(この間、約10分間であった)

注① ;根治的治療(例・手術、放射線など)を受けた後に一度は下がったPSA値が再度上がった
      場合を言い、0.2を限界としているようだ。
      筆者例では、術後5年6カ月で0.256に到達した(目下は、0.8レベル)。

注② ;臨床的再発とは、CTやMRI、骨シンチ等の画像診断などで再発が分かるケースで、リンパ
      節転移、骨転移、遠隔臓器への転移(本文記述の肝臓転移例)が発見される。「PSA再発」
      が臨床的再発になるまでには、平均して7~8年かかるらしい。・・・注③

注③;「PSA再発」の前立腺がんでは根治を期待できるのは、放射線療法ただひとつである。
     「PSA再発」→「臨床的再発」が確認された際には、一般には「ホルモン療法」が実施される。
  ホルモン療法の問題点は、早ければ2~3年で効かなくなること。残ったがんが増殖に転じる
     ことを「再燃」と呼び、化学療法が適用される。
 以上の参考文献;福井 巌、米瀬 淳二著「前立腺がんと言われたら」(保健同人社)
         藤野 邦夫著「前立腺がん治療革命」(小学館新書)    

 長ったらしい状況説明を述べてしまったが、本題の「医療事情」で言いたかったことは、

1、 医師が余りにも多忙で(昼食もソコソコのようである)、前段で述べたように次回の予約につい
     てすら話合えない
2、 患者を引き入れてから電子カルテルを見ながら、患者とやり取りをされるから「今日はどんな
     用でしたっけ」となる
3、 「アノ資料は渡してなかったかなァ」と言われても困るのは患者サン
     時々、「前に言いましたョ」などと(こちらの知らぬ事を)仰る
4、 いわんや、どんな薬ですか?飲むのですか?注射されるのですか?と、患者の方から聞くの
     もどうだろうか
5、 筆者の場合、全体CT、骨シンチ、体幹部CT、肺部のCTとPSAが変動するたびに検査をして、
    「大丈夫ですョ」と宣告されていたが、自覚症状として「最近腰が痛いことがあります」、「こむら
     返りが頻繁に起きます」、「肝機能の数値がよくありません(ホームDr.からは、「酒を慎め」と)」
     などと申告して治療の役に立てたく思っていたのに

 など、医師と患者を取り巻く環境が 大変劣悪になりつつある。同病のご同輩、ご用心召され
よ、ということである。
 決して、先生方への不満を述べるだけではなく、医療の現場環境が問題ではないか、管理者が
(大げさに言えば、国の厚生行政府が)考えるべき難問であると言いたかったのである。

 目下のところ、主治医にもらったA,B二種類の資料と「脳下垂体に作用し、男性ホルモンを低下
させる“ゾラデックス”という薬剤を三カ月に一回、下腹部に皮下注射をする。一回につき6万円
(1か月分2万円とか。がん保険は効かないと言うし痛いなァ)ぐらいかかる」と言う主治医のご託
宣を引き出した事および前記の参考文献の素読で大体納得できた。
あとは、副作用に用心しいしい「Go!」するだけである。
25年12月15日
追記;
   NHKのEテレ“前立腺がん”シリーズ(12月16~18日放送)を長女からの連絡で気がついて
見た。東京厚生年金病院の赤倉功一郎先生の話であったが、案外分かりやすかったし、本文
引用の福井、米瀬先生共著も分かりやすい。
 ご心配の向きは、参考にされるとよいと思うが、何よりも、大病院の側で抜粋文を作り、出来れ
ば同病の患者を集めてレクチュアーされるとよいのではないか、と痛烈に感じている。
 尚、福井、米瀬共著が述べている「前立腺全摘出術後にPSA再発をきたした場合、PSA値の
倍加時間が短い(三か月以内)場合は遠隔転移(骨や遠隔臓器への転移)の可能性が高いと
いわれています」に照らすと、筆者の場合は今年5月・0.609に達するまでに昨年の12月(0.345)
から5か月掛っているのだから、“ダイジョーブ”と言えそうだが、どうだろうか。    (18日夜)

蛇足;
1)高校生の頃から飲み始めた酒は、H13年6月に胆のう摘出術を受けてから丸三年間完璧にや
    めた事があるが、今回はホームDr.のアドバイスに従い(完璧でない)禁酒を始めている。
2)なるほど混んでいる。外来予約で、次回は1月31日午後の診察と決定。          (20日夜)