「府中刑務所」参観記   
稲 葉 浅 治 
1. はじめに
  私の住んでいる文京区に、文京区立高齢者大学があります。2年制の短期大学で、満60才以上の文京区民が対象で、2年に1度、新入学申込みを受け付けておりますが、定員60名に対し、いつも2倍以上の応募者があります。第一学年は「教養課程」で、学生全員で、同じカリキュラムで1年間学び、出席率70%以上の学生が第ニ学年に進級できます。第二学年は「専門課程」で、文京区主催の生涯学習講座(文京区民全般を対象として年間100を超える数日間の講座)の中から、各学生が自己選択した講座を20単位(20回受講)受講すると、晴れて卒業となります。
 卒業後は、OB会の「文京区高齢者大学生の会」に入会することができます。この会では、毎月の月例会の他に、1月は七福神めぐり、3月は文学散歩、5月は史跡めぐり、7月は夏の講演会と暑気払い、9月は社会科見学、10月は修学旅行(1泊2日)、12月は冬の講演会と望年会(忘年会)を行っております。
 今回の府中刑務所参観は、9月の社会科見学として計画しておりましたが、紹介無しの見学は断られたため、民生委員、保護司の方のルートを通じて10月16日に参観が許可されました。


2. 参観説明まで
 私達一行(50名)は、武蔵野線北府中駅改札口を出た所を集合場所と致しました。駅から続く歩道橋からは3億円事件で有名となった東芝府中工場が見えました。駅から5分位歩くと府中刑務所の壁が見えてきましたが、駅に近い方の塀は中に刑務官の社宅があるため、あまり高いものではありませんでした。
 駅から10分位歩いて、官舎の中を通り抜けると府中刑務所の表玄関が見えてきました。ここまで来ると、事務棟の奥の高い塀がよく見えてきて、いよいよ刑務所に来たのだという実感がしてきました。
 私達は守衛所の前で、3列縦隊に並ばされ、予め提出してある参観者名簿(氏名、住所、性別、年令、職業)に基き、確認を受けました。
 その後、係員に誘導されて、庁舎の2階にある参観者講堂へ案内をされました。ここで、まず最初に府中刑務所に関するビデオを約20分見た後、刑務官による説明が行われました。
 府中刑務所は、法務省設置法に基づいて設けられた国の刑事施設であること、日本最大規模の刑務所であり、敷地が26万u、収容定員2808人、職員608人で、日本男子及び外国人受刑者を収容していることがわかりました。
 受刑者は刑期10年未満の者が主体となっていること、外国人受刑者は現在400人位で国籍は45ヶ国に及ぶため、言語や食事、生活習慣の違い等に苦労しているとのことでした。
 
3. 刑務所内見学
 参観説明が終り、これからいよいよ刑務所内見学が開始されることになりました。カメラ、携帯電話、ライター、煙草、カバン類はすべて講堂に置いていくこと、見学中は私語厳禁、受刑者には絶対話しかけないこと等の注意が行われました。
 私達は二列縦隊となり、先の方は男性グループ、次に女性グループ、後の方は男性グループの順番に並び、隊列をくずさないように指示されました。その先頭に刑務官2名、最後尾にも刑務官2名に守られるような形で、いよいよ高い塀の中に入りました。
 最初に鍵をあけて入った部屋は、コンクリート製の部屋で窓はなく、全員がその部屋の中に入り、中から施錠しないと、部屋の別の出口の鍵があかないシステムになっていました。
 まず、見学したのが独居房でした。三畳位の部屋にベットが置いてあり、房内には洗面用具や着替え位しかなく、トイレは上半分は丸見えという構造でした。入口の鉄格子扉には、外国人の場合に使用される食事指定のプレートがかかっていました。テレビや読みかけの雑誌や本が置いてあったりしました。
 次に雑居房で、広さは9畳でタタミが敷いてありました。ここに6人の受刑者が生活するのでは、かなり窮屈ではないかなと思いました。トイレは一応個室風になってはいたが、6人だと大変ではないかなと感じました。テレビや読みかけの雑誌や本が置いてあったが、くつろげるという雰囲気には程遠いという印象でした。
 移動の途中、運動場で受刑者が運動している様子が見えました。全員が同じ制服を着て運動していましたが、何か異様な感じを受けました。
 次に受刑者が作業している工場を見学しました。運動場のように遠くから見学するのかと思っておりましたが、工場内見学通路のすぐそばに受刑者が作業している状況にびっくりしました。もし、知っている受刑者がいたら、肩をポンとたたく位の至近距離でした。受刑者は、プラモデルのシール貼り、印刷作業、木工作業等を黙々と作業していました。外国人も何人も一緒に作業していました。各仕事場毎に見守りの刑務官がいましたが、もし囚人暴動がおきたら、どうなってしまうのかと心配になりました。
 最後に、食堂へ参りました。三食分の食事のサンプルが展示されていたが、美味しそうな感じで、特に高齢者に向くような気がしました。これで一日500円位の食費でできるのなら、年金生活者にもいいなと思いました。刑務官の説明で、豚を食べない外国人には酢豚が酢鳥になるのだと知り、45国もの外国人を税金で食べさせる苦労は大変なものがあるだろうと考えさせられました。
 
4. 見学を終えて.
 見学を終えると、最初のコンクリート部屋に入れられ、人数の確認を受けました。もし1人でも残してしまうと大変なことになるので、厳重なチェックが行われました。
 その後、講堂に戻り、質疑応答が行われたが、その主なものは次の通りです。
 一日の受刑者のタイムスケジュールは? 6時45分起床 7時朝食 7時35分出室 8時作業開始 12時昼食 12時40分作業開始 16時40分入室 17時夕食  18時仮就寝 21時本就寝ということで、見学者からはそんな規則正しい生活をしてみたいという声があがりました。
 外国人の受刑者で多いは? 東南アジア系、中国人、イラン系が多いということで、今後も外国人による犯罪を減らすためには厳しい入国審査や、地道な犯罪撲滅運動等が必要であると説明されました。
 すべての説明、見学が終った後、最後に案内されたのは、刑務所の塀の外にある、受刑者が作った物品を販売しているお店でした。このお店では府中刑務所作品だけでなく、全国の刑務所で作成された木工品、衣服、靴、カバン、文房具等が販売されていました。刑務所で作成された品物は、値段も安く、しかも品質が良い、しっかりしている品物ということで、人気があり、それぞれ買い物を済ませて解散となりました。
 
5. 終わりに
 今回の「府中刑務所参観」は通常見学できないところを見学でき、貴重な体験ができました。すぐそばに受刑者が作業しているのを本当に真近かで接し、大変な驚きでした。私達参観者に大勢の刑務官がつきそって2時間も案内業務をするのも大変だなと実感しました。
 よく生活に困って犯罪をおかして刑務所に行きたいという話を聞きますが、日本の刑務所は衣食住とも充実しており、成程と思わされました。
 しかし、刑務所の塀の中には入りたくないというのが参観者一同の一致した考えでした。
 平成26年11月10日