長谷川良子著「マハラノビス・タグチ(MT)システムのはなし」

   「マハラノビス・タグチ」の「マハラノビス」は、インドの統計学者博士 ことで、項目間の相関から導き出したマハラノビスの距離を考案したことで著名です。 「タグチ」はタグチメソッドの創始者として世界的に著名な田口玄一博士のことです。システムはマハラノビスの距離をタグチメソッドの体系に取り入れたパターン認識の方法で、多くの分野に応用れています。  本書では、健康診断を例にMTシステムの考え方を説し、脳疾患者の排尿自立達成の予測、糖尿病の予測などの応用例も掲載されています。

推薦の言葉
 アメリカビクター社のトレードマーク「犬が主人の声を蓄音機で聞いている」は世界的に有名である。同じ言葉を他人がしゃべっても犬は主人の声と異なることが分かるのである。その能力はパターン認識である。パターン認識に対する数学的モデルを作ることは誰にもできない。パターン認識を解く近似的な方法としてマハラノビスタグチ( MT)システムを提案した。その方法は主人の声の集まりを単位空間として、その中にマハラノビス空間を作り、マハラノビスの距離を導入する。そして他人の声はすべて信号と考え、単位空間からの距離を求めて、区別できるかどうかをSN 比で評価する方法である。音波からとるデータをどうとるかは担当者の自由である。
  パターン認識に対する分かりにくいと言われているMT法をいろいろな具体例で初心者向きに解説したのが本書である。パターン認識問題は、個人の音声認識だけでなく、入学、入社の受験者に対する合格・不合格の判定、健康診断、工場診断、企業診断、経済予測、など様々な情報システムの設計に重要であると予想されている。 システムでは目的に対して均一な単位空間を考える。単位空間はデータベースとして用いるのだから数十以上の十分な対象があることが望ましい。単位空間に属する個々の対象に対して、できるだけ多くの項目を調査する。それらの項目のデータから、ある手順でマハラノビスの距離の計算をその単位空間内で作る。その距離は、ほぼ1±1の、すなわち区間(0、2)の範囲をとる。
 マハラノビスの距離は項目間の相関の相関行列の逆行列の成分を用いて計算するが、それはMT法のソフトを用いればよいので数理は知らなくてもよい。
 問題はパターンが単位空間と異なると考えられる単位空間外(他人の声)の個々の対象(信号という)に対する識別能力である。そして、識別能力をSN 比として求める点が新しい方法である。信号は一般に、一つ一つでパターンが異なり、そのパターン差を含めた距離を単位空間からの距離として求めるのである。音声のパターンならば、個人ごとに単位空間を作り、他の人の声は、別々の信号ということになるのである。
 本書には、単位空間内で求めた項目(複合項目も含む)の標準偏差がゼロになる場合の対策の説明は十分に行われてない。入門書としては当然とも考えられる。そのような項目が存在しない場合の MT法について分かり易く書かれている。MTシステム全般に対する入門書としても推薦する考えである。
                                       2004年8月吉日            田 口 玄 一