2. この陣羽織に酷似したキリム
陣羽織のキリムとはどんな姿だったのか。非常に酷似したキリムがあるので、それを紹介する。
キリムを説明するために、各部位の名称を示す必要がある。
下図は絨毯の代表的なデザイン、メダリオンコーナーの部位呼称を示している。
このキリムのフィールドと陣羽織キリムのフィールドを見比べてもらいたい。
主ボーダーは全く違っている。








スイスのルガノにあるテイッセン  秀吉陣羽織
ボルネミッサ財団
鳥獣文キリム イラン 17世紀 
寸法:1.94x1.24m(ドサール) 
材料:絹、綿、銀糸
鳥獣文キリム イラン 16世紀 
身丈:0.99m 材料:絹、金銀糸

基本的なデザイン構成は大小菱形を四方菱形連続文様で積み上げている。
似ている部分はテイッセンの中央横軸の上下に2匹の赤色獅子が尻尾と右後足を上げている、また横軸上に黄色のライオンの顔が黒地に描かれている。これらは右の陣羽織の中央横軸のすぐ上に、また軸線上にオレンジ地に青のライオン顔がある。更に左のカルトーチが2箇所あり、クジャクが描かれている。
これは右の縦中央軸上に同じようなクジャクのカルトーチが並んでいる。
全体を見て指摘できるのは菱型の変形の仕方、菱形の中に描かれている絵柄、濃い菱形、淡い菱形の配置などもそっくりである。これらのことからデザインのコンセプトは全く同じである。
この二つのキリムを並べたとき、どちらの方が魅力的かというのは人の嗜好で何ともいえないが、絨毯を鑑賞する視点からすると、このテイッセンの方に軍配が上がるだろう。何故ならばテイッセンの主ボーダーはデザインがフィールドと全く異なるので、絨毯の命であるフィールドの絵柄が強く浮かび上がらせる額縁の役割りをしている。
陣羽織キリムは主ボーダーにもフィールドと同じ走獣文が繰り返される、しかもボーダー地色がフィールドと似ているので、額縁の役割りに欠けていて、フィールドが締まらない。
逆に陣羽織として見るとテイッセンの方が地味な感じで迫力がない、闘争心を煽る将軍の陣羽織には向かないようだ。
このテイッセンの寸法はイラン語で“ドサール”と呼ばれる。
“ド”というのは数字の2を意味しているので、長さが約2mものの総称である。
続く