カッパドキアは気球から
勝岡 宣夫
  数年前からトルコに行ってみようと妻と話していた。 5年以上ハンガリーで暮らしていたので、ほとんどのヨーロッパの国には足を運んでいるがトルコにはまだ行っていなかった。
最近ではイスタンブールが2020年のオリンピック招致で東京のライバルとなっていることやイスラム傾倒の政府に反発する大規模デモがずいぶんニュースになっている事もあってなんとなくトルコに目が向いていた。

 奇岩で有名なカッパドキアでは全体を気球で眺めるイメージを持っていたのだが2013年2月26日にエジプトのルクソールで気球が燃え上がり日本人4名を含む19名も亡くなる大事故が発生した。 この事故以来、妻は「気球には乗りたくないネ」と消極的。
 これはマズイと「このような事故が一度起きると主催者側が厳しく対策を取るため、事故は起きなくなるものだ」とかえって安全になると懐柔作戦で気球に乗るよう勧めていた。
 ところが、である、3ケ月後の5月20日にこともあろうに、なんとカッパドキアで1名死亡する気球事故が起きてしまった。
 これはかなり致命的で「乗りたくない」から「絶対乗らない。死んでも乗らない」になってしまった。
仕方が無いので僕だけ気球に乗るオプションを申し込みトルコ旅行に出発した。

 旅行は9日間のツアーでトルコの名所を反時計回りで巡るものだったので最後にカッパドキア2日間、イスタンブール2日間と盛り上がって名残惜しくトルコを去るメニューになっていた。
 途中で時計回りのツアーの人と出会ったがすでにイスタンブール、カッパドキアが終わってしまったので盛り下がってしまい消化試合の感じでちょっと気の毒。
 カッパドキアに到着するまでの工程も世界遺産のパムッカレ、チャタレホユック遺跡などを含む9箇所の観光スポットを巡って結構楽しめた。

 さて、いよいよカッパドキアに近づいてくると若くてかわいいガイドさんが今までに無い力の入れようで、気球体験の素晴らしさを説明。 気球からの眺めがいかに素晴らしいか、体験した人たちの絶賛の声、カッパドキアまで来て気球に乗らなければ意味が無い、とか、色々言っていたが、その説明の上手なこと!
 聞いているだけでもウキウキするような説明に妻も「絶対乗らない。死んでも乗らない」 から 「乗る」にあっさり変更。(なんちゅう自主性の無さ)

 さて、搭乗当日の早朝、日の出前に気球観光会社に集合、すでに色々な国の人が大勢集まっている。
 気球にとって雨は問題ないが風と霧の日は飛べないとのこと。 この日はたいした風ではないと思われたが待機状態が続いていたので大勢の人が集まっていた。 この時間を利用して朝食が取れるようレストランもある。ゆっくり朝食をとっても風止み待ちが続いて結局6時に飛び立つ予定が9時近くになってしまった。


 気球のゴンドラは20人乗りで、周りの壁は胸まであり乗り込むのも降りるのも結構体力がいる。壁には足をかける穴があいているが女性や年寄りには大変でスタッフが手伝ってくれる。

    台車の上に20人乗りのゴンドラ。この台車の上に直接降りるピンポイント着陸を目指す。


バルーンの膨らませ方は、たたまれているバルーンを上が風下になるように地上に広げ、ゴンドラを横倒しにして接続する。 はじめは大きな扇風機で風を送り込み、ふくらみが出てきたらバーナーで本格的に熱風を送り込む。バルーンが浮き上がりゴンドラを引っ張るようなるとゴンドラが起き上がるので搭乗開始。

                       バーナーで熱風を吹き込む
 

 これは結構ドタバタしていて「ゴー、ゴー、ゴー」の掛け声で皆どっとゴンドラ寄り集るがよじ登るのに苦労してスタッフの手を借りる。
 僕はサッサと乗り込んで一番いい場所を確保。 乗ってみてわかったがゴンドラの向きは飛んでいる間は変わらない。 つまり風下の場所を確保するといつでも進行方向を見ることができ、おまけに太陽が風上から照っていたので逆光にならず写真もバッチリだった。
 バルーンの下に小さな半月状の帆があるのでこれが姿勢を制御しているものと思って他の気球も注意して見ていたが違っていたようだ。気球によってはゴンドラをくるくる回しながら飛んでいるものもあった。 これなら席の不公平は無いがとにかく我々の場合は終始進行方向の一等席であった。
     
              一等席を確保(中央のピースとその右)

  乗り込むとすぐにプロパンガスの配管にルクソールのような問題が無いかチェック! 大丈夫のようである。 これから先は風とパイロットの腕とパイロットの好みの問題で、方向は風まかせでどうにもならないが上から見るか地上に近づくかはパイロットの好み次第。
 我々のパイロットはデュカプリオと名乗って笑わせてくれ、大いにサービスしてくれた。

空から見るカッパドキア

 
 
  空からカッパドキアの景色を堪能した後着陸となるがこれがまた一大イベント。 ゴンドラは専用の台車で地上運搬するがゴンドラは重く手で台車に乗せるのは難しいので直接台車の上に着陸しようとする。 したがって地上部隊は必ず着陸地点に先回りして台車をセットしておく必要がある。
 地上部隊はお客を乗せるマイクロバスとバルーンをたたんで荷台に乗せてさらにゴンドラの台車を引っ張るピックアップトラックの2輌の車両からなる。

 この地上部隊は風向きから着陸地点を予測して地上を走り先回りするが、何しろ道路を走るので気球の真下を追いかけるわけにはいかない。風が変わると当てが外れることもあり、あわてて進路変更するものもある。上から見ていると時々止まっては進路を迷っている地上部隊の苦労が結構面白い。
 我々の気球も他の気球に続いて降りようとしたが、少し高度が高くてこのまま下降すると高圧送電線に引っかかりそうだった。 僕はこれにいち早く気づいたのでパイロットに「送電線があるぞ」と英語でご注進、パイロットは「ウン」とトルコ語でうなずいて「バー」とバーナーを燃やし高度を上げた。
 地上部隊も予定変更を察してあわてて車に乗り込み走り出すのが見えた。
 送電線を避けるために少し上昇したところで風向きが右へ変化し、他の多くの気球が着陸している地点よりもだいぶ右側へずれてしまった。 それでも着陸できる地点はちゃんとある。

 着陸地点は草原で車両は道路をはずれ気球の着陸地点に台車を配置する。 これは地上部隊とパイロットの綿密な無線連絡でちょうど着陸地点にゴンドラの向きに合わせて台車を配置しなければならない。
 ここでパイロットの腕が試される。 見事一発で台車の上に着地するものもあればゴンドラが地上をズルズル引っ張られるものもある。  搭乗者はこのズルズルに備えてゴンドラの中で進行方向に背中を向けて中腰で目の前の“手すりロープ”をつかみ危険回避体制をとる。  この姿勢は乗り込むとすぐに教えられて皆できてから飛行が始まる。
 我々のパイロットは惜しいことに一度台車の上に着陸したがわずかにずれてしまった。 もう一度「バー」で少し浮き上がり地上スタッフの人力で台車に固定された。



地上の窓がたくさん見える岸壁は宿泊先の洞窟ホテル。岩をくりぬいた部屋なのでエアコンは無いけれど涼しい。バスルームのほかにベッドルームにもジャグジーがあり結構豪華。


 こうして気球体験は大満足のうちに終了した。
 気球はヘリコプターと違いバーナーの「バー」以外はまったく音がしない。 風に吹かれてゆっくり移動する感じや上昇下降もゆるやかで気持ちが良い。 しかし、風向きは少しずつ変化するので思ったところへ着陸できるのか心配もあるがそれも楽しみの一つかもしれない。
                                                                                                                                  以上
2013年8月26日