第 4 3 5 回 講 演 録

日時: 2016年03月16日(水)13:00~14:50

演題: 東京湾・三番瀬の自然を守る活動 ~ラムサール条約湿地登録をめざして~
講師: 三番瀬を守る署名ネットワーク 事務局長、あかがね倶楽部 会員 織内 勲 氏

はじめに

かつてイランのカスピ海沿岸からエルブルス山脈を越えてテヘランまで送電線を建設するプロジェクトで私が訪れたカスピ海沿岸の町「ラームサル」は湿地帯を保護する国際条約「ラムサール条約」の発祥の地であった。その後、浦安市の自宅前に広がる広大で豊かな海域「三番瀬」が埋立てなどの開発により自然環境破壊が懸念されていることを知り、2000年に「三番瀬を守る署名ネットワーク」に参加、その後事務局長に就任、ラムサール条約登録の早期実現を図るための活動を開始した。また、韓国、ウルグアイで行なわれた「ラムサール条約締結国会議」にNGOとして一般参加し、三番瀬の国際的認知度を高めるための運動も行なっている。

1.三番瀬の概要と環境保全活動

(1)三番瀬の概要

「三番瀬」は東京湾の最奥に位置し、浦安、市川、船橋、習志野の四市の東京湾沿いに広がる約1,800haの干潟・浅海域(水深5m以下)で、東京湾岸の90%以上が既に埋め立てられてしまった後に残された貴重な海域である。この地域は「江戸前」の漁場として400年以上の歴史を有し、600種以上の多様な生物が生息する非常に豊かな自然環境・漁場環境が維持されている。また国内外の約180種・10数万羽もの野鳥の飛来・中継地としても重要な位置を占めている。そのため、三番瀬は世界でも珍しい大都市圏内の自然湿地遺産といわれている。また、この三番瀬に隣接して、埋め立てされず残された旧海岸の跡地に、「谷津干潟・ラムサール登録湿地(習志野市)」、「宮内庁鴨御猟場を含む千葉県行徳自然保護地(市川市)」などの環境保全地、そして人工的な埋立地に造られたアミューズメントパーク「ディズニーリゾート(浦安市)」などがある。









(2)三番瀬の埋め立てと環境保護活動の歴史

1968年 千葉県市川地区、京葉湾地区埋め立て着工

1972~1973年 「東京湾埋め立て中止と干潟保全」請願、国会で採択

1990年 市川二期、京葉湾二期基本構想発表

1991年 「日本湿地ネットワーク」結成、三番瀬を含む東京湾湿地浅海域全域のラムサール条約
               指定を要望

1993年 市川二期、京葉湾二期基本計画発表。習志野市谷津干潟ラムサール条約登録

1994年 241団体が「三番瀬埋立て反対」の意見書を千葉県に提出

1996年 埋立て反対署名開始、「三番瀬を守る署名ネットワーク」結成

1998年 12万の署名を県知事に提出(数回提出、2002年累計署名 30万)

1999年 県は環境調査結果を踏まえ、埋立て縮小案を発表

2001年 「埋立て白紙撤回」公約を掲げた堂本知事が当選、三番瀬埋立て中止決定

2002~2006年 三番瀬再生検討会議・再生会議を経て「三番瀬再生事業計画」策定

2006年~ 「三番瀬ラムサール登録推進署名」開始。201214万、20151万署名を千葉県に提出したが、2012年、2015年のラムサール条約締約国会議では登録実現できず。

2009年 森田知事当選。三番瀬事業・関連組織などを縮小し、開発や調査等を主事業にする。

2011~2016年 再生事業第二・三次(20112016)策定。29事業のうち三番瀬の環境保全条例、ラムサール条約登録など環境保全事業はほとんど進展せず。

(3)三番瀬の環境保全・ラムサール条約登録関連活動

① 「三番瀬署名ニュース」誌: 年4回発行、22年間で現在まで87号配付

② ラムサール条約登録署名活動: 20062011年で14万署名、引き続き1万署名、計15万署名を201510月に千葉県知事に提出、その後も署名活動を継続中

③ 「三番瀬カレンダー」製作と寄贈: 20082015年、毎年4千部印刷、浦安、市川、船橋、習志野の公立小学校全クラスなどに計3千部無償寄贈を継続中

④ 三番瀬フィールドミュージアム観察会: 三番瀬を自然の博物館とみなし、鳥、生き物、植物などの観察会を20102013、計20回以上開催。2013年には県中央博物館で3年目の記念シンポジウムを開催、現在も実施中。

⑤ 三番瀬みなと祭り: 2005年以降毎年10月に船橋港周辺で実施。既に11回開催。参加団体3~50、約2~3万人が訪れるイベントで、継続実施予定。

⑥ 三番瀬で親子観察会: 2006年から夏休みなど計10回、数百人が参加。

⑦ 三番瀬市民調査: 浦安市と市川市境界の猫実川河口にある約5千平米の牡蠣礁周辺の生き物を調査、干潮時に年4~6回実施。年末には報告会実施。

⑧ ラムサール条約締約国会議への参加: 展示ブースでの三番瀬の紹介、署名受付。

⑨ その他の活動: 三番瀬、生物多様性、ラムサール条約などに関する講演会、イベント、セミナーなどを随時実施。2015年には200名が集まって野田市の市長からコウノトリの話を聞いた。

(4)三番瀬の環境保全再生の現状と問題点

戦後、わが国は経済・開発優先の政策で、海岸の埋め立てなどに関する法制度は整備されたが、生き物や自然環境保全などの法制度の整備は遅れている。そのため、ラムサール条約や生物多様性条約などの締約国でありながら、個別の地域では国立公園のような公的な保全・保護の規制がかけられていない限り、沖縄の辺野古の米軍基地のように知事の承認のみで直ちに海面埋め立てなどが実施されてしまうのが実情である。三番瀬も堂本前知事が2001年に行なった「埋め立て計画の白紙撤回宣言」により埋め立ては停止されているが、それから15年経った現在でも自然保護や環境保全のための法的・制度的な担保がないため、50年前に策定された第二湾岸道路建設計画の復活や、埋め立て計画停止解除などが行なわれ、豊かな三番瀬の自然環境が破壊され後世に引き継げなくなる恐れがある。過去15年に及ぶ「千葉県・三番瀬再生会議」と10年余続けられた再生事業実施によっても三番瀬の自然・漁場環境保全のための千葉県条例も手つかずの状況である。そのため、ラムサール条約は締約後40年の歴史があり、既に日本国内の登録地も50カ所を越え、千葉県内でも谷津干潟が登録後20年余の実績があることに鑑みて、三番瀬も登録地とすべく、前述のような活動を粘り強く継続している。三番瀬のラムサール条約登録活動は、1960年代に東京湾の埋め立てが開始されて約20年後の1991年に「日本湿地ネットワーク」の結成を機に開始された。三番瀬の奥2㎞にあり、埋め立てを免れた「谷津干潟」は市民の熱心な保護活動により、1993年にラムサール条約湿地に登録された。しかし、三番瀬は埋め立ては停止されたものの、環境保全条例はもとより、ラムサール条約登録もその後13年間全く進展していない。その主な理由は下記のような点である。

① 羽田・京葉地区を結び、三番瀬を通る50年前の第二湾岸道路計画の存在。

② 四市間の完全合意が得られない(特に市川市は人工干潟造成を希望)。

③ 三漁業組合(船橋、行徳、南行徳)が漁業優先で登録時期尚早論を主張。

④ 千葉県が①を優先し、②、③を理由に合意形成、登録申請に極めて消極的。

⑤ 堂本県政8年の後、森田県政の7年間で三番瀬事業体制の縮小化が進み、今後は平成28年度を三番瀬再生事業(第1次~3次、計11年間)の最終年度とすることを決定。

2006年~2015年の間のラムサール条約登録推進署名15万名(その後も継続中)の提出実績があっても、担当部課長の短期移動(1~2年)が多く、県による民意の認識も希薄。

⑦ 三番瀬に関連する公共事業も、大型石積護岸新設、市川新漁港建設、船橋海浜公園再構築など開発・建設が中心で、三番瀬海域の環境保全については関心が薄い。

(5)三番瀬のラムサール条約湿地登録によるメリットは何か?

三番瀬をラムサール条約湿地登録すると以下のようなメリットが生まれ、地域の活性化の起爆剤となる。また2020年東京オリンピック前に登録を完了すれば、オリンピック開催時の来客による相乗効果がさらに期待される。

① 三番瀬で獲れる魚介類や海苔などの海産物、三番瀬和食、関連グッズなどのブランド付加価値が上がる。浦安、市川、船橋、習志野、各市のイメージアップも図れる。

② 「東京湾のラムサール登録地・三番瀬エコツアー」による観光・見学などの訪問客が増える。浦安郷土博物館、市川行徳湿地、船橋海浜公園、習志野・谷津干潟(1993年ラムサール湿地登録)など四市四様の組み合わせも。また「ディズニーリゾート・三番瀬ツアー」による更なる集客増加が期待される。

③ 「ラムサール条約」や「生物多様性条約」関連の外国人の往来が増え、また国際会議などが開催されるようになり、この地域の国際化が進む。

④ 自然環境観察や漁業・産業、文化、歴史などに関わる施設が整備され、環境学習・教育などの向上が図れる。研究所や大学などの誘致も考えられる。

⑤ ラムサール登録地となっても、従来の漁業や潮干狩りなどに制限を加えたり、支障となることはない。覆砂や港湾整備などの漁業振興や再生事業に悪影響はない。また万一のため、港部分などを除いて申請することも可能である。いままで、内外諸国のラムサール条約登録(国内50カ所、世界2208カ所の登録地実績)で漁場が問題とされたケースはない。

2.「ラムサール条約」とは

(1)私のラムサールとの出会い

冒頭で述べたように、「イラン送電線プロジェクト」は40Vの架空送電線を海抜マイナス100mのカスピ海沿岸の発電所から海抜3千mのエルブルス山脈を越えてテヘランまで総延長500㎞に亘って建設する巨大プロジェクトであった。私はこのプロジェクトに従事するため1980年から1983年にかけてイランに駐在していた折に、カスピ海側のチャルース工事事務所の約60㎞西に位置する「Ramsar(現地では“ラームサル”と呼ぶ)」という漁業と観光で成り立つ人口約3万人の海辺の町を訪れたことがある。私が後に深く関わることになった「ラムサール条約」は、1971年2月2日にこの町で開かれた湿地保護に関する国際会議で採択された条約で、条約名に「ラムサール」(英語発音)の町の名前を冠することになったことを知った。

(2)「ラムサール条約」

ラムサール条約は前述の通り、1971年にイランのカスピ海沿岸の町ラムサールで採択された国際条約で、自然資源の保全と持続可能な利用に関する初めての地球規模の国際条約である。保全対象となる重要な湿地や河川が2国以上に跨ることや、多くの水鳥、蝶やトンボなどの昆虫類、カワウソなどの哺乳類など、移動性または渡り性の種が多く、これら湿地と生物の保全が国際協力を必要とすることから生まれた国際条約である。正式名称は『特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約』で、もともと水鳥の生息環境としての湿地保全と賢明な利用を重視していたことが条約名に反映されている。しかし、長年の議論の積み重ねの中で、湿地の保全と賢明な利用の「すべての側面」を視野に入れる方向に発展してきて、生物多様性の保全や人類社会にとって湿地生態系が極めて重要であることが国際的に認識されるようになった。このため、条約は湿地保全の枠組みの全体を視野に入れることを目指していることから、普段は「湿地に関する条約(Convention on Wetland)」または「ラムサール条約(Ramsar Convention)」と呼ばれている。条約の中心的なメッセージは「すべての湿地の持続可能な利用」であるが、条約国は条約の正式な名称の変更は考えていない。条約名にその起源を明記しておくこと、また条約名の変更手続きの煩雑さのためである。

条約事務局はスイスのグラン(Gland)にあるIUCN(The World Convention Union: 国際自然保護連合)内に置かれ、運営は条約事務局が行なっている。ラムサール条約自体は国連の環境関連の条約・協定のシステムの中には入っていないが、下記の各種条約とは「覚書」を交わし密接な協力関係を構築している。・生物多様性条約(CBD) ・世界遺産条約 ・国連気候変動枠組条約(UNFCCC) ・国連砂漠化対処条約(UNCCD) ・ボン条約(移動性野生動物種保全条約)

因みに、「ラムサール条約」の「条約前文(正文)」は下記のように書かれている。)

『締結国は、人間とその環境とが相互に依存していることを確認し、水の循環を調整するものとしての湿地の及び湿地特有の動植物特に水鳥の生息地としての湿地の基本的な生態学的機能を考慮し、湿地が経済上、文化上、科学上及びレクリエーショシ上大きな価値を有する資源であること及び湿地を喪失することが取返しのつかないことであることを確信し、湿地の進行性の侵食及び湿地の喪失を現在及び将来とも阻止することを希望し、水鳥が、季節的移動に当たって国境を越えることがあることから、国際的な資源として考慮されるべきものであることを認識し、湿地及びその動植物の保全が将来に対する見通しを有する国内政策と、調整の図られた国際的行動とを結び付けることにより確保されるものであることを確信して、次のとおり協定した。』

(3)湿地の分類・その評価

湿地は世界で最も生産性の高い環境の一つである。また湿地は生物多様性のゆりかごであり、水を供給し、光合成による無機質から有機物の生産の場を提供し、数え切れないほど多くの動植物種の生存を支えている。湿地には鳥類、哺乳類、昆虫類、魚類、そして無脊椎動物までが高い密度で集まる。湿地はまた植物の遺伝子バンクとしても重要で、例えばイネは一般的な湿地植物の一つであるが、人類の半数以上の基本食料になっている。日本が提唱している「伝統的な無農薬の里山田んぼ」では5千種以上の生き物が確認されている。2008年の韓国の第10回ラムサール締約国会議では日本の「水田決議」が採択され、数カ所の田圃がラムサール条約湿地として登録されている。なおラムサール条約では水深5m以浅の海域を保全すべしとしているが、これは水鳥類が魚や海藻類などの捕採食のために潜れる深さに基づいている。湿地の分類は下記のようになっている。

・ 海洋沿岸域湿地(潟、礁湖、サンゴ礁、マングローブ林などを含む)

・ 内陸湿地(湖沼、河川・渓流関連湿地、湿地林、高原湿地など)

・ 人工湿地(魚類など養殖池、灌漑農地、塩田、運河など)

湿地の面積は教科書的な文献によれば地球表面の4~6%と推定されている。開発計画などは主に経済的な価値判断によって決定されるため、湿地生態系の価値や恩恵を低めに評価してきた。しかし、最近の研究のいくつかは、人類に対する食料供給などの生態系サービス全体で年間33兆米ドル(約4千兆円)の経済的価値を人類に提供し、そのうち湿地が4兆9千億米ドル(約588兆円)をもたらしているとしている。

(4)ラムサール条約登録湿地

ラムサール条約では条約締約国が湿地を指定し、条約事務局へ通知する。指定された湿地は「国際的に重要な湿地に係わる登録簿」に登録される。現在同条約の締約国は168カ国で、登録湿地数は世界合計で2,208カ所、総面積210,734,269haで、日本国内では合計で50カ所、総面積148,002haとなっているが、辺野古や三番瀬などの広大な湿地が登録されないため、登録個数の割合には総面積が少ない。日本の登録第1号は釧路湿原(1980)、関東地区では谷津干潟、尾瀬、奥日光湿原、渡良瀬遊水地、芳が平湿地群(群馬県)、涸沼(茨城県)などがある。

(5)ラムサール条約登録湿地の基準(条約第2条2)

基準1. 自然度が高い、または希少・固有な湿地

基準2.絶滅危惧種などの生態学的群集を支えている湿地

基準3.生物多様性の維持に重要な動植物の個体群を支えている湿地

基準4.動植物の生息段階を支え、また動植物の避難場所となっている湿地

基準5.定期的に2万羽以上の水鳥を支えている湿地

基準6.水鳥の1種などの個体数の1%を定期的に支えている湿地

基準7.固有な魚類の個体の相当な割合を維持し、それが生物多様性に貢献している湿地

基準8.魚類の重要な食物源・産卵場・稚魚の成育場となっている湿地

基準9.鳥類以外の動物の個体数の1%を定期的に支えている湿地

三番瀬は上記の基準3ないし基準5が該当する。

(6)日本の条約登録湿地

日本の2015年現在の全登録湿地(50カ所)を地図上に示したものが下図である。

(7)ラムサール条約締約国と締約国会議

日本1980年にラムサール条約に加盟し、釧路湿原を条約湿地に登録することによって条約締約国となった。締約国は少なくとも1カ所以上の重要湿地を登録し、下記の主要義務を果たす必要がある。①条約湿原の登録、②すべての湿地の賢明な利用、③保護地域の設定と研修、④国際協力。

締約国会議は下記の通り3年ごとに開催されている。

第1回198011月イタリア、第2回1984年5月オランダ、第3回1987年5月カナダ、第4回1990年6月スイス、第5回1993年6月日本(釧路)、第6回1996年3月豪州、第7回1999年5月コスタリカ、第8回200211月スペイン、第9回200511月ウガンダ、第10200810月韓国、第112012年6月ルーマニア、第122015年6月ウルグアイ、第132018年ドバイ(予定)。私は韓国・昌原で行なわれた第10回会議とウルグアイ・プンタデルエステで行なわれた第12回会議に参加している。

3.第12回ラムサール条約締約国会議(COP12)参加報告

私が昨年6月に参加した南米ウルグアイでの条約締約国会議(COP12)の概要を報告する。

(1)ウルグアイ国の概要

ウルグアイ国の正式名称は「ウルグアイ東方共和国(Oriental Republic of Uruguay)」という。「東方」とは、この共和国が「ウルグアイ川の東方」に位置することを意味する。総面積176千平方㎞、人口3.4百万人で日本と地球の正反対側にある。国土のほとんどがパンパの草原地帯で、牧畜が盛ん。第1回ワールドカップ(サッカー)の優勝国。本会議の行なわれたプンタデルエステ(「東の岬」の意)のコンラッドホテルは1986年にGATTの「ウルグアイ・ラウンド」の会議が行なわれた場所である。

(2)COP12

COP12の公式テーマは「Wetland for our future(湿地は私達の未来を担う)」。公式ロゴには「カピバラ、ダイサギ、ガマ(蒲)」の湿性地動植物の組み合わせが使われた。会議には全締約国168カ国中の141カ国、代表342名が参加した。日本からは環境省内閣官房審議官及び専門官、農水省環境政策課員、外務省職員など4名が参加していた。参加者総数は873名であった。地元の学生・児童、一般見学者も含めると全参加者は1千人規模となった。

(3)NGOWWN(World Wetland Network)会議

各国のNGO55名が参加(米・加は欠席)した。私は会議での挨拶で「私達のNGOは、東京湾奥の三番瀬をラムサール登録するための活動を20年以上続けている。次回ドバイで行なわれるCOP132018年)での登録を目指して活動中である。会場のブースを訪れてもらいたい」と紹介した。会期中は毎朝約1時間の会議を行ない、本会議への答申書を作成した。NGOの代表者が湿地の保全活動においてはNGO・市民の関わりが極めて重要であることを各国政府に十分認識してもらいたいと強く訴えた。

(4)日本の新ラムサール条約湿地認証式

日本の環境省が主催で今回新たにラムサール条約湿地認証を得た下記の湿地の自治体代表者に対する登録証授与式と、環境省専門官による講演が行なわれた。①肥前鹿島干潟(肥前鹿島市)、②東よか干潟(佐賀市)、③涸沼(茨城 鉾田市、茨城町、大洗町)、④芳ケ平湿地群(群馬 中之条町)。

今回の新規認証を得た4カ所を含めて日本のラムサール条約湿地認証は50カ所となった。全世界では22カ所を加えて合計2,208カ所となった。日本は広域湿地を含めて100カ所の登録を目指すことを表明した。

(5)ラムサール湿地保全大賞(2015)

次のラムサール湿地保全大賞が与えられた。①「賢明な利用」:イスラエル、②「イノベーション」:セネガル、③「若者」:コロンビア、④「コミュニティー貢献」:アメリカ、韓国、他 計6件(6カ国)。

(6)展示ブース

合計28ブースが展示された。日本からは環境省、ラムネットJ(ラムサールネットワーク・日本)、WIJ(世界湿地連合Japan)、JAXAJICA、釧路市の計6ブースが展示を行なった。三番瀬はNPOラムサール・ネットワークJと共同出展した。また三番瀬の署名を募集した。イランのブースにも立ち寄って懇談し、COP13(ドバイ)の際のイラン訪問・再会を約束した。

(7)「エコツアー」参加

Maldonado州のLos Humedales自然公園の草原と湿地、北動物園と川などを見学した。ウルグアイは多数の河川、湖沼群、大草原、湿地に恵まれ、多くの野生動物が暮らし、野鳥は440種以上が生息・飛来する。そもそも、国名「ウルグアイ」は原語のグアラニー語で「鳥の住む川」を意味するとのこと。大草原には牛や馬が放牧され、至る所に獣糞が点在し、鳥がそこに集まる虫類をつつきに寄って来る。草原の樹木は鳥獣や強風に耐えるため棘のある低木が多い。高樹は豪州より輸入のユーカリと仏から輸入の松が道路、人家、公園などの周辺に植えられている。ツアーで観察できたのは野鳥37種、蟹数匹、牛馬約100頭であった。

(8)「田んぼ報告」

COP102008年、韓国)で行なった「田んぼと生物多様性」報告のフォローアップ・シンポジウムがラムネットの柏木代表をコーディネーターとして行なわれ、4カ国7人が発表した。

(9)ラムサールCOP12の主な決議の内容

決議番号

決議タイトル

概要

XII.1

財政及び予算事項

予算額を現状維持とした上で、2016-2018の予算を承認したもの。

XII.3

ラムサール条約戦略計画2016-2024

2016-2024のラムサール条約の実施の基礎となる戦略計画を承認したもの。戦略計画では「全ての湿地の保全及びワイズユース」を条約の使命とし、「湿地が保全され、賢明に利用され、再生され、湿地の恩恵が全ての人に認識され、価値付けられること」を長期目標とし、更に4つの目標と19の個別目標を掲げている。

XII.5

条約の科学技術的な助言及び指針の新しい枠組み提案

ラムサール条約の実施上必要な科学技術的な助言等を締約国等に提供する役割をもつ条約の科学技術検討委員会を再構成する手順を決定したもの。

XII,9

ラムサール条約CEPAプログラム2016-2024

湿地の保全やワイドユースを人々に促す手引きとして2016-2024年のラムサール条約のCEPA(情報交換、能力構築、教育、参加、啓発)プログラムを採択したもの。包括的目標として「人々が湿地の保全とワイズユースのために行動を起こすこと」を掲げている。

XII.10

ラムサール条約の湿地自治体認証

ラムサール条約湿地等を有し、湿地の保全・再生措置等を講じている自治体を認証する任意の枠組みの設置について承認したもの。

XII.13

湿地と防災

湿地生態系による防災上の役割を認め、湿地を基礎とした防災を国家戦略や関連政策等に組み込むことや、農地の災害リスクを評価すること等を締約国に奨励するもの。

Q & A

Q1: 三番瀬のラムサール条約登録がなかなか実現しない具体的な理由は?

A1: 先ず、県の政策が開発優先型で、一旦保全の網をかけてしまうと、その後の開発に支障が生じると考えていること。漁業振興と保全は両立するのだが。お台場のように護岸の先にきれいな砂浜を作って人が立ち入れるようにしたいのであろうが、その砂浜には生き物はほとんど住めない。人間の都合を優先するとそのような結果になる。10数年前から環境省が千葉県に数億円の補助金を出して三番瀬のラムサール条約登録申請をするよう促しているが、県は第二湾岸道路計画もあって当時の堂本知事も県議会を説得できず、条例も設定できないままになっている。漁業者側も、条約登録をすると、漁業再生事業ができなくなったり、不漁時の補償金などが支給されなくなるのではないかと恐れている。日本では、辺野古が典型的な例であるが、環境保全の網がかかっていない場所で開発計画が持ち上がると、往々にして、環境アセスメントがずさんなまま、県知事は容易に開発許可を与えてしまいがちである。どの自治体も環境保全には予算がつきにくい。

C1: 環境保全に国の政策や地方の利益が複雑に絡んでいることがよく分かった。

Q2: 「環境保全」と「経済目的開発」は論ずる哲学が互いに異なるので、それぞれから得られる利益を同一の場で議論して折り合いを付けることは大変難しい。何らかの手法でそれぞれの得失を数値化して、どちらが人間のために有益であるか比較できるようにすることはできないか?環境は一旦破壊されてしまうと、放射能汚染のように、復元するには膨大なコストがかかる。

A2: 前述の「2.(3)湿地の分類・その評価」の項で述べたように、世界全体の湿地の経済的価値は4.9兆米ドル(588兆円)と評価されるとする論文も最近出されている。このような数値評価をすることは重要である。

Q3: 大変活発な活動をしておられるが、活動資金はどのようにして調達されるのか?

A3: 原則手弁当であるが、会費、寄付金などで一部を調達する。最近は政府、自治体からの補助金も出るようになった。特に民間・企業からの寄付金も増えている。昨年は香港上海銀行(HSBC)が「ラムサールネットワーク・日本」に500万円を拠出、今年も同程度が予定されている。千葉県は「千葉県環境財団」を設立しており、我々も「三番瀬カレンダー」制作や「里山田んぼ」関係で年間数10万円の資金をこの財団から得ている。これら公的資金はむろん「埋め立て反対運動」には使えないが、「ラムサール条約登録」などの自然保護活動には使える。

Q4: ラムサール条約の原点は国際的な渡り鳥の保護のために国際条約で湿地を保全するところに発しているようだが、あまり多くの要素を取り込んだために複雑化しているのではないか?

A4: ラムサール条約は確かに移動性動物の保護からスタートしたが、よく調べているうちに、湿地から一番恩恵を受けているのは鳥よりむしろ人間であることが分かってきた。そのため、条約の基本戦略に「Wise Use = 賢明な利用)」「Sustainable Utilization = 持続可能な使用」を掲げることになった。

Q5: 湿地の自然観察会はどのような人を対象に、どのような宣伝媒体を使って募集しているか?

A5: 千葉県、中でも地元で隣接する浦安、市川、船橋、習志野の住民を中心に呼びかけをしている。媒体は会報、インターネット、市広報、新聞記事などによって広く宣伝している。TV番組でも三番瀬が度々取り上げられる。

Q6: 三番瀬の保護に国の分担金は出るか?環境保護運動をする人の高齢化が進んでいると思うが、世代交代は進んでいるか?遠い将来や、子どもたちのためにと言ってもなかなか理解されないのでは?

A6: 2001年に堂本知事が当選した頃は、出版物・カレンダーの発行費、イベントの開催費用などに県から年間500万円の補助金が出た。しかし堂本知事の二期目あたりから、第二湾岸道路計画がクローズアップされこの補助金はなくなってしまった。県議会で開発優先派が多数を占める現状では県による支援は難しい。開発計画と競合しない地域の環境保全には国の資金が出る。世代交代は、団塊の世代あたりにも声をかけているが、消極的で、あまり進んでいないのが現状である。

(記録:井上邦信)