第 4 3 0 回 講 演 録

日時: 2015年9月14日(月)13:0015:19

演題: 知って役立つ天気予報
講師: 気象予報士、健康気象アドバイザー、エコ・クッキングナビゲーター 橋詰 尚子 氏

気象予報士の国家資格を持っているが、その他に健康気象アドバイザーという民間の団体が出している資格も持っている。天気と健康、天気と身体に関する知識を有し、アドバイスができる資格である。数週間前に、東京ガスが出しているエコ・クッキングナビゲーターという資格を取った。食材選びから料理・廃棄までに関してアドバイスができる資格である。

今までいろいろな内容の講演を行っているが、今日は「美味しいとこ取り」でいろいろな要素を盛り込んだので、いろいろなことに興味を持っていただき、知識を広めていただきたい。①お気象キャスターの仕事、天気予報の作られ方、②天気予報のチェックポイント、③気象と身体の関係、④クイズをしながらお天気豆知識についての話をする。(記録者注:講演途中のクイズは最後に纏めて掲載した。)

1.気象キャスターの仕事とは

「テレビの気象情報画面は各社とも同じに見えるのですが、皆さんが考えて予報を出しているのですか?」という質問をよく受ける。全国のお天気マークとか予想最高気温などは、気象庁から晴は100、くもりは200といった番号で情報がテレビ局に送られ、テレビ局ではコンピュータの作画システムによって数分後には気象情報画面が作成されている。お天気キャスターの要望で変更できないので、各社とも同じ画面になっている。それではお天気キャスターは要らないと思われるかも知れないが、画面にないことについての説明や解説などはお天気キャスターに任されている。

(1)気象予報士とは?

最近のテレビやラジオのお天気キャスターにはほとんど気象予報士の肩書が付いている。気象予報士の資格は21年前に始まり、気象予報士は気象予報ができるお天気のスペシャリストである。それまで気象予報ができるのは気象庁に限っていたが、予報のための施設と気象予報士を抱えている事業者は天気予報を独自に出してよくなった。年に2回の国家試験があり、私は1999年春に資格を取り、登録番号は2429番である。現在は9,000人以上の気象予報士がいるが、お天気に関わる仕事をしている人はわずかである。

お天気キャスターが気象庁の予報を見ながらお天気の解説をするだけなら、気象予報士の資格は要らない。番組によっては気象予報士の資格を持たないタレントなどが天気予報をしている。ただ、気象予報士の肩書があった方が信頼感があり、災害などが起きたときに専門的なアドバイスができたり、ニュースで解説ができたりするので、今ではテレビやラジオのお天気キャスターは、ほとんどが気象予報士である。

(2)「おはよう日本」お天気キャスターの1日

TBSに4年、NHKに4年いたが、NHKでは20042008年に「おはよう日本」のお天気キャスターをしていた。当時「おはよう日本」の放送は4時半から8時13分までであった。1時半に起床し、3時頃にNHKにタクシーで出社していた。NHKに着くと気象の資料を見て今日のお天気を考え、スタッフやアナウンサーと打ち合わせ、解説に使うCGの発注をして、3時50分頃からメイクを始めるが、メイク時間は1520分くらいしかないため、メイクさんが髪形をやっている間に顔は自分でメイクしていた。メイクから戻ってきて新しい情報の確認を行い、番組に出演していた。

気象予報士は、私たちにとってなじみのある地上の天気図のほか、上空1500メートル付近や5000メートル付近など高層の天気図も見ながら予報をしている。上空の天気図を見るのは、雲のできる上空の風向き・気圧配置・温度を知らないと予報が分からないためである。気象予報士の資格を取るためには、こうした高層の天気図を見られる知識も必要である。

「おはよう日本」を担当していた4年間、いろいろな時間の天気予報を担当したが、20072008年の最後の1年間は天気予報を4回担当していた。5時15分からスタジオで比較的長い6分間の気象情報のあと、屋外へ出てNHKの前で中継での気象情報を3回やっていた。民放では中継での気象情報はよく行われているが、NHKでは私のときにスタートし、初の試みであった。中継天気が終わったあと反省会を行い、翌日の準備をして昼頃に帰宅していた。

中継天気は持ち時間が1分半くらいで、①雑感(外の様子、体感など)、②今日の天気解説、③今日の天気・気温、④週間予報、⑤ひとこと言って締める。

(3)お天気キャスターの「悩みどころ」

スタジオでの気象情報では、冒頭にテロップ表示を出して「今日の天気のポイント」をひとことで説明していた。このテロップは「できるだけ9文字以内で」ということになっていた。「悩みどころ」は、全国の天気を9文字以下で表すことである。全国的に晴れなら良いが、大体はそうはいかないので、特に注意が必要なところだけをポイントにする。そして、気象情報の最後に季節の情報やお天気の小ネタを紹介する「ここに注目!」というコーナーも担当していた。こうした小ネタの内容もお天気キャスターが考えている。何をポイントにするか、短く分かりやすく楽しいネタを考えるため、お天気キャスターは苦労している。

中継天気でも大変なことがいろいろあった。スタジオでは伝えられない体感を伝えることがポイントであるが、体感を伝えることは難しい。体感温度は湿度や風の強さによって変わるため、数字だけでは伝えられない。また先入観にとらわれると伝えられない。さらに、体感温度には個人差があり、「さほど寒くもないのに手袋して天気予報を伝えるな」というクレームもあった。そこで、「『私は』こう感じる」という言い方で伝えることを心掛けるようにした。地域による感じ方の違いもあり、今日は0℃で寒いのでしっかり伝えようと思っているときに、直前の中継が北海道からで「今日はマイナス10℃なので、いつもより冷え込みが弱まっています」と言われると、寒いと言いにくいこともあった。

そして、早朝の中継天気は何を写すかも悩み所だった。冬の朝5時前後の空は真っ暗で空を写しても何も写らない。天気マークを貼れる日本地図のボードは用意して貰ったが、それだけでは変化がない。そのとき思いついたのが小道具であった。机の引き出しの中には自前で用意した手袋、マフラー、日傘、雨傘、工作用のガムテープなどを入れていた。

スタジオで使われなくなったアイテムを再利用することもあった。現在は、タッチパネルを使って天気図などの画面にお天気マークを出すことができるが、それがなかった頃は、指し棒の先に天気マークを付けたものを使っていた。今では使われなくなったその棒が山積みになっていたので、それを外に持ち出して使うことにした。中継用の機材を準備するスタッフに手伝って貰い、私の合図に合わせて画面に写るように晴マークなどを出して貰っていた。

また、偶然NHKの前の代々木公園でラジオ体操している団体を見つけ、お願いして背後に写り込んで貰ったこともあった。

夏は日焼けと虫に悩ませられた。朝でも3時間ほど外にいるとかなり日焼けをしてしまうので、対策が必要であった。蚊も多く、蚊取り線香と虫よけスプレーで蚊と戦いながらの中継であった。

冬は外で3時間動かずに立っていると、脚がガクガクして口が回らなくなる。LLLサイズのダウンコートを買って貰い、中継で着るコートの上にそれを着て待機していた。脚は雪山登山用のブーツで待機し、中継のときに普通のブーツに履き替えていた。

(4)お天気キャスターの「やりがい」

お天気キャスターの良い点は、自分の言葉で伝えられることであると思った。単なる出演者でなく、気象予報士という専門家として、解説については助言を得ることがあるものの任されており、画面作りもでき、1分半のコーナーのディレクター的役割も果たすことができる。

2.天気予報のチェックポイント

(1)集中豪雨と局地的大雨(ゲリラ豪雨)

どちらも限られた地域で、短時間に多量の雨が降る現象である。「多量の雨」に明確な定義はないが、概ね1時間雨量が50ミリを超えるくらいの雨である。集中豪雨は都道府県単位、あるいは2~3の都道府県にまたがるくらいの比較的狭い範囲で数時間から数日続く雨で、総雨量が大変多くなるため、土砂災害が発生したり、河川の氾濫が起きたりする。一方、局地的大雨(ゲリラ豪雨)は集中豪雨よりもっと一時的でもっと局地的である。総雨量はそれほど多くないが突然発生して予想が非常に難しいという特徴がある。ゲリラ豪雨の前触れを教えて欲しいと言われることが多いが、前触れがないからゲリラ豪雨である。ただ、起きるかも知れない状況はある程度分かるので、そのようなときは、いつ起きてもおかしくないと思って備えておくことが大事である。なお、「ゲリラ豪雨」とはマスコミ用語で、NHKや気象庁の予報用語では使われていない。

1時間当たりの雨量とそれぞれの雨の降り方は、下記の通りである。

○1ミリ・・・しとしと雨で、傘を差ささないとつらいと思う雨。傘を差さなくてもいい霧雨は00.5ミリ。

1020ミリ・・・ザーザー降りで、水たまりができて、ズボンが濡れる大雨。

3050ミリ・・・東京都で大雨注意報が出るレベルの雨(参考:目黒区では25ミリ以上)。バケツをひっくり返したような雨で、傘を差しても濡れ、寝ていても雨音で目が覚める。

50ミリ以上・・・東京都で大雨警報が出るレベルの滝のような雨(参考:目黒区では50ミリ以上)。傘を指しても役に立たない。マンホールから水が溢れたり、地下街に水が流れ込んだりする。

6畳の部屋に1ミリの雨が降ると、水の量は約10リットル、2リットルのペットボトル5本分である。50ミリの雨が降ると、約500リットル、ドラム缶2.5本分になる。たとえ短時間であっても大量の水となる。この雨が低い土地や小さい川に流れ込むと一気に浸水したり、溢れたりしてしまう。

最近ゲリラ豪雨が増えている。右図は、気象庁が雨量などを観測するアメダス(全国に約1,300か所設置)のうち1,000地点の平均で、1年間に50ミリ以上の雨を観測した回数を示したものである。19762014年の統計を見ると多い年と少ない年があるが、傾向として少しずつ増えている。増えている原因は地球温暖化とヒートアイランド(都市部の気温が上がる現象)といわれているが、いずれも直ぐに解決できる問題ではないので、これからも増え続けると予想される。

(2)雨雲

雲は形や高さなどで10種類に分類されている。その内、右図の2種類が雨雲である。乱層雲は薄雲が段々厚くなってきて、シトシト雨からザーザー降りへと変わっていく。一方、積乱雲は夏の入道雲で、晴れていたのに急に激しく降る。雲は上空1~2㎞から10数㎞までの様々な高度にある。ヒツジ雲(高積雲)は5㎞付近、イワシ雲やウロコ雲(巻積雲)は10㎞付近でできる。乱層雲は1~2㎞程度の低いところにできるのに対して、積乱雲は1~2㎞から10数㎞まで広がっている。したがって、積乱雲に含まれる水の量は多く、5㎞四方の積乱雲にはおよそプール100杯分の水が含まれている。

(3)大雨を引き起こす要注意の気圧配置

気象予報士が見て危険だと思う三大天気気圧配置は次の三つである。①「台風が近づいているとき」→これが危険なのはみなさんご存じだと思う。問題は次である。②「台風が台湾やフィリピン付近などにあって近付いていなくても、梅雨前線や秋雨前線が日本付近にあって、日本の南側の太平洋に高気圧があるとき」→台風が離れていても、台風の周りの湿った空気が前線に向けて流れ込んでくるので雨雲が発達しやすい。③「発達した低気圧と、そこから伸びる寒冷前線が通過するとき」→爆弾低気圧という言葉がある。マスコミ用語だが、急速に等圧線が混んできて台風並みに発達する低気圧で、冬から春にかけて日本海を進むことが多い。このときは、低気圧の近くだけでなく、寒冷前線付近で大雨や突風が発生する。

大雨は、天気図だけでは分からないこともある。お天気キャスターが次のようなことを言っているときは注意が必要である。

①上空に寒気が入っているので、大気の状態が不安定である。

②地上に暖かく湿った空気が流れ込んでくる。

いろいろな情報を組み合わせて、正しく読み取ることが大事である。

低いところに暖かい空気があって高いところに冷たい空気があると、暖かい空気は冷たい空気より軽いので上昇して冷やされる。すると水蒸気が水や氷になって雲になって雨が降ることになる。強い暖気の上に強い寒気があれば、上昇気流が強くなり、より雲が発達して雨が強くなったり雷が鳴ったりする。

(4)降水確率

クイズ(1) 過去に同じような気象条件が100回あった場合、1ミリ以上の降水があったのは何回かをコンピュータで調べて降水確率を出している。雨の強さは降水確率には反映されていないので、降水確率からは、強い雨か弱い雨か分からない。

またテレビなどの天気予報で見る傘マークは、「雨」では大きく、「くもり時々雨」では同じくらい、「くもり一時雨」では小さいが、マークの大きさは雨の降る時間の長さを示しているのであり、雨の強さを示すものではない。ゲリラ豪雨のときは「くもり一時雨」でも非常に強い雨が降る。さらに傘マークが出ていなくても「くもり時々晴、所により雨で雷を伴う」というような予報は要注意。雷と豪雨と突風はセットで起きることが多いので、雷が予想されていたら危険な天気と思って戴きたい。雷注意報が出ているときは、警戒レベルである。注意報だと大丈夫で警報だと危険と判断する人もいるが、雷に関しては警報がない。

(5)雷の対策

豪雨と雷、雹(ひょう)、竜巻・突風、河川の増水・低地の浸水は同時に起きる可能性が高い。

雷鳴が聞こえたら直ぐに避難していただきたい。雷光と雷鳴の間が30秒なら雷雲は自分から約10㎞離れている。雷雲の速度は状況によって違うが、平均的には一般道の自動車と同程度の速度である。真っ直ぐ自分に近づくと10分から20分でやってくる。避難するときは建物か車の中に入っていれば安全である。ただし窓枠など外に繋がっている金属類には触れないこと。パソコンの電源を切り、できればコンセントやケーブルを抜く方が安全である。何もない平坦な場所なら、できるだけ姿勢を低くして、樹木から離れること。樹木は電気を通しにくいので、樹木に落ちた雷は、近くにいる人間に飛び移りやすい。高い樹木は避雷針の役目をするといわれているのは間違いではないが、安全なのは高い樹木の先端から45°以内で、樹木の枝や葉など全てのところから最低でも2m、できれば3~4m離れること。高い木がなければ、木から離れた方が安全である。

(6)河川の増水・氾濫

2008年7月28日に神戸市の都賀川では急激に川の水が増水し、川の近くにいた人が流されて5人も死亡した。このときは10分間で1.3mも水位が上昇した。大河川が氾濫すると甚大な被害が発生するが、身近にある中小河川も危険である。中小河川は川幅が狭いために水が横に広がる余地がなく、フラッシュフラッド(瞬発性洪水)が起きやすい。前兆を知って備えることが大事である。

クイズ(2) 河川の氾濫には前兆がある。①雨が降っていないのに水かさが増えてきたときは要注意で、下流で降っていなくても上流で大雨が降ったら増水する。②水が濁ったり、流木や落ち葉が流れてきたりするときは、上流で大雨が降っている可能性がある。③水かさが急に減ったときには、鉄砲水の可能性がある。鉄砲水とは上流の大雨による流木や落ち葉で一時的に川が堰き止められ、それが決壊して一気に流れ込むことで、急激に増水するため大変危険である。

危険な場所は、当然ながら川の近く、道路のアンダーパス、地下街、地下ガレージなど。川の近くと低い土地が危険なので、これらの場所に近付かないようにすることが大事である。

大雨が起きる可能性があるときには、気象レーダーを活用して欲しい。気象庁のほか、国土交通省や東京アメッシュのレーダーもあり、パソコンはもちろんスマートフォンでも見ることができる。レーダーを見るときには、自分のいるところだけでなく、川の上流側に雨が観測・予測されていないかも確認する。また、気象庁のホームページで公開されている「降水短時間予報」では6時間先まで雨雲の動きを1時間ごとに高い精度で見ることができ、「降水ナウキャスト」では1時間先までの雨雲の動きをより高い精度で10分ごとに見ることができる。さらに250mメッシュという非常に高い精度で見ることがでる「高解像度降水ナウキャスト」もある。これらを使えば、ゲリラ豪雨を予測できることもある。

(7)竜巻

雨が降るときには、雨とともに空気が降りてきて下降気流が発生する。そのため雨が降って暫くすると、普通は雨雲が消える。しかし竜巻やダウンバーストという突風をもたらす積乱雲は非常に大きく、上昇気流で雨の素を補充するところと下降気流で雨を降らすところが分かれる。雨が降っても一方で補充されるため、積乱雲はなかなかなくならない。下降気流のところでは、雷が鳴って雨や雹(ひょう)が降り、ダウンバーストという突風が起きやすくなる。上昇気流のところで竜巻が起きる。雨の降っているところで竜巻は起きないが、近くで起きている。

竜巻やダウンバーストが予想されると気象庁から竜巻注意情報が出される。 クイズ(3) 竜巻注意情報の適中率は平均すると5~10%である。最近はスマートフォンの普及などで竜巻の映像がとらえられるケースが増えてきたとはいえ、竜巻は局地的な現象のため観測では捕らえられにくく、メカニズムが明確でなく、予想が難しい。

竜巻などの突風が予想されるときには、前日や当日朝に風や雨の情報とともに気象情報が出され、数時間前には雷注意報が出され、1時間前には都道府県単位で竜巻注意情報が出される。竜巻注意情報が出されたときには、気象庁のホームページで見られる「竜巻発生確度ナウキャスト」(ナウキャストには、他に前述の降水ナウキャストと雷ナウキャストがある)と実際の空の変化を見るのが良い。東京都に竜巻注意情報が出たとき、竜巻発生確度ナウキャストは地図表示となっているため、東京都全体に竜巻注意情報が出ているときに、東京都の何処でいつ頃起こる可能性が高いかを見ることができる。あとは自分で空や周りの様子を見るようにして欲しい。真っ黒い雲が広がってきたり、雷の音が聞こえたり、冷たい風が吹いてきたり、大粒の雨や雹(ひょう)が降ってきたりしたときは、大きな積乱雲が近付いてきているサインである。

竜巻が起きたときには、車やプレハブの建物は簡単に飛ばされるので、避難する場合は、頑丈な建物の1階か地下に入るのが良い。窓ガラスは割れる可能性があるのでできるだけ窓のないところにいること。建物に入れない場合は、車に入るより頑丈な建物の陰の方が安全である。

(8)まとめ

災害は一気に、急にやってくる。10分で天気は急変する。知識、準備、情報収集が自分の生死を分ける。自分の身を守る情報は与えられるものではなく、自ら収集するものである。気象情報は新しいほど確度が高いので、こまめに気象情報を確認することが大事である。

3.気象と身体の深い関係

(1)生(せい)気象学

生気象学とは、気象と人間の暮らしとの関わりを研究する学問である。ここでいう気象とは、気候・季節・天候・自然環境など自分を取り巻く自然要素のすべてを指す。生気象学の研究者には、気象の専門家のほか、医者、住宅や被服や動物の研究者などいろいろな人がいる。

学問というと難しく感じるかもしれないが、「変わりやすい天気が続いて、身体の調子が悪くなった」とか「春になると、どうしても花粉症に悩まされてしまう」とか「秋になると、むしょうにチョコレートが食べたくなる」などは、すべて生気象の範疇である。

日本でも最近は生気象学の研究が進んできたが、先進国はドイツである。昔から「BIO WETTER」という医学気象予報のサイトがあり、心筋梗塞や片頭痛など疾病を選ぶと地域ごとに危険度が分かる。

(2)気象が引き起こす病気

気象病と季節病がある。気象病は気象の変化に対応できずに発病する病気で、気管支喘息、リュウマチ、心疾患、脳血管疾患などがある。季節病は一定の季節に多発する病気で、花粉症、熱中症、インフルエンザ、心疾患、脳血管疾患などがある。気象病と季節病の両方に該当する疾病もある。

(3)気象病

気象病を引き起こす気象要素には、気温、気圧配置、湿度、日照時間、風向・風速等々がある。

この中で気温が一番大きなポイントである。気温の変化と高低差は身体に大きく影響する。2014年の東京の最高気温は36.1℃で最低気温は-1.3℃で、その差は37.4℃であった。大阪では差が37.6℃で、札幌では47.0℃であった。このような差があるにもかかわらず、人間の体温はほぼ36℃に保たれている。私たちは意識していないが、体温を維持するために身体は非常に頑張っている。身体は二つの体温調節をしている。行動性体温調節は、服を脱ぐ、冷たいものを飲む、服を着る、暖かいものを口にする、身体をかがめて歩くなどである。自律性体温調節は、汗をかく、震えるなどで、意識せずに行っている自律神経による体温調節である。体温の調節能力が限界を超えると、熱中症、心不全、心筋梗塞、脳卒中になったりする。前の日と比べて大きく気温が変化する日、1日の中で大きく気温が変化す日は要注意である。

次に気圧配置についてであるが、その前に天気図を見る際の基礎知識を紹介する。高気圧は何ヘクトパスカル以上という定義がある訳ではなく、周りの気圧より高いところが高気圧であり、周りの気圧より低いところが低気圧である。前線は暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合っているところである。性質の異なる空気がぶつかり合うとき、空気は簡単には混ざり合わず、境目に前線ができる。つまり前線が通過するときには空気が大きく入れ替わる。寒冷前線が通過するときには、冷たい空気が入ってきて、高血圧症、狭心症、リウマチ、関節炎、ぜんそく、腹痛などが起きやすくなる。一方、温暖前線が通過するときには、低血圧症、血栓症、塞栓症、心臓不調、気分落ち込み、集中力不足、頭痛などが起きやすくなる。

次に風であるが、風速が1m増すと体感温度は1℃下がるといわれている。気温0℃で無風のときと、気温5℃で風速5m/秒のときの体感温度はほぼ同じということになる。特に冬は気温だけでなく風の強さも確認して、マフラーや手袋で風が入り込まないようにすることで体感温度が変わる。

もう一つ体感温度に影響を与えるのが湿度である。湿度が10%上下するごとに、体感温度は1℃上下する。夏は気温があまり高くなくても湿度が高いときには熱中症になりやすいので、湿度もチェックする必要がある。

(4)季節病

クイズ(4) 日本では夏と秋にお祭りが行われる。秋のお祭りは実りに感謝するものが多いが、夏のお祭りは無病息災を願って行われるものが多い。例えば京都の祇園祭は疫病を鎮めるための御霊会(ごりょうえ)が始まりである。夏に無病息災を願うのはピンと来ないかもしれないが、季節病に変化があったためである。たとえば、明治から昭和初期に多く見られた死につながる病気は、結核、冬に肺炎、夏に胃腸炎であったが、戦後は食品の冷凍・保存技術が進歩したため胃腸炎で亡くなる人が少なくなった。現在多く見られる死につながる病気は、がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎である。季節に関係ないがんを除いて冬の季節病である。

主な季節病には下記のようなものがある。

春・・・花粉症(スギ、ヒノキ)、ノイローゼ、五月病、自殺

夏・・・熱中症、冷房病、食中毒

秋・・・花粉症(ブタクサ等)、食べ過ぎ、関節痛

冬・・・インフルエンザ、肺炎、気管支炎、心疾患、脳血管疾患

今回は、秋から初冬に掛けて起こりやすい季節病のうち、あまり重篤でない二つの病気について話す。まずは「関節痛」。古傷痛や関節痛は低気圧と関係しているといわれるが、痛さの程度は本人にしか分からないので研究が難しい。一般的には数日から季節単位で傾向が見られ、梅雨の時期や秋雨の時期や冬に悪化する人が多い。古傷や関節が痛む気象条件として個人差はあるが、①雨が降る直前、②暑くなるときや寒くなるとき、③前線の通過時、④寒冷前線の通過直後、⑤温暖前線の通過直前が多い。急な冷え込み、気圧の変化、湿度の上昇の三つの要素が揃うとき、つまり雨が降って急に冷え込むときは要注意である。関節痛の予防・対策は痛むところを温めて、身体全体を冷やさないようにすることである。天気予報をチェックして、急に冷え込むときには対策をしいておいていただきたい。

次に「食べ過ぎ」について、秋に食欲が増すのは何故か?季節と食の好みは大きく二つの時期に分けられる。冬から夏に掛けて気温が上がっていくときは、体温を維持するのに必要な基礎代謝量が段々減少するので、身体は栄養を摂らなくてもよいと判断し、食欲が減退する。それに対して、夏から冬に掛けて気温が下がっていくときには基礎代謝量が段々増えるので、身体はカロリーを摂らなくてはいけないと判断する。現代では暖房など防寒対策もあり、エネルギーはそんなに必要でないのに身体は食べたがるので、結果として太ってしまう。

クイズ(5) 満腹中枢は食べ始めてから20分くらいしないと働かない。早食いには注意し、少なくても20分くらい掛けて食事をしよう。食事の初めに水や汁物を飲むと空腹が落ち着いて食べ過ぎや早食いを防止でき、よく噛んでゆっくりと最低20分掛けて食べると満腹感を味わうことができて食べ過ぎを防止できる。

(5)気象病と季節病を防ぐポイント

気象病と季節病を防ぐポイントは、天気予報を確認して危険を知り、あらかじめ対策をしておくこと。そして、多少の気温変化や気圧変化なら、身体は耐えられるようにできている。しっかりと睡眠をとり、バランスの取れた食事を摂り、天候や季節の変化に負けないような身体作りをしておくことが大切である。

4.お天気豆知識

(1)天気予報の発表

クイズ(6) 今日、明日の天気予報は通常1日に5時、11時、17時の3回発表される。17時だけは今日、明日、明後日の天気予報が発表され、週間天気予報は11時と17時の2回発表される最新の予報を知りたい時は、5時過ぎ、11時過ぎ、17時過ぎに、177番に電話したり、気象庁のホームページを見たりするとよい。ニュースでは、6時前、お昼前、夕方6時前の天気予報を見ると、最新の予報を確認できる。

(2)数値予報のしくみ

天気予報は数値予報によって出されている。数値予報とは風や気温などの時間変化をスーパーコンピュータで計算して将来の大気の状態を予測するもの。地球の表面と上空を立体的なメッシュにし、そこに実際に観測した気圧、気温、風などの情報を入れることで、それぞれの格子点の将来の状態を予想していく。観測値は格子点のすべての情報が手に入るわけではないので、手に入った情報を基に、コンピュータが格子点の値を解析している。

そして、気象庁の予報官や民間気象会社の気象予報士がスーパーコンピュータの出した結果を分析、修正して「天気予報」として発表している。

(3)時を表す天気予報のことば

クイズ(7) 予報用語では、0~3時は未明、3~6時は明け方、6~9時は朝、9~12時は昼前、1215時は昼過ぎ、1518時は夕方、1821時は夜のはじめ頃、2124時は夜遅くとなっている。

(4)雨粒の形

クイズ(8) 雨粒は表面張力で球形になろうとするが、上空から落ちる際、空気抵抗によってまんじゅう形になる。空気抵抗を受けないほど小粒の雨粒は球形である。

Q & A

Q1:現状の気象観測は、どのように行っているか?

A1:地上では約1,300地点のアメダスの情報と、気象台による観測。そして気象レーダーによる観測。海上は一部の船舶からの情報と観測用のブイからの情報がある。上空は、全国16か所の気象官署と南極の昭和基地でラジオゾンデという観測機器を積んだ気球を1日2回飛ばしており、上昇とともに気圧、気温、湿度、風向・風速等を観測している。そのほか、気象衛星「ひまわり」や、上空の風を測定するウィンドプロファイラによる観測もある。そして世界中の観測データがリアルタイムで集められる。観測データは北半球が多く、海上は少ないなど偏っているが、集まる限りの情報を基に解析を行っている。

Q2:竜巻の予測について、①日本では地球温暖化によるといわれているが、専門家の間ではどう考えられているか?②平坦なところで発生しやすいと考えられているが、正しいか?③竜巻は上空で起こり、地上に近付いて被害が発生すると思われるが、凸凹のあるところに逃げれば良いか?

A2:①最近竜巻が増えているか明確でない。竜巻は局地的に起きているので、すべてを把握できないが、最近はスマホで撮った情報を流せるようになったため、多くなった印象を与えている。ただし積乱雲は地球温暖化やヒートアイランド現象で発達しやすくなるので、竜巻も起きやすくなると考えられる。②平坦なところで起こりやすいといわれているが、理由は明確でない。凸凹した地形では風が遮られて発生しにくいといわれているが、研究段階にある。世界的にみると中緯度で起こりやすい。③頑丈な建物か地下に逃げ込むのが良い。

Q3:気象衛星「ひまわり8号」の写真は上空の観測データに反映されているか?

A3:反映されている。「ひまわり」が撮っている画像には可視画像、赤外線画像、水蒸気画像がある。可視画像は上空から撮影した写真と思っていただくと良い。太陽光が当たらない夜間は写らない。私たちがよく見ているのは夜でも撮影できる赤外線画像。気温の高いところは黒く、冷たいところは白くなる。上空高いところにある雲は温度が低いので白く写り、低いところにある雲は温度が高いのでうっすらと写る。水蒸気画像は、水蒸気の多いところが白く写るので、湿った空気のあるところが分かる。

Q4:雷はほとんどがマイナスで、山陰地方に多い冬季雷はプラスであるが、その原因について最近の研究で分かってきたことがあるか?

A4:雷のできる細かいメカニズムについては未だ解明段階にある。冬の日本海側の雷雲は低いところにでき、積乱雲でできる雷とはメカニズムが異なるようである。詳しくは雷の専門家に聞いていただきたい。

Q5:地球温暖化に関し、気温はどのように測って平均気温を出しているのか?

A5:日本では都市化の影響が少ない15地点を選んで平均気温を出している。世界の気温については、2000年まではアメリカの海洋大気庁気候データセンターが整備したデータ、2001年以降は気象庁に入ってきた世界各地のデータ(約10001300地点)をすべて使用している。

Q6:①お天気キャスターの服装には制約があるか?②小道具などは自分で考えて用意するのか?

A6:①東京のNHKには衣装部があり、衣装はNHKが持っている。1週間に1度、スタイルストさんと衣装合わせする。着るものは日ごとに一応決められているが天気によっては入れ替えることもあり、大きな事件や災害があったときのために、予備として落ち着いた色合いのものを1着用意している。TBSのときは、アパレル会社と契約しており、衣装提供して貰っていた。汚さないように着て返すが、気にいったものは買い取ることもできる。ちなみに数年前にNHKの地方局で気象情報を担当していた知人からは、衣装は自前だったと聞いている。②番組による。私はほぼすべて自分で用意していたが、スタッフと相談して準備、作成するケースもある。

Q7:お天気キャスターが「今日は夕方に雨が降るでしょうから、傘をお持ち下さい」などと言うことがあるが、一般の情報機関が視聴者に対して命令形を使うのは安易ではないか?

A7:お天気キャスター時代に同じような意見を戴き、ブログで大討論大会になったことがある。「降水確率を伝えてくれれば自分で判断する」と言う人もあり、「慌ただしい時間に見ているので言ってくれた方が分かりやすい」と言う人もあり、永遠のテーマだと思う。いろいろと考えた結果、「持って行った方が良いでしょう」と言ったりした。私がたどりついた結論は、それぞれのお天気キャスター個人が判断して一番良いと思う言い方をすべきだということ。私の場合は、「私はこう感じる」とか「こうすると役に立つ」という言い方を心掛けた。

Q8:天気予報が外れてクレームがあったときには、どのような対応をするか?

A8:天気予報が外れたときに、お天気キャスターが謝るべきかについても論議のあるところである。その時点で一番確度の高い情報を伝えたので結果に対して謝る必要はないとするキャスターもいれば、可能性があったが十分に伝えられなかったので心情的に謝るキャスターもいる。これもそれぞれのキャスターの判断で良いと思う。ちなみに、気象庁でも予報の精度に応じて発表の仕方を変えている。季節予報は精度が低いため、確率予報という形で出している。たとえば気温については、「暑くなる」「寒くなる」とは言い切らず、「平年より高い確率」「平年並みの確率」「低くなる確率」をそれぞれパーセンテージで出している。また週間天気予報では、信頼度に応じてABCの表示が記されている。

ク イ ズ

(1)強い雨が降るのはどちら?

①降水確率100%のとき ②降水確率30%のとき ③分からない

(2)河川の氾濫の前兆は?

①雨が降っていないのに、水かさが増えてきた ②大雨なのに水かさが急に減った

③水が濁ってきた ④流木や落ち葉が流れてきた

(3)「竜巻注意情報」の適中率はどれくらい?

①1~2% ②5~10% ③2030% ④5060

(4)夏祭りはどういう意味で行われていた?

①無病息災 ②五穀豊穣 ③雨乞い

(5)満腹中枢が働き始めるのは食べ始めてどれくらいから?

①5分くらい ②20分くらい ③1時間くらい

(6)きょう、あすの天気は1日に何回発表される?

①1回 ②2回 ③3回 ④4回

(7)「夕方」とは何時?

①午後3時から5時 ②午後3時から6時 ③午後4時から5時 ④午後4時から6時

(8)雨粒の形は?

①球形 ②縦長 ③まんじゅう形 ④しずく形

(記録:池田