第 4 0 4 回 講 演 録

日時: 2013年2月5日(火) 13:00~14:50

演題: 人工衛星による宇宙利用 ~宇宙からみた地球~
講師: 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙利用ミッション本部
                                                          地球観測研究センター 参与 石戸 喜夫 氏


§1.日本の宇宙開発の歴史

自己紹介を兼ねて説明する。1971年に当時の宇宙開発事業団に入社したが、現在は三つの機関が統合されて宇宙航空研究開発機構(JAXA)となり、日本の宇宙開発の中枢機関という位置付けになっている。入社後、ロケットや人工衛星の分野で仕事をしてきた。

日本では入社した1970年頃に小型のロケットを開発しており、鹿児島県種子島の宇宙センターで実験や気象観測を行っていた。鉄砲が最初に伝来した種子島にロケット打上場ができたのも、何かの縁かも知れない。現在はここに日本一の大型ロケット発射場が整備されている。一方、アメリカでは1970年代には人類を月に送るアポロ計画が始まっていた。宇宙船で月に降り立ち、岩石の収集等を行っていた。このように、1970年代における日米の宇宙開発の内容は、較べものにならない程大きな差があった。

本日のテーマである地球観測の分野では、アメリカは1970年代に陸域観測衛星「ランドサット」を打ち上げていた。日本は10年遅れて、海洋観測衛星「もも」を打ち上げた。衛星からの地球観測データを受信、処理し、観測データの利用研究をする地球観測センターを埼玉県鳩山町に建設した。地球観測センターには大きなアンテナが三つあり、衛星からのデータを受信したり、衛星に指令を送ったりするために使用されている。ビルディング1にはデータを処理したり、受信したデータを保存・管理したりするコンピュータが沢山あり、現在保管されている国内外の地球観測衛星のデータは約30種類あり、容量は日本一である。ビルディング2は、センターができたときに建てたビルで、現在は展示室として使われており、一般にも公開されている。地球観測センターは春と秋に一般公開されており、1日当たり2千人程度の見学者がある。私はデータセンターの設立から携わってきたが、現在は筑波の地球観測研究センターに在籍している。

現在の宇宙開発分野は大きく分けて二つある。一つは宇宙システムの開発で、先日19機連続して成功したH2型ロケット、種々の人工衛星および国際宇宙ステーションである。もう一つは宇宙科学研究で、「はやぶさ」は太陽系外の惑星「いとかわ」の土壌サンプルを地球に持ち帰った。地球に戻るまでに音信が不通になるなど、色々なトラブルがあったが、相模原キャンパスの方々の努力により、感動的な帰還となった。

1990年から現在までに打ち上げられた衛星は15機で、内7機が現在地球を回っており運用段階にある。今後打上が計画されている衛星は5機ある。利用分野は、地球観測、通信および技術開発である。地球観測衛星には気候変動観測、地球温暖化対策、国土利用および災害監視の衛星がある。通信衛星には、放送、インターネットおよびGPSの補完(準天頂衛星)の衛星がある。技術開発衛星は将来の衛星利用の技術立証を目的にしたもので、大型バス、光通信および東南アジア全域をカバーする大型アンテナの開発を行ってきた。

社会インフラとしての人工衛星は、災害・危機管理情報収集通報システムをイメージすると、衛星群(地球観測衛星、通信衛星、測位衛星)のデータを地上に送り、携帯電話やパソコンで情報を収集できるようにすることが目的である。例えば、東日本大震災のときには、飛行機を飛ばすよりも衛星で観測した方が早いことから、海外の衛星からの情報も含めて沢山の情報を提供した。また、地上の通信インフラが破壊されたので、通信衛星が情報伝達に使われた。測位衛星はアメリカが打ち上げたGPS衛星で、カーナビなどに利用されているが、将来的には日本でGPS衛星を打ち上げて自前で測位ができるように計画している。このように宇宙技術は我々の生活を便利にし、災害時には生命や財産を守るのに役立つものである。

宇宙基本法は平成20年5月28日に議員立法で制定された。「宇宙の平和利用」、「人類社会の発展」、「国際協力等の推進」、「環境への配慮」の四つの理念に、「国民生活の向上」と「産業の振興」が加わった。このことは研究開発主体から宇宙利用へ転換を図ることを意味する。法律に基づいて、新しい宇宙開発体制ができた。従来は文部科学省と総務省とJAXAが三位一体で推進していきたが、新しく経済産業省が加わり、司令塔機能として内閣府に宇宙戦略室ができた。宇宙戦略室に宇宙戦略委員会ができて、10年スパンで宇宙基本計画の策定が行われ、当面の5年間は詳しい計画が策定され、予算と計画の整合が取れることになった。JAXAは四つの省庁の監督を受けることになったが、主務大臣は内閣総理大臣である。

§2.地球周回衛星利用の重点化

1.地球環境観測プログラム

(1)気候変動

海水面の温度分布が観測され、日々の天気予報や気候変化の予測に利用されている。海水面の温度変化は余り大きくないが、2006年のエルニーニョ現象のときには、エルニーニョ監視域の温度が平均より高く、日本は冷夏となった。一方、2007年のラニーニャ現象のときには、エルニーニョ監視域の温度が平均より低く、日本は猛暑となった。

(2)地球温暖化

二酸化炭素濃度の分布が人工衛星で観測されている。2010年と2011年の5月と8月の二酸化炭素濃度を比較すると、8月より5月の方が高く(季節変化)、2011年は2010年より高く(経年変化)なっている。

(3)国土利用

アマゾンの森林伐採が観測されている。かなり広大な地域で伐採が進んでいることが分かる。森林は二酸化炭素の吸収源で重要な役割を担っている。特にアマゾンは広大なので「地球の肺」と呼ばれているが、大切な肺に穴が開いた状態になっている。

(4)災害監視

東日本大震災では、災害前後の画像から海水の冠水域が分かる。衛星は広い地域が一度に観測できるので、被災状況の把握に威力を発揮する。

2.災害監視・通信プログラム

地球観測衛星と通信衛星の統合的な利用を目的にしており、次のような特徴がある。災害の影響を受けない人工衛星は防災に非常に有効である。多様な地球観測衛星と通信衛星の連携により、エンドユーザに迅速に情報を提供することが可能になり、特に災害時には国、県、市町村での情報の共有が可能になる。現在利用できる通信衛星には、衛星間の通信をするデータ中継衛星「こだま」、宇宙空間でインターネットの交換を行うインターネット衛星「きずな」、東南アジアをカバーする通信衛星「きく8号」がある。

災害は何処で起こるか分からず、宇宙からの監視が有効であるが、地球全域で監視するために国際的な枠組みができている。宇宙機関相互の連携では、国際災害チャータやセンチネルアジア(アジアの監視員)の活動を行っている。実際に情報を防災機関に使ってもらうためには、防災機関と宇宙機関の連携が必要で、観測データの提供、情報の共有および人材の育成を協力して進めている。最終的には災害情報が地元住民やNPOへ提供されることになるが、情報が有効に活用されることが期待されている。

3.衛星測位プログラム

衛星測位で有名なのはアメリカが運用するGPS(全地球航法衛星システム)で、日本ではカーナビゲーションで多く使用されている。GPSと組み合わせて、主に日本向けの航法衛星システムを改良する、具体的には測位の精度を上げる実証試験が始まった。測位の精度を上げるためには、4機以上の衛星が必要である。実際には山や高層ビルに遮蔽されて、現在の精度は10m程度である。一方今回開発した準天頂衛星はGPSを補完するもので、高度が高いことから視界遮蔽の影響が少なく、移動体の測位精度は1mで、測量ではcm級である。201010月に初号を打ち上げ、実用段階では4機、予算が許せば7機が打ち上げられる。アメリカのGPSがなくても日本の衛星だけでの測位システムを構築することが、宇宙戦略委員会で決定された。

GPSは、アメリカが軍事用に打ち上げた約30機の衛星の内、ある地点の上空にある数機から信号を受けて、受信者が自身の位置を知るシステムである。衛星から送られてくる信号は、衛星の位置と時刻である。これらの信号をGPS受信機が受け取り、簡易的な式で位置を計算する。実際には大気の屈折による電波伝搬路の変動、反射波の影響、搭載した時計の精度により誤差を生じる。

通常の静止衛星は地表から見れば、赤道上の1地点に止まっているように見え、これを対地同期軌道という。日本では仰角が55度程度になっている。これに対して準天頂衛星は23時間56分の周期で、経度を変えながら南北を往復し、非対称の八の字の軌道を描く。軌道傾斜角は45度で、日本での仰角は7080度と高く、遮蔽の影響が少ない。

§3.人工衛星を宇宙へ運ぶロケット

日本の主力ロケットはH2ロケットである。右図はH2ロケットの1号機が発射台に取り付けられ、飛行機から撮った写真である。通常は飛行機が飛べないが、特別に飛ばして撮った珍しい写真である。

H2ロケットは固体ロケットと液体ロケットを組み合わせた2段式ロケットである。基本的には、アメリカのスペースシャトルと同じエンジンを採用している。液体ロケットには液体酸素と液体水素が用いられており、高性能で環境に優しいエンジンである。ロケット全体の重さは320トン(車320台分相当)、高さは53m14階建てビル相当)、推力は700トン(6トンの物資輸送が可能)である。

1段目に固体ロケットが取りつけられ、中心には1段目の液体ロケット、その上に2段目の液体ロケットが乗っており、人工衛星は一番上の白いカバー(フェアリング)の中に納まっている。フェアリングは大気圏を抜けるときに発生する熱や音響から人工衛星を保護するためのもので、大気圏を抜けると二つに割れてロケットを離れるようになっている。

H2ロケットには最近重要なミッションができた。国際宇宙ステーションへ物資を輸送する。人間が乗っていないので、宇宙の宅急便である。

 プロ野球のピッチャーが投げるボールの速度は時速150㎞であるが、人工衛星の速度は時速28,000㎞、秒速で7.9㎞である。人工衛星にロケットで秒速7.9㎞のスピードを与えると、遠心力と重力が釣り合って落ちずに地球を回ることができる。宇宙船の中は無重力である。

国際宇宙ステーションは高度400㎞で、現在は10名程度が滞在して実験をしている。日本の実験室は“きぼう”で、昨年星出宇宙飛行士が長期滞在して、ステーションの修理の船外活動を3回も行って大活躍した。2010年4月14日の宇宙ステーションの6人とスペースシャトルの7人の集合写真では、無重力であるので4人は逆さまに写っている。日本の宇宙飛行士が二人写っており、若田飛行士と山崎飛行士である。

H2ロケットの打ち上げをビデオで紹介する。ロケットに積んだカメラで撮影したもので、普段は見られない映像である。全システム準備完了⇒起動⇒メインエンジンスタート⇒テークオフ⇒固体ロケットブースタ(SRB)-A分離⇒衛星フェアリング分離⇒第1段分離⇒LRE(レーザ測距装置)分離(2001.8.19打上成功)。

§4.太陽系惑星としての地球

太陽を中心に回っている太陽系の惑星は8個ある。太陽に近い順に水星、金星、地球、火星の4個は小さく、表面は固体でできている。木星から外の惑星は気体でできているため、大きい。地球と両隣りの金星と火星の環境を比較すると、平均気温は地球が15℃であるのに対して、金星は500℃、火星は-43℃である。大気中の二酸化炭素の濃度は、地球が0.03%であるのに対して、他は95%以上である。酸素濃度は地球が21%であるのに対して、他はほとんどゼロである。地球は奇跡の星で、太陽から近かったり、遠かったり、大きさが違っていたら、生命は多分生まれなかったといわれている。地球だけが生命の生きられる生存圏に入っている。

地球は水の惑星と呼ばれ、いろいろな特徴がある。空は大気圏があることで地球の温度を一定に保ち、オゾン層があることで太陽の強い紫外線から生物を守っている。陸は暑い熱帯から寒い極圏まで多様な生物が住んでおり、人類の生活および食糧生産の拠点になっている。海は地球の2/3を占め、気候変動の源となっており、魚介類など豊かな食糧源となっている。

空は高度800㎞程度までを大気圏と呼び、四つの層(対流圏、成層圏、中間圏、熱圏)で構成されている。流れ星やオーロラは高度100㎞位で起こり、オゾン層は高度2025㎞のところで濃度が高い。高度400㎞で飛行している国際宇宙ステーションから地球を見ると、大気圏は水色に見える。この部分でオーロラが見られる。オーロラは、太陽から飛んできた荷電粒子が大気圏の酸素原子や窒素原子に衝突して光を出す現象である。

海には海流があり、浅いところを流れる表層海流と深いところを流れる深層海流がある。深層海流は太平洋の北側で浮上し、表層海流として西に流れてアフリカを過ぎて北上し、ヨーロッパの北側で沈み込んで、深層海流となって戻ってくる。これを発見したブロッカー博士は、コンベア・ベルトと呼んでいる。海は冷たい水と暖かい水が混ざり合っているので、衛星で海面温度を観測すると、-230℃の範囲で分布している図が得られる。このようなデータは僅か4日間で得られる。漁業や日々の天気予報や将来の気候変動の予測に利用されている。

陸について、アメリカの宇宙機関が19941995年の2年間の人間の活動や自然災害の状況を衛星で観測した。街の灯りは白で示され、北米、欧州、日本で光っている。森林火災は赤で示され、アフリカや東南アジアで大規模な森林火災が起きていることが分かる。油田火災は緑で示され、ロシアで起きている。集魚灯は青で示され、日本近海で光っている。

§5.地球観測衛星の基本技術

1970年代に始まった人工衛星を利用した地球の観測技術はリモートセンシング(遠隔観測)と呼ばれ、光の性質を利用して地球の様子や我々の生活を調べるものである。宇宙から色々なことが分かるが、空ではオゾン層の破壊、温室効果ガスの濃度、台風・降雨状況など、陸では火山活動、土地利用状況、地形、植生分布など、海では流氷の状況、海洋汚染の状況、海面温度および植物性プランクトン濃度などを知ることができる。リモートセンシングの基礎となる技術は次の二つがある。

1.技術1(衛星の軌道)

人工衛星には色々な種類があるが、地球観測衛星の場合は地球の南極と北極の上空をおよそ100分で1周している。一方、地球は太陽の周りを1年で1周している。太陽同期軌道では、衛星の軌道面と太陽のなす角度が季節に関係なくほぼ一定になるように保たれており、地球の反射・放射の量を同じ環境で観測できるメリットがある。準回帰軌道では、1日に何周かして一定の周期(衛星の種類やセンサーによって異なるが、3日から1.5か月)で、同じ地域をほぼ同じ時間帯に通過する。地球観測衛星では、この二つの要素を組み合わせた太陽同期準回帰軌道が選ばれている。

2.技術2(地球を観測する目)

地球を観測する光には、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波がある。太陽光が物質に当たると反射する特性があり、土では可視光線が反射し、植物では近赤外線が反射するので、可視センサーが用いられる。一方、物質はその温度に応じた熱を放射する特性があり、地表面や水面は熱赤外線を放出しており、熱赤外センサーが用いられる。マイクロ波についても、反射特性や放射特性を利用したセンサーが開発されている。

高度700㎞から可視センサーで得られた羽田空港のモノクロ画像では、2m程度のものが見える。飛行機1機が滑走路にあり、2機が待機中で、ターミナルビルの周りには沢山の飛行機が駐機していることが分かる。このような画像は、色々な調査や地図の作成に利用されている。2006年6月12日に噴火した千島列島にあるマツア島サリュチェフ火山では、15日の大噴火のときには噴煙が1万mに達し、航空機の運行に影響があった。人間が近づくのが難しい噴火口や溶岩流の動きを可視センサーで容易に観測できる。

 雲の動きを可視センサーで見ると、太陽光が当たったときには人間の目に見えるのと同様に観測ができる。一方、熱赤外センサーでは太陽光に関係なく、昼夜観測ができる。熱赤外センサーはテレビの天気予報に出てくる衛星「ひまわり」で利用されている。

アメリカの衛星「アクア」に日本のマイクロ波放射センサーを乗せて台風の雨量観測を行った例がある。センサーの目となるアンテナは直径1.6mのパラボラ型で、ゆっくりと回転しながら地球を観測している。台風の目と周辺部で雨量の多い分布が得られている。このような画像は、台風の勢力や降雨量の予測に利用されている。

富士山の可視センサーによる画像は、デジタルカメラの画像と同じであるが、合成開口レーダ画像では、雲の影響なしの画像が得られる。合成開口レーダは波が一つのため、カラー画像にすることができないが、色々な情報を得ることができる。2007年3月25日に発生した能登半島の地震では、地震前後の合成開口レーダ画像の解析画像から、土地の隆起や沈降の分布が分かり、最大45cmの隆起があった。このように広範囲に土地の変化を迅速に知ることができる。

マイクロ波散乱センサーを利用すれば、海の風向・風速を観測できる。陸では観測できないが、刻々変わる海上の風の動きを捉えることができ、気象予報や船舶の安全航行に利用されている。

§6.地球環境に何が起きている?

今地球では全ての生命活動の基盤が、地球規模で変化しているといわれている。空、陸、海で起きていることを見てみる。

1.陸では

(1)地球は温暖化しているか?

世界の科学者会議(IPCC)の報告書では、①世界の平均気温はこの100年間で約1℃高くなったこと、②世界の平均海面水位は徐々に上がっていること、③北半球の雪の量は急激に減っていることを示している。地球温暖化の仕組は、大気中の温室効果ガスが地球表面で反射した太陽の熱を大気圏に閉じ込めるによる。温室効果ガスの正体は主に二酸化炭素で、次にメタンである。二酸化炭素は化石燃料(石炭、石油)を燃やすことで大気中に排出され、18世紀の産業革命以降急激に増加している。人間の活動が原因である。日本の二酸化炭素の濃度は1996年以降右肩上がりに増加し、2010年には390ppmになった。年間の変動では、光合成によって夏は低く、冬は高くなっている。大気中で増加した二酸化炭素の一部は海で吸収されて海の酸性化が進み、サンゴ礁等に影響が出ている。

二酸化炭素は世界の280地点で観測されている。日本は2009年1月にGOSAT「いぶき」を打ち上げ、世界で初めて衛星観測を行っている。地球を5万点以上で測定し、3日毎に同じ地点を観測している。地上観測と衛星観測を合わせて、地球を64の地域に分割し、二酸化炭素の排出量と吸収量を計算している。北半球の高緯度地帯では、2009年7月(夏)には光合成による大きな吸収があり、2010年1月(冬)には光合成が止まって排出が多いことが分かる。また、海でも吸収と排出が行われていることが分かる。

(2)オゾン層の破壊

衛星で観測したオゾン層の世界的な分布から、南半球で極端な変化が起こっていることが分かる。南半球の春季(9~11月)には、南極上空のオゾン層は極端に少なくなるオゾンホールが衛星から観測されている。南極点のオゾン濃度は197010月から201010月に半減していることが分かる。

オゾンホールの原因は、貯蔵物質と呼ばれる人間が出すフロンガスと火山ガスである。南極では晩冬に-78℃以下の極域成層圏雲ができ、貯蔵物質との化学反応により、塩素が発生する。早春に太陽光が当たると塩素は塩素原子に分解され(C→2Cℓ)、塩素原子がオゾン層を破壊する。衛星観測が始まった1980年頃から現在までに、オゾンホールは徐々に増加して南極大陸の2倍以上の面積になっており、貯蔵物質の濃度が高く、未だに拡大が続いている。健康被害や生態系への影響が心配されている。

2.陸では

(1)森林の危機

世界では森林の減少が続いており、危機的な状態にある。ここでは森林の減少と地球の温暖化の関係について見てみる。植物の光合成では、植物は太陽の光によって二酸化炭素を取り込み、酸素を大気に、炭素を地中に残す(COHOCH12OOHO)。世界の森林面積は約40億ヘクタールで、陸地の約30%を占めている。ヨーロッパ25.3%、南米21.0%、北中米17.9%、アフリカ16.1%、アジア14.5%、オセアニア5.2%であるが、南米では420万ヘクタール、アフリカでは400万ヘクタールの森林が毎年減少している。ヨーロッパとアジアでは増加しているが、全世界では毎年720万ヘクタール(日本の国土の約20%に相当)の森林が失われている。

アマゾンの熱帯雨林は全世界の熱帯雨林の30%を占めており、二酸化炭素を取り込んで酸素を作り出す「世界の肺」といわれている。ここでは大規模な開発と森林伐採によって荒廃が進んでいる。衛星画像では、アマゾン横断道路を中心としてフィッシュボーン状に森林伐採が進んでいる。アマゾンの西側の地域における1996年の衛星画像で森林伐採が見られるが、2007年の画像では更に伐採が進んでいる。国が認めている伐採のほかに違法な伐採があり、2007年9月にブラジル・日本の協力プロジェクトが立ち上がり、宇宙から違法伐採を監視し、タイムリーな取り締まりで森林保護に貢献している。

(2)農業と土地の砂漠化

中国の内モンゴル自治区のホルチンは九州と同じ広さで、30年前までは豊かな草原であったが、遊牧民の定住化により過度の農業利用が進み、衛星から見ると砂漠化が進んでいる。日本からポプラを植えて砂漠化を食い止める活動が行われているが、土地の適切な利用が重要であるといわれている。

アラル海はカザフスタンとウズベキスタンに跨る中央アジアの塩湖で、世界第4位、琵琶湖の100倍の面積がある。衛星画像では1987年から2003年になると水量が大きく減少している。綿花栽培などの灌漑用水に多量の水を使用したためである。2009年には原形を留めないほどになった。僅か20年間で砂漠化し、環境保護の難しさを物語っている。

3.海では

(1)海水面が上がる

IPCCの報告書で地球温暖化により海水面が上がると説明したが、主として海水が熱膨張することと氷が融けることによる。氷河、グリーンランドの氷床、南極の氷床が大規模に融けている。IPCCの報告書に載っている19612003年と19932003年の海面水位上昇率を比較すると、後者が前者の3倍位高くなっており、近年急激に海面が上昇していることが分かった。実際に融けている山岳の氷河の画像では、融けた氷が堰止湖となっているが、いずれ決壊して大災害になるのではないかといわれている。グリーンランドの氷床の衛星画面では、氷が解けて海面が見えている。現地の写真でも氷床で融けた水が海に流れ込んでいる。

海面水位を宇宙から測ろうという計画が、1990年代の初頭に欧米協力で始まった。電波高度計によって、人工衛星と海水面の距離を測って、海水面の上昇率を求める試みである。6機の衛星が打ち上げられ、海水面の平均上昇率は年間3.14mmであることが分かった。海水面の上昇は地球上で一様ではなく、オーストラリアを中心とした南太平洋で大変大きい。南太平洋にはサンゴ環礁でできた島が多く、海抜が低いので海水面の上昇による島の水没が危惧されている。ツバルは水没の危機にある。

(2)サンゴ礁の環境

サンゴ礁は多様な生物がいる海の楽園であるが、海洋の酸性化による危機も訪れている。二酸化炭素濃度が増加して海洋に溶け込み、1750年以降PH0.1低下した。先に示した地上観測と衛星観測を合わせデータでは、大西洋と南極が二酸化炭素の吸収帯となっている。サンゴは30℃以上では生きられないが、これをホットスポットと呼んでいる。地球温暖化により、ホットスポットは拡大している。環境悪化で世界中のサンゴ礁が減少している。日本のロケット追跡設備のあるクリスマス島の内海の衛星画像を解析したところ、サンゴ礁の分布を把握できた。環境省は衛星画像を利用した日本のサンゴ礁地図作成プロジェクトを立ち上げた。衛星データはダイバーを使うのに対して、費用が安く、タイムリーにデータを更新できる。

(3)減り続ける北極の海氷

2005年9月と2007年9月の衛星画像を比較すると、北極海の海氷の面積は2/3に減少していることが分かる。2007年9月は観測史上最少といわれていたが、昨年更に減少したとの報道があった。動画で見ると、7月に陸地から海氷が離れ、10月に陸地に繋がり、1月にはほぼ海氷で埋まり、4月には氷が融け始めて、海面が見え始め、6月7月と氷が減っていく。1年氷は冬に凍り夏に融ける氷で、多年氷は夏になっても融けない氷である。氷が陸地を離れることによって海運の航路となり得ることから、海運業界が熱い視線を注いでいる。南周りに対して、1/3程度の日数で欧州に貨物を運ぶことができる。

まとめ 地球環境保護への取組

1.暮らしと地球環境

(1)課題1(大きくなった社会)

世界の人口は20世紀の間に約4倍になった。2005年の時点で66.2億人、新聞報道では最近70億人を超えた。その内70%が開発途上国である。20世紀後半だけで世界の総生産量は6倍になり、エネルギー消費は8倍になった。

(2)課題2(自然への影響)

大規模森林の伐採、過度な土地利用、大気環境の悪化という現象が起きている。

2.国際的な活動

1992年に地球サミット「環境と開発に関する国際連合会議」が開催された。活動の理念としての宣言は、森林の持続可能な開発、地球温暖化への対応、生物多様性の保全、21世紀の行動計画である。理念から行動へということで、温室効果ガスの排出目標は2005年の京都議定書では日本は6%の削減目標を発表したが達成できなかった。ポスト京都議定書として、2009年にデンマークで協議があったが、先進国と開発途上国の対立が表面化し、議定書が発行できなかった。

このように厳しい環境の中で、宇宙機関は国際地球観測プログラムを立ち上げている。国際協力による衛星観測を強めることと衛星情報を国際社会で共有することである。対象となるのは、災害、健康、エネルギー、気候、産業、エコシステム、生物多様性、水、気象の九つの分野である。

JAXAはこれからも宇宙開発により、地球環境の保護へ貢献します。地球の恵みに感謝し、素晴らしい地球環境を守りましょう!」

Q&A

Q1. 素晴らしい機能を持った衛星の寿命は?

A1. 打ち上げる前に設計段階で寿命を決めている。短いもので3年、長いもので7~8年である。寿命を決める一つの大きな要素は、姿勢制御するための燃料である。電子機器は半導体を使っており、故障することも少ないが、設計寿命に基づいて決めている。寿命が終わったら新しい衛星を打ち上げるが、JAXAは研究開発組織なので、同じ衛星を打ち上げることはなく、改良するなり、新しいミッションを掲げて継続する。今後は国民にデータを継続して使用してもらうため、同じ衛星を打ち上げることになると思う。

Q2, 合成開口レーダで隆起地を瞬時に指定する精度は?

A2. 地震発生前後の画像を干渉処理するが、精度は基本的には数cmである。

Q3. JAXAの監督官庁が四つあるが、仕事をするのに邪魔にならないか?

A3. JAXA内では定期的にメールマガジンで、船頭が多くなったが頑張りましょうと記してあり、トップも危惧していると思われる。

Q4. 軌道制御軌道の中で、地球環境観測は太陽同期軌道、GPSは対地同期軌道か?

A4. 地球観測衛星は太陽同期軌道と準回帰軌道をミックスした軌道を採っている。「ひまわり」、通信衛星、放送衛星は対地同期軌道を採っており、地球の自転と同じ周期で、あたかも止まっているように見える。GPSは対地同期軌道ではない。

Q5. 地球観測衛星と通信衛星の連携での利用を進めようとしているが、両方の情報をヒューマンインターフェイスで結びつけるのか?

A5. 地球観測衛星の情報は埼玉県鳩山町で1日に3回衛星が通るときに衛星から直接受信する方法と、データ中継衛星経由で受信する方法の二つがある。災害の時には、何れが迅速にデータ収集できるかによって決める。

Q. 地球環境の変動の原因は、人間の経済活動や人口増などによるのか、自然の変動によるかを調べるようなプログラムを動かしているか?

A.  災害、健康、エネルギー、気候などの九つの分野のユーザコミニュティと一緒になって衛星の開発を行う活動をしている。いくつかについては原因が分かっている。

Q7. ポジショニングの精度で時計の誤差が問題となっているが、相対性理論での補正は必要か?

A. 相対性理論の問題でなく、衛星の時計自体の精度は良くないので、地上から時計信号を送って補正している。

Q. 観測プログラムはJAXA自身が決めるのか、ユーザからの要請によるか?

A. アメリカ、ヨーロッパ、日本、最近では中国やブラジルなどの国際機関が集まって決めている。

Q. 提供するデータは有償か、無償か?

A. 羽田空港のような高分解能画像は有償、地球環境に関するものは無償である。

                               

(記録: 池田)