第 3 9 2 回 講 演 録

日時: 2011年11月22日(火) 13:00~14:30

演題: 年経りて「いい夫婦」に ~高齢化社会を生きる~

講師: お茶の水女子大学 名誉教授、シニア社会学会 会長 袖井 孝子 氏

はじめに

本日、1122日は「いい夫婦の日」、1111日は「いい日、いい日」に因んで厚生労働省が提唱した「介護の日」。11月は本日の話題の高齢期の夫婦のあり方、今後増えてくる「老々介護」にかかわる記念日が二つ並んでいる象徴的な月である。

1.今なぜ熟年世代の夫婦関係が注目されるのか

1)団塊の世代が定年退職:大量の熟年夫婦

  昭和22(1947)から24(1949)にかけて年間2百万人(少子化の現在の約2倍)の子供が生まれ、いわゆる「団塊の世代」を形成している。またこの世代はなぜか結婚率が非常に高く、9798%にも達している。現在は、かつて結婚適齢期といわれた20代後半の未婚率は男性で70%、女性で50%を超えており、生涯未婚率(50歳で結婚していない人の比率)も男性が10%を超え、女性が6~7%となっている。

2)寿命の伸長と出生児童数の減少によるライフサイクルの変化

出生、就学、就職、結婚、退職、老後などの人生のイベントの推移を表した「ライフサイクル」が戦前と戦後では大きく変わった。戦前の平均寿命は50歳前後と現在の80歳前後に比べ大幅に低かった。乳幼児の死亡率が高く、青年期の結核による死亡率が高かったことが主な原因である。戦前の近代文学を代表する堀辰雄の「風立ちぬ」などは「結核文学」と呼ばれたほどである。しかしそのころ無事成人に達した人の平均寿命は60歳程度で一般の平均寿命より長かったと推定される。戦前は一人の母親が出産する子供の数が多く、10人を超えることも珍しくなかった。現在は「子供は二人まで」が固定化してしまい、4人以上は多産といわれるほどである。また戦前は母親の出産期間も長く、40代前半まで産み続けていたため、末子が独立・自立する前に親が他界してしまうことが多かった。ライフスタイルも長子が親の老後を見る、兄弟・姉妹間で上が下を見るのが一般的であった。夫婦あたりの子供の数が2人を切るような少子化の進む現在は、親が定年を迎える前に子供が独立してしまう場合には、長寿化とも相まって、夫婦二人きりで暮らす期間が長期化することになった。

 3)高齢期における同居世帯の減少によるライフサイクルの変化

  かつて日本の伝統であった「3世代世帯」も急激に減少している。3世代世帯で暮らす高齢者は1980年代頃までは約半数であったが、現在は5人に1人となってしまった。高齢者の世帯構成で現在一番多いのが夫婦のみで、独居がこれに次ぐが、今後20年以内に独居世帯の方が多くなり、高齢者の3人に1人は「お一人さま」になる「大シングル時代」が到来すると予想される。

 4)「夫婦家族制」の理念の定着:親子中心の家族から夫婦中心の家族へ

  戦前はいわゆる「家制度」の下で家長が大きい権限を持つことが民法などで法律的にも裏打ちされていた。当時は子供の進学、就職、結婚、あるいは子供の勘当、婚外子の認知などすべて父親が決めていた。男は30歳、女は25歳になるまで父親の許可がなければ結婚できなかった。そのため、内縁関係のままの夫婦も多く、心中、駆け落ちも多発した。

  学生が若年層に増加している「事実婚」数を高齢者のそれと比較調査したところ、戦前に内縁関係に入った高齢者の事実婚の方が相対的に多かった。終戦時の「家制度」の改革は、農地改革、財閥解体と並ぶ「三大改革」の一つである。憲法24条で「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を持つ」ことが規定され、民法でも夫婦の平等、相続の兄弟姉妹間の平等など家族の民主化が図られた。その流れの中で家族は「夫婦が中心」との考え方が広まり、20年ほど前くらいから、かつてのように「子孫に美田を残す」ことなく、財産は夫婦で使い切りたいと考える人が多くなってきた。

 5)家族観の変化夫唱婦随から夫婦平等へ

  かつては夫唱婦随で夫から三歩下がって歩いていた妻も、今は夫と並び、あるいは夫の三歩先に立って歩くことも多くなった。このように夫婦の関係が大きく変わってきたため、熟年世代あるいは高齢期の夫婦のありかたに注目が集まるようになってきた。

2.日本の夫婦の特徴

 1)性別役割分業の貫徹:高度経済成長を支える

  「夫は職場で仕事、妻は家庭で家事・育児」というように性別により役割がはっきり分かれていることを「性別役割分業」という。内閣府の調査によると性別役割分担が最もはっきりしているのが、世界でも日本と韓国である。欧米では家庭内での役割分担についてみると、北欧が最も平等であるが、夫婦が分担ではなく一緒に行うケースが多い。しかし、日本の性別役割分業は196070年代の高度成長期においては企業にとっては好都合で、従業員をその家族の事情をほとんど考慮することなく、自由に出張・転勤させ、仕事に専念させることができた。それによって高度経済成長が支えられたといっても過言ではない。これは欧米人にとっては理解し難い制度・文化であるが、日本人の妻の側にも「亭主、達者で留守がよい」としてこれを受け容れていた面も多分にある。もっとも、日本に滞在する欧米人の妻にも日本的役割分担のメリットを認める人もいる。実際には、欧米でも夫婦がすべて共同行動をとらなければいけないことに苦痛を感じている人も少なくない。米国では夫婦の一方を長期出張させる場合には配偶者の同意の下に、配偶者の旅費を負担のうえ同行させなければならないほどである。

 2)夫婦共同行動の少なさ:カップル文化ではない

  欧米、特に米国・北ヨーロッパではパーティー、旅行などは必ず夫婦・カップル単位で参加する。日本では経団連の新年祝賀パーティーが黒一色で欧米のカップル文化との際立った違いを象徴的に表している。そもそも日本には夫婦で行動しなければならないという規範がない。日本では会合や旅行でも同性同士のグループで参加し、それを大いに楽しんでいる姿が目立つ。夫が定年を迎える夫婦にインタビューし、定年後先ずやりたいことを聞くと、夫の多くは妻との旅行を望むが、妻は夫の日頃の行動・言動から判断し夫との旅行には楽しみをほとんど期待できないとして同行を嫌う場合が多い。アメリカでは妻が女性の友人に「今度の週末は夫が家にいるから遊びに来て」というが、日本では「夫が家にいないから遊びにきて」という。夫婦別行動は日本と韓国特有の東アジア文化であり、良い悪いの問題ではないともいえる。

 3)夫婦関係における緊張の欠如:配偶者は異性ではない?

  米国の調査で「夫婦関係で最も重要な要素は何か?」という問いに対して、回答は「愛情」そのものではなく「愛情の表現」であったという。欧米人は夫婦関係の維持のために互いに不本意な努力を強いられている場合もあるかもしれない。日本ではさしずめ「いたわりと優しさ」という回答になるであろうが。日本では夫婦は空気か水のようで、お互いの存在をあまり意識しない関係が一般的である。かつて、電通が全日空・トヨタなどの依頼で、団塊の世代の辺りから夫婦の関係・意識が変わり、夫婦が積極的に共同行動をとり、旅行やドライブを共にするようになると予想し、4564歳の世代を対象に現在の夫婦関係・理想とする関係などについて意識調査をした。その結果は、予想に反して「夫婦平等型」の夫婦は非常に少なく、従来型の「空気・水型」の伝統的夫婦が圧倒的に多かった。

 4)財布のひもは妻が握る:日本の妻の地位は高いか低いか

  日本は会社の管理職、政治家などに占める女性の数は世界的に見ても少なく、女性の社会的地位は低い。しかし家庭内での妻の地位は家計の管理権を握っていることから決して低くはない。欧米では家計の管理権は夫が握っている場合が多く、いわゆる「ウーマンリブ」運動は妻が家計の管理権を求めて起こした運動ともいえる。ただ、日本の女性が財布のひもを握るようになったのは1960年代の高度成長期以降である。それまでの日本では、農業を含む自営業者が圧倒的に多く、事業所得と家計が混然一体で、財布のひもを夫・父親が握るのが普通であった。その後、高度成長期にサラリーマン世帯が急速に増え、家庭と職場が分離され、給与が銀行振り込みになると、それを引き出し管理するのは主婦の役割となった。共働き世帯でも妻が家計を一括管理するのが一般的である。

 5)夫婦間のギャップ

  夫婦で互いに相手に求めるものが違う。夫は家庭に憩いを求め、妻は対話を求める。あるいは、夫は妻に家事・育児・介護を期待し、妻は夫と対等な人間関係を期待する。

 6)すれ違う老後の夢

  老後の夢にもギャップが生じる。夫は田舎暮らしや海外移住を、妻は趣味や地域活動を希望する。団塊の世代が定年を迎えた時期にセカンドライフの過ごし方として、アウトドアライフや田舎暮らしに憧れを抱くであろうと想定して、それに関する本が多く出版された。ここに持参した「セカンドライフのための住み替えQ&A」(ミネルヴァ書房)もその一つ。しかし、田舎暮らしというライフスタイルは大部分夫が主導して始めるが、妻は概ね消極的で夫とのギャップを埋めることができず、中途で都会へ逃げ帰ったり、ついには離婚に到ったりすることもある。

3.増加する熟年離婚

 1)人口学的要因:量的に中高年夫婦が若年夫婦を上回る。

  最近、熟年離婚が増えているといわれる。しかし、必ずしも若年夫婦に比べて中高年夫婦の離婚率が高いというわけではない。人口構成の面で、若年層の人口減少・未婚化・晩婚化が進み、若年夫婦が減る一方で、結婚率の高かった団塊の世代が中高年の夫婦総数を押し上げ、結果的に中高年の離婚の絶対数も増えているように見えるのである。つまり、若年と中高年では夫婦全体の母数が違うため「熟年離婚」が相対的に目立つのである。

 2)人生が長くなった

  「人生百年時代」が到来すると40代、50代は未だ人生の折り返し点に過ぎない。かつてはその世代になると人生の終末が見えてくるので、不和を抱えたままでもしばらく耐え忍ぼうという判断が働いたが、今は長い後半生を苦痛に耐えて過ごすことはできないと離婚を決断するケースが増えてきた。

 3)離婚後の経済保障

  かつては離婚をすると妻は無一文になってしまうことが多かった。しかし現在は、離婚時の年金分割、就労機会の増加、母子世帯への各種支援などにより離婚後の経済的保障がある程度得られるようになった。

 4)女性の意識の変化

  かつて女性は何事があっても耐え忍ぶのが美徳とされ、離婚は夫からの「三行半」で成立した。しかし現在は日本を含む先進国では、離婚の7~8割は妻の側から「三行半」が突き付けられている。

 5)離婚に対する世間の目の変化

  かつて女性は離婚をすると「出戻り」といって世間体を気にした。しかし今は自ら堂々と「ばついち」と称して、至って元気である。離婚した友人の女性は「あなたはまだ同じ人と結婚しているの?」とのたまう。「離婚した夫をビジネスパートナーとして一緒に仕事をしている」という女性もいる。離婚に対する世間の見方は大きく変わった。

4.深刻化する介護問題

 1)嫁介護の減少と夫婦介護の増加

  3世代世帯が多かった1980年代ごろまでは老人の介護は嫁の仕事で「嫁介護」がほとんどであった。1983年に発足した「高齢社会をよくする女性の会」の一番大きいスローガンは「嫁介護の廃止」であった。今は介護の形態で最も多いのが「夫婦介護」で「娘」、「息子」と続き「嫁」が一番最後にくる。「嫁介護」の比率は10数%に過ぎない。また「誰に介護してもらいたいか?」という問いに対して、80年代までは大多数が「嫁」と答えていたのに対し、今は先ず「配偶者」が挙げられ、「娘」、「息子」、「ヘルパー」と次ぎ、「嫁」はやはり最後である。嫁の側から見ても、「なぜ介護をするのか?」という問いに対して、かつては、「この家に嫁いだ以上嫁が介護をするのは当然だ」が最も多く、「仕方がない」がこれに次いだ。今は三世代世帯が減少したこともあるが、「嫁」の側の意識も変わり、望まれてもいない舅・姑の介護を厭うようになった。

 2)「老々介護」「認々介護」

  今最も望まれている「夫婦介護」も、やがて年とともに体力の衰えた老配偶者同士の「老々介護」や、進行度の差こそあれ共に認知症に罹った夫婦同士の「認々介護」と化してしまうケースも増えてきた。

 3)高齢者虐待

  「高齢者虐待」は日本では2000年頃からクローズアップされ、2005年に「高齢者虐待防止法」が制定されることになった。米国では1980年代に既に議会などでも問題にされていた。その頃の日本では一般に家庭内での虐待は恥として表ざたにしないため、顕在化していなかった。しかし訪問看護師、保健師などに聞き取り調査をしたところ、隠されていた虐待が意外に多いことが分かり、防止法の制定までに到った。現在は虐待のケースが分かれば「地域包括支援センター」に通報し、被虐待者の保護・支援にあたるようになっている。高齢者虐待で一番多いのは息子が母親を虐待するケースで、全体の4割を占めている。息子が母親を介護するケースは全体の1割程度であるから、息子による「高齢者虐待」の出現率は4倍にも及ぶことになる。息子が母親を虐待する原因はほとんどのケースで息子自体に原因がある。息子が失業、離婚、アル中、薬物依存、精神障害などで仕事に就いていない場合が多い。次に多いのが夫から妻に対する虐待である。夫は今まで妻に面倒を見てもらう立場にあったので、なぜ自分がこのようなことをしなければならないかと苛立ち、虐待に及ぶ。一方、妻は体力差の問題もあるが、夫の身の周りの世話をしてきた流れの中でそれほど苛立ちを感じないため、夫に虐待を加えることは相対的に少ない。夫婦介護に関する私の指導学生の調査によると、夫が妻を介護する動機として最も多かったのは過去の自分の行いに対する自責の念であった。過去の浮気、浪費などで妻を大事にしなかったという反省の気持ちが強いからだという。そのため夫の妻に対する介護は、妻の夫に対する介護が淡々としているのに比べ、一所懸命行うことが多いとのこと。

4)男性介護者の情報不足と孤立

 昨年「男性介護者の会」という組織が初めてできた。介護に関する情報は地域の老人ホーム、社会福祉協議会、地域包括支援センターなどが主催する介護教室や「家族介護者の会」などで得ることができるが、男性は現役時代に地域との関わりが疎遠であるため、これらの組織に出向いたり、集会に参加することはほとんどなく、情報源を持っていない。そのため介護で困ったときにどこへ相談したらよいか分からず、孤立してしまう。その結果追いつめられて介護心中とか介護殺人という悲惨な事態を招くことになる。男性も日頃できるかぎり地域との接触を保ち、情報を得ておく必要がある。自治体の発行する「公報」には種々の有益な情報が載せられているので、ぜひ目を通すことを勧めたい。

5.配偶者との死別

  高齢で配偶者と死別し再婚しないと男性は概ね3年以内に死亡すると統計に示されている。一方、ほとんどの女性は夫の死別後楽しみながら余生を全うする。自分が関わった総理府の「エイジレスライフ表彰」でも高齢女性の活躍は目覚ましい。女性は夫と死別してから新しいことを始める。飛行機のライセンスを取って台湾まで飛ぶ女性、80余歳でバイクに乗り過疎地で地域の高齢者の支援をする女性までいる。国際的なボランティア活動をしながら「今が人生で一番幸せ」と言っている知人もいる。それにひきかえ男性は急速に気力が衰え、評論家の江藤淳氏のように妻の後を追って自死にいたることもある。

最近NHKで取り上げられた「無縁社会」などで「孤立死」「孤独死」がクローズアップされた。「孤立死」の定義は明確ではないが、「遺品整理会社」“キーパーズ”の吉田太一氏によると死亡してから1週間ないし10日以上経って遺体が発見されたケースの8割が男性であったという。そのうちの多くは50代後半から60代前半の男性で、リストラなどで職を失い、それを契機に妻と別れ、一人暮らしとなって食事も充分にとらず、衰弱して死亡するというのが典型的な例である。内閣府で調査したところでは一人暮らしの高齢者の女性の年収は男性の6割程度しかないが、生活が苦しいというのは男性の方が多い。また独居男性は1週間誰とも口をきいていない、あるいは近所の誰とも話したことがないという人が4人に1人いる。女性はそのような人は10人に1人いるかどうかである。「おひとり様の老後」を自立して生きるためには、地域での知り合い、仲間をつくることが肝要である。

6.これからの夫婦関係

 1)対等な関係、女性の経済的自立と男性の生活自立

  女性はある程度の自分なりの収入源、貯蓄をもち経済的な自立を図ること。男性は掃除洗濯料理など自分の身の回りのことを自分でできるよう生活自立能力を図ることである。大部分の男性は妻より先に逝くと思っているが、5人に1人は妻に先立たれる。それに備えて自分なりの生き甲斐、趣味をもつことが必要である。

 2)共に求められるコミュニケーション能力

  男性には口で巧く表現する説明能力が必要である。男性は定年後何をしたいか妻には余り説明せず、「自分が言わなくても妻は分かっているはず」などという。女性には口下手な男性の言うことをよく聴く「傾聴能力」が必要である。夫婦間でも互いに充分話し、聞くことが大切である。

 3)「家族から始まる小さなデモクラシー」

  これは1994年の国連の「国際家族年」のスローガンである。家庭内でデモクラシーを確立しなければ、社会で真のデモクラシーは実現しない。外で民主主義、男女平等を唱える活動家男性が家庭内では横暴な亭主関白であるというケースも少なからずある。先ず家庭内で夫婦でも親子でも互いに対等な人間として向かい合い、話し合うことが必要である。

Q&A

Q1:高度成長時代に社会に過剰適応した男性が、停滞した社会で、企業とは異次元の地域の中で生きていくことに適応できていない高齢男性の姿を話していただいたが、地域社会に適応するためにはどうしたらよいか?

A1:熟年向け講座とか自治体が主催する住民参加型の各種の地域の活動に積極的に参加することである。92歳でパソコンのインストラクターをしている男性もいる。女性の主宰するNPOの経理や文書を作成するなどの支援活動も意義がある。

Q2:妻に先立たれた男性同士が共同生活をする場を提供することを制度化できないか?

A2:それは「グループリビング」という居住形態であるが、主としてある程度収入がある単身のキャリアウーマンがやっているケースが多い。アメリカではNPO団体が運営する「シェアード・ハウジング」という形態がある。日本では生協などの支援を受けて、女性が中心になって共同生活を営む「COCO湘南台」が良く知られている。今後、こうした居住形態は、NPOあるいは企業のビジネスとして成り立つ可能性もある。パナソニックの退職者同士が協力し、認知症のグループホームや小規模多機能施設などをビジネスとして展開しているケースもある。NPOは公的助成金を得られる場合もあり、このような施設の運営に向いている。 

Q3:独居高齢者の在宅ケアは未だ制度として整っていないように思うが、施設への入居と在宅ケアの何れを選択すべきか?

A3:政府は財源不足から特養などの施設をあまり増設できないため、在宅ケアを推進しようとしている。来年は介護保険法を改正して「24時間在宅ケア」による短時間巡回型という、北欧でも行われているシステムを開始し、最後まで在宅で看取りをするといっている。しかし、日本では北欧の極めてシンプルな生活介護とは違い、食事、入浴など一定の生活レベルを維持しながら、限られた医者やヘルパーで24時間在宅サービスをすることはかなり難しいと思う。厚労省は介護保険適用の「療養病床」を廃止しようとしているが、廃止は難しいだろう。現状では金はかかるが、「介護付き有料老人ホーム」を終の棲家とする厳しくも悲しい選択を迫られているのではないか。

Q4:老後の夫婦の関係に、夫の元の職業・地位、あるいは自営業と会社員の違いがどのような影響を与えているか?また戸建、マンションなど居住家屋の違いは影響するか?

A4:自分が退職者にインタビューしたところでは、出世しなかった人の方が夫婦関係はうまくいっている場合が多い。高い地位に就いた人ほど家庭を顧みず仕事をしたことを自慢する傾向がある。あまり昇進しなかった人の方が豊かで楽しい残りの人生を送っているように見える。自営業は基本的に共働きで、夫婦が一緒に行動することが多く、地域密着型でもあるため楽しい老年期を迎えている。居住家屋での違いは、やはり戸建のほうが地域との接触が多く、孤立化することは比較的少ない。マンションは初めから隣人と疎遠になることを望んで入居する人も多く、隣人との接触も少なく、孤立化しがちである。

  (記録:井上邦信)