第 3 8 2 回 講 演 録

日時:平成2211月9日() 13:0014:30

演題:電力を中心とするエネルギー問題について

講師:東京電力株式会社 顧問 種市 健 氏

 日本の量の問題ということで、これまでどのようにして世界第2位といわれるGDPを支える大量の電力システムと電力のインフラというものを作ってきたか、その量、資源はどうであるかについてお話したい。その次にそれを支えてきた技術開発がどのようなものだったかということについて、主なものを拾いたい。それから、電力インフラというものがどういう役割を果たすものかという点についてお話し、最後にいわゆる低カーボン化の今後について一種の戦争といえるものではないかと思うが、それに対して挙国一致でどのようにしたら当たれるかということについて、どうしたいかとうことではないが、そういう課題に現在直面しているということを中心に申しあげたいと思う。

1.島国日本の量、資源

1.1 民間9電力体制のスタート

まず量の問題だが、終戦後は国を自立させる、我々の生活を守るということで、ある意味では目的に向かって挙国一致の戦争をしてきたといえないこともない。その中で、電力は1951年に新体制、いわゆる民間9電力体制が出来上がって再編成された。これによって電源から需要の供給まで一貫した責任を持って当たるという体制ができた。こういう体制にしたことが、これまで非常に上手に機能してきたと言っても過言ではない。こういう体制になったことによって、国全体の動きと同様に、電力の社員というものは一人一人が自分の仕事に責任を持ち、誇りを持って進めることができた。国と同じく、社員一人一人が司馬遼太郎の言う「坂の上の雲」を目指して進んでいく体制があったからこそと思う。こういうわけで、電力エネルギーの面では、自立の戦争を結果として勝ち抜いてこられたと言っていいのではないかと思う。

1.2 燃料の輸入と自給率

日本のGDPの伸び、電力需要の推移を見ると、会社が出来たときの最大電力は170万kWであった。現在はそれが大体三十数倍伸びており、東京電力だけでも6400万kWに伸びた。従って、それに相当する設備を造ってきたわけである。1951年民間会社としてスタートしたときの電源を見ると、144万kWが水力であり、残りの3万5000kWが火力であった。また、国としての電気の自給率は水力を中心に80%もあった。その後、石油危機などがあっていろいろな経緯を辿ったが、結果として現在のエネルギー自給率は、需要の巨大化と国内資源の乏しさを反映して4%にとどまっており、残り96%は輸入されている。ただ、その中で原子力は燃料の自立性が高いので、それを自給率に加えても、18%~20%といったオーダーで、いかに日本の電力の増加が大きかったかということがわかる。

量について見ると、日本全体で最大電力が1億8000万kW位で、大体そのうち3分の1の6430万kWが東京電力の分である。これを、諸外国と比べると、東京電力だけでもイギリスやイタリア、韓国という一国と同じエネルギーを扱っていることがお分かりと思う。

エネルギー問題の性質を規定する一つは、量の問題である。現在、我々はいろいろな燃料を入れてやっているが、例えば、100万kWの発電所を1年間運転するのに必要な燃料の量を見ると、一番多いのは石炭で220万t位、一番少ないのが原子力で21tと桁が違う。こういうことから、原子力を備蓄性が高いということと、あるいは現在進めている核燃料リサイクルということが考えられるので、これを自給燃料と考えた場合に、自給率が18%とか20%ということになる。同じ見方で比べると、石油146万t、天然ガス93万tとなる。先ほど、東電の需要が6400万kWと述べたが、大体6500万kW位の電源設備を持っている。単純に言うと、それぞれいろいろな混じり方はあるが、東電1社だけでも100万kWあたりの諸量の65倍という量を海外から持って来なければならない。現在、世界中からエネルギーをあさっているというのが実情である。例えば、LNGは中東地区から一番沢山来ているが、途中を見ると、ペルシャ湾、ホルムズ海峡、オマーン湾やマラッカ海峡などを通る約1万kmを超える行程で運んでいる。年間大体2000隻の大型船が世界各地から日本に向かっている。

1.3 沿岸部大容量発電所のメリット

大量の燃料が海岸で陸揚げされるので、必然的に沿岸に大容量発電所を造るという選択になる。これは各電力ともほとんど同じで、輸入してくる大量の燃料を活用するためにはやはりそれが一番効率的である。また、海の側に置くと、タービンの性能上、海水という極めて安定した冷却剤があるので、効率が上げやすい。最高効率のものが非常に使いやすいということがある。発電所では、海岸の大型立地している場所で最高効率の電気を出す、あるいは、SOхやNOхという公害物質を除去する、あるいは、そこで発生する排熱を海に流すという形で送電線が必要だが、いわば、電力エネルギーのエッセンスを都会に持ってくるという構造が出来ているが、これは島国の特権である。仮にこれを都心部でいろいろな分散型ということにすると、CO2などが都市の内部で発生するということになる。ヒートアイランドの問題も含め総合的に考えるべきである。

1.4 グラハム・ベルの予言、日本周辺の資源

1989年に来日したグラハム・ベルが、帝国ホテルでの講演で、日本の国土の大体70%が山であり、かなり落差の大きい中小河川が沢山ある。こんな素晴しいエネルギー源を持つ国はないということを言ってくれたそうである。まさに日本の持っている一つの大切な資源は水力だと思う。この点については、現在、いろいろな水利権等があって、かなり制約されているが、一つの検討例として先般、JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)で検討されたケースがある。例えば、治水の問題、利水の問題をバランスよくやって水力開発を進めると、将来、人口の減少もあって、今やっている原子力に数基を加えるだけで、日本の電力エネルギーは十分賄えるという試算である。そういう意味で、今後水の問題というものもあらためてクローズアップしていくものではないか。ある意味では水力のルネッサンスということもあるのではないかと思う。

もう一つは、日本周辺の資源の問題である。領土は38万km2にすぎないが、いわゆる領海というものは43万km2もある。200海里の排他的経済水域を入れると405万km2もある。これを全部入れると、世界第6位の領地を持っていることになる。この辺はガス、その他の鉱物資源がかなり見られる。あるいは、熱水鉱床や黒鉱などいろいろな資源があってこれについては産総研などでいろいろ努力されている。水力に加えてこのような領海というものについても、十分に開発が進むような方策も必要ではないかと思っている。

2.絶えざる研究開発

2.1 日本の技術の特徴

次に、先ほど説明したような、非常に急速な需要の伸びに対して、どのような技術で対応してきたかということについてお話する。日本の場合、大型の電力会社と優秀なメーカーが共に手を携えて育ってきたと言えると思う。電力が急速に拡大するフィールドを示して、それに優秀なメーカーがどんどんと新しい最新の技術を入れてきたというのが歴史である。資源のない日本が生きていくためには、技術開発が大きな鍵になるというのが、現実に我々が進んできた道だと思っている。日本の技術の特徴は、急速な需要増があったので、どうしても世界から最新の技術を持ってくることがまずターゲットになる。今の中国と同じである。その時その時の世界の最高技術が入ってきた、入れてきたということが言える。しかしながら、それらの技術からの革新も含め、日本の技術の特徴を形作ったのは、資源がないということもそうであるし、自然環境あるいは社会環境というものがシビアだということがあったかと思う。それらに磨かれた日本の技術は独特なものがある。

資源がないから、電源はいろいろ多様化しなければならない。例えば、原子力から始まって、火力、水力等々について技術開発を幅広くしなければいけないということ、それから、資源の輸入国だから、極力、高効率のものを追求せざるを得ない。あるいは、省エネについての技術開発をしなければいけない。さらには新エネといわれる開発も進めなければいけない。このようなことが、資源のないというところから必然的に発生してくる。

また、自然環境では国土の温度が、-20~40℃ぐらい幅がある。それから地震があり、マグニチュード8ぐらいの地震は結構起きる。台風の場合に70mぐらいの風は覚悟した設計にしなければいけない。さらに社会環境が厳しい。これは環境規制ということもあるし、見る目が非常に厳しい国だから、社会的にも各設備が磨かれてきたということもある。ある意味ではこうして出来た我々の技術というものは、今後の世界のあらゆる場所のあらゆるニーズに対応できる内容を持っているのではないかと自負している。その結果として、日本の電力の信頼度をみると、世界的に最高位にある。我々が技術開発をし、それを導入して進めてきたことが結果として正しい方向にあったのではないかと思っている。

2.2 代表的な技術開発の成果

2.2.1 火力発電: 現在最高発電効率が59%、現在計画中の川崎2号の系列は61%。仮に100万kWの機械では、1%効率が上がると、1万kWの発電所を造ったことに相当するので、この辺の効率は世界最高と言ってもいいのではないか。また、公害物質の排出を少なくする一連の技術は世界に冠たるものである。

2.2.2 揚水発電システム: 地下の空洞を造る技術。可変揚水発電システム。一つの水車で780m位の水を揚げる技術。この三つの柱は世界で最高レベルにあって、世界の各地域に需要を作りだせる可能性をもっていると考えている。

2.2.3 UHV(100万ボルト)送電技術: 本来とっくに国内で100万ボルトを使っているはずであったが、だいぶ需要が落ちてしまい、残念ながらこの技術を転移した中国が先に100万ボルト運転を達成した。IEC(国際電気標準会議)の標準にこのシステムが採用され、国際的な販路を拡大する上で、非常に有効な手段を得た。

2.2.4 電力用CVケーブル: この技術も長年にわたって磨いてきて、世界で一番進んだ、トップを走っている分野。

2.2.5 高温超電導ケーブル: 我々が使っているのはビスマス系の超伝導だが、これが大変進歩した。世界で、現在営業運転しているケーブル線路は、アメリカにあるが(線材は日本製)日本でも実用に入ろうとしている。現在、東京電力の場合、6000万kWの需要に対して、500kVの大型外輪線を首都圏にめぐらせて供給している。需要の大体4倍の2億6000万kVA位の変圧器を使っている。ここに超電導を入れて、このステップを半分に出来たと仮定すると、相当なコストダウンが可能となる。

2.2.6 石炭ガス複合発電(IGCC)、CO2分離・回収隔離技術: 世界的に見て石炭という資源はかなりあり、当分の間これを使わなくてはならない。クリーンコールテクノロジーは不可欠なもの。IGCCはここ数年、経産省、電力会社が共同で大型技術開発を行い、見事に成功し、かなりの自信を持って世界に売り込めるだろう。

2.2.7 NAS(ナトリウム硫黄)電池: 小型の分散電源等々で有効なものとして開発された。非常にコンパクトで普通のテーブルくらいの大きさで、430kWh位がためられる。従来の鉛に比べると3倍位の密度で貯蔵でき、非常に有望なものである。今後スマートグリッドの中核機器として期待される。

2.3 世界における電力消費量の増加、パワーアカデミーの取り組み

今後世界が90億人という人口になっていった場合、現在の日本の設備の大体13倍位のものが建設されるはずである。そうなると、その中核は中国やインドなど、赤道のベルト地帯にあると思われる。上手にマーケティングをし、世界に冠たる日本の技術をそれぞれの地域に合うように編成して売り込むことが一つの戦略であろう。

大型の電力・重電の技術は、昨今、従来技術ということで、学生の人気がなかったが、新エネルギーなどの分野についてはかなりの関心を集め、若い人がどんどん入ってくるような時代がいずれ来ると思う。一方基本的な電力系統を作るというような重電技術についても、世界に売り込む場合に重要なエレメントであり、日本の電力系統の更新にも不可欠であるから、一層魅力的な技術に革新していく必要がある。このため、電力業界では電力、メーカー、大学と一緒になって、パワーアカデミーという制度を作り、未来に向かって若い人に入っていただくということを3年位前から進めている。即ち、研究・教育両面から電気工学の魅力を高め、優秀な人材を誘導する全国的な産学連携の推進を目指しており、電気事業連合会が事務局を務める。

3.エネルギー母線としての電力系統

いろいろな電源が入ってくる場合、エネルギー母線としての電力系統の意味は大きいと思う。日本の電力系統は現在、最初に言ったように、10電力に分かれているが、無資源で輸入型なので、それぞれ非常に良く似た構造にならざるを得ない。従って、よく言われているが、地域間の連が細いということだが、現実に連の必要がないという状態であり、しかもそれはかなりの容量を持っているので、分散型が入ったぐらいで連能力が足りないということにはならないと思う。指令施設、給電の関係を始め、電力の通信網はすべて自営網である。従って、外からハッカーの攻撃を受ける心配がないという状態でずっときている。そういう意味も含め、日本の電力系統は非常にしっかりしていると思う。アメリカがスマートグリッドと言う場合、先ずは基幹系統の増強だと言っているが、日本ではその段階が既に出来上がっていると言ってよい。こういう系統があるので、原子力をはじめ、いろいろな電源がどこへ来ても、分散型電源との接続も大丈夫という形で進めていくことができる。ちょっとオーバーな言い方かもしれないが。

3.1 各国のスマートグリッド事情

3.1.1 欧州の背景

(1) スマートグリッド構築の動きは、風力など再生可能エネルギーによる分散型電源の大量導入を契機として始まり、2006年の欧州広域停電により加速。

(2) 各国、各地域のネットワークが複雑にメッシュ化しており、最近の電力自由化に伴う広域的電力取引の増加と予測困難な風力発電などの分散型電源の増加により、ネットワーク内の電気の流れの調整が難しくなっており、ネットワーク内の混雑も頻繁に発生。

(3) 風況により出力が大きく変動する風力発電などが、電力供給システムの信頼性に与える悪影響が懸念されることから、その対策として分散型電源の出力状態を把握・予測し、分散型電源の調整(抑制)を行う技術としてスマートグリッドへのニーズあり。

3.1.2米国の背景

(1) スマートグリッド構築への動きは、2001年のカリフォルニア電力危機や、2003年の北米大事故などを契機として始まり、再生可能エネルギー促進や電気の利用効率化へのニーズにより加速。

(2) 需要増に対して、発電所、送電設備のインフラ整備が不十分であるため、電力需要の大きい時期に、以下のような手段で需要家の電力使用量を抑制するなどにより、電力供給インフラの不足をスマート化で補うことが主目的。電力価格と電気の使用量を表示するメーターに需要家が反応して、電力価格が高くなる高需要期に、需要を抑制する方策・電気の周波数(供給力不足時に低下)の低下に応じて、家電(冷蔵庫、エアコンなど)製品の消費電力を抑制する技術など。

(3) グリーン・ニューディール政策・温暖化ガス排出削減・再生可能エネルギーの電力比率の向上(2025年までに25%)・プラグインハイブリッドカーの普及促進。スマートグリッドの構築、送電網の構築、スマートメーターの設置(4000万個)

3.1.3 わが国の状況

(1) 供給信頼度は世界最高水準・情報通信ネットワークを活用した送電網の事故時の監視・制御システム技術・配電網の事故時の停電範囲極小化のための自動化技術を導入済み・新しい監視・制御システムの構築には長期間(10年程度)必要。

(2) 送配電網への再生可能エネルギー電源の大量連係・今後大量導入される太陽光発電(需要家側)、風力発電、蓄電池と火力発電、水力発電、揚水発電と協調した需給バランス制御、周波数制御、電圧制御が課題。

(3) (その結果として) ⇒ 需要家との双方向通信・太陽光発電、蓄電池、ヒートポンプ給湯器、プラグインハイブリッドカー、電気自動車等が連係された多数の需要家と双方向通信によるこれら機器の電気エネルギーネットワーク全体への貢献・活用方法が課題。

3.1.4 中国のスマートシティ建設: 中国では、今までのやり方での都市形成には限界があるということから自転車で通えるスマートシティ建設の計画がある。その概要を紹介する。場所は中新天津生態城、開発主体:天津市政府、シンガポール政府、敷地面積:30 km2、人口:2020年に35万人、時期:2008年着工2020年完成予定、コンセプトは自動車を使わないコンパクトな街づくり、再生可能エネルギーの利用率20%以上、排水の再生利用100%、CO2排出量GDP100万ドルあたり150トン、一人当たりの水使用量1日当たり220リットル以下。

3.2 日本における住宅用太陽光発電の課題

分散型の典型である住宅用太陽光発電について、日本でも非常に大きな実験がされている。ここでは出力変動の影響が少ないようにバッテリーを付けた実験をしている。現在、日本は6000Vの高圧配電線で、各家庭に100V、あるいは200Vの単相3線の低圧配電という方式をとっていて、実際の需要は大体1軒が3kW位使っている。そこに3kWのパネルが入ったという場合には、相当の電気の流れ、電圧の変化が起こる。太陽がカーツと照ると3kW位でると思うが、雲に隠れると、それがずっと落ちる。家庭に大きな冷蔵庫が入ったりすると、電気がちょっとフリッカーする。ああいうことがかなり頻繁に起きるものを、±6Vという日本の規定の中にどのように収めていくかという問題は、これから相当考えていかなければならない。発電量が多すぎて電圧が上がりすぎるなら、パネルのスイッチを切ればいいのだが、光資源を無駄にすることになるし、所有者の利益を損なうことになる。場合によっては、必要な場所ではパネルを入れるレベルに合わせて配電電圧というものを変えていくことかと思っているが、そんな検討もしなくてはいけないかとも思っている。まとめて言うならば、新しいエネルギーはいろいろな使い方が行われるようになった場合にも、やはりエネルギー母線としての電力系統というものはしっかりしたものにしておかなければいけないと思っている。

4.低カーボン戦争への合意形成

日本のおける温暖化ガス排出量の問題は、2008年7月の福田元総理による洞爺湖サミットの宣言に続き、2009年7月の麻生元総理を経て、2009月鳩山元総理が日本の温暖化ガス排出量を1990年比で2020年までに25%削減という厳しい目標の表明があった。いろいろな検討が為されているが、誰が、誰のお金で、誰の責任で進めていくのかまったく考えられていない。計画とか事務的なものが決まっていない。低カーボン戦争は、長期間の国民一人一人の努力が必要で、そこで国民の新しい「坂の上の雲」になるのだろう。

4.1 スウェーデンの例

スウェーデンで開催された工学アカデミーで公表された資料から、参考までに紹介する。スェーデンは電力の44%を原子力に依存している。

最も投資効果の高い環境対策 五つの方向性

① エネルギー効率の向上が最優先(市場メカニズムの活用)

② 温暖化防止に最も効果のある手段に投資する(再生可能エネルギーの利用拡大)

  (注)野心的過ぎる風力発電利用計画は、現行制度下では経済的に負担

③ 電気自動車の普及を促進する(電気自動車とプラグインハイブリッド車により自家用車のCO2排出量の20%が削減可能)

④ 原子力発電を継続する(原子力発電は地球環境関連の目標を達成する上で最も重要な手段)

⑤ 温暖化した気候に備える(気温が上昇した場合の直接・間接の影響についてより多くの研究が必要。移住による人口の変化、水不足、疾病などを含む)なんでもでなくまず経済効果を考える、続く温暖化に備える、目標化の必要性などを重視。

4.2 主役は原子力

低カーボン化の主役の一つはやはり原子力である。15基の計画のうち、北海道電力泊3号は昨年12月に完成している。この計画は、何としても理解を得て進んでいかなくてはならない。国民的合意を得て、稼働率を90%に上げ、核燃料サイクルを絶対に進めることが必要である。現在東芝などを中心に次世代原子力開発が進んでいるが、これは軽水炉をベースにしたもので、稼働率を90%に上げる計画である。

4.3 世論形成

青森県東通原子力発電所に、子供を連れて行くと、子供たちは「なんで原子力を作るの?上にある風車でいいじゃないの」ということを言う。これは日本の教科書の中で、原子力は放射能で悪、火力はCO2で悪、風力、太陽光の新エネルギーは善ということしか書いていないので、そう言う印象になる。例えば、ここに1750kWх11基あるウインドファームが見えるが、東通1号原子力と発電量を比較すると、0.05%にしかならない。利用率は推定値25%である。この辺の定量的知識を基にした議論が必要ではないか。さらに風が止まったときのバックアップをどう考えるかという検討も必要になる。今後スマートグリッドが展開し、父親が屋根にパネルを上げたいと言う。母親はなんでそんなお金をかけるの、今のままでいいじゃない。子供は環境のためにはやりたいと言う。ここでまず家庭内に議論が起こり、次に地域の議論と順番に拡大して、最後には例えば国のレベルの議論になり、国のエネルギー政策、原子力政策について合意が得られることを期待している。こういう人が増えて、原子力をしっかりやれという時代が来ることを願っている。それぞれのレベルでコストがどう変わるか、あるいは供給の質がどう変わるか、それに対して誰が責任を持つかというようなことについて、関係の方々の了解が前提になっていくものと思われる。このとき、世論は科学的、技術的に正しい判断に基づいたものでなければならない。例えば、「科学技術の智のプロジェクト」では、少なくとも2030年までに、今生まれた子供を科学技術についての知識を持った人間に育てるのだということを示している。こういうものをこれからしっかりやっていかねばならない。

5.質疑応答

Q1: 低カーボン化の目的は、地球温暖化防止であると理解している。一方CO2と温暖化の 関係に疑問を呈する方もいる。CO2と温暖化の関係のデータの捏造事件もあり、疑問視されているが、これに付きどう考えられているか。

A1: データ改ざんについてはいろいろ言われている。一つの大きな流れとして人間の活動の結果が温暖化に結びついていると考えは、かなりのレベルで認められている。ただ数量的に結びつけることは難しい。反対の意見がおもしろおかしく取り上げられているのではないか。それと同じように、なぜそう考えるのかということも取り上げられるべきと思う。次の問題は、25%とはどういうことなのかという話もあり、定期的に国民の情報として流され、議論がいると考える。

Q2: 水力発電の見直しの話が出たが、今悪者になっているダムが、水力発電の見地からの見直しの余地はあるのか。

A2: ダムの有効活用は考えられている。日本の場合、水は利権、規制の塊みたいなもので自由な考え方が出来ない。それぞれの立場の人が、自分の立場で動くから何かやろうとすると、既にこう決まっているという話が出てくる。このような動きを排除してなんとしても進めようとしている。既設のダムの若干のかさ上げ、砂の排除、小さい川の積極的な開発と、新設を含めて現在の900億kWhの倍には出来る。これからは大きなダムはないのではないか。八ッ場ダムも大きな発電は考えていない。先日日本一といわれている徳山ダム(貯水量6億トン)を見に行った。水資源公団にこんな大きな仕事をしたのだから大いにPRしたらどうかと言ってきた。PRをして積み上げていけば、成果に繋がる。

Q3: 低カーボン社会実現のために原子力が増えていくことは合意できる。例えば、ベトナムでロシアが原子力発電を2基受注したが、ロシアの実力はどうか、安心できるのか?高速増殖炉「もんじゅ」は意気込みを失っていないか?時々話題になるが見通しはどうか?以前仕事で関係したが、当時の意気込みがないように感じるが。

A3: 日本の場合は、かなりやれる、大丈夫と見ている。ロシアは数年前に日本へ原子力の安全について1000人位の人が勉強に来ている。大丈夫かなと疑問には思っている。ただ日本はやりすぎではないかと感じるところはある。やたら細かいところまで、あらゆる点で配慮するように見える。もっと、効率的にやったらどうか。外国は、20kVの機器なら高々20kVの機器と考えて仕事をするが、日本は20kVであっても、絶対的に細かい保証をする。日本の考えが通用するところとしないところがある。国内ではいいが、海外では考え方を変えたらどうか。「もんじゅ」は本当に残念。訴訟は3回。日本では、動かしながら直すということが出来ない。ガンジガラメの世の中で、「もんじゅ」は歯軋りをしながらやってきた。初期の情熱はないが、最近上の人が変わり雰囲気も変わるだろう。「もんじゅ」がないと、プルトニュームサイクルが回らない。絶対に必要なものである。柏崎のトラブルについて、外国はよく耐えたと受け取ってくれる。日本では、消防法で消防署がOKを出さないと発電機は動かせない。最後は、国民一人一人が、科学的、論理的に考えられるようにしないといけない。前に述べたように、今の子供が大人になる2030年までに科学知識を持たせるように教育するプログラムが組まれているが、これはアメリカのプロジェクト「2061」を下敷きにして作ったものである。

Q4: スマートグリッドは、無限大のネットワークに対して、小さな変動を飲み込んでしまうような効果を考えていたが、最近はヒートポンプ、自動車とかを利用して大衆の関心を得る方向に向かっているのではないか。もっともっと、技術的問題をクリーにしたらどうか。風力発電は、瞬間的に20~30倍のエネルギーを出し、パツと止まって0レベルになる。地熱発電にもそれを感じる。それを乗り越えるのが技術ではないか。国が大金持ちで補助金でカバーしていくとしても、うまくつながらないのではないか。風力の動く時に何かをするという使い方に智恵をだす方向ではないか。たとえばそれで水のポンピングアップとか電気分解など。

A4: 技術的な観点よりも、エネルギーの地産地消を考えていかないとうまく行かない。風力だからと言って経済的にダメということでなく、風力と冷蔵庫の組み合わせ、東京ガスが言っている余ったときには隣の家に供給するといった現実的な対応が大事。(特性をよく知っている人がいえばみんな付いてくるのでは)温暖化もいきなり25%と言われても難しい。どんな覚悟で言っているのか分からない

Q5: 日本、ヨーロッパなどで熱、電気の併給が行われているが、個人レベルではなく自治体レベルで地産地消の観点から太陽光を導入する計画があるか。

A5: 補助金は何時までも続かないだろう。儲かるような改善が必要であろう。儲かるようにモーティブフォースをもっていく動きが大事。具体的な計画は知らない。

(記録:藤木)