佐藤幸彦 著   『佐藤幸彦のリサイタル』

昭和62年に私は55歳になった。昔なら定年。会社勤めを始めて30年。結婚して25年。その節目を意識して、何か記念事業をしようと思い、本を作って友人や諸先輩に配ることにした。物を書くことは嫌いではなく、以前から学会誌、業界誌、日本刀研究雑誌、親睦誌などに論文やエッセイを寄稿して来たのでそれら既発表のものを手当たり次第にまとめて一冊にしたものである。名付けて「リサイタル」。それに「アンコール」という付録を付けた。リサイタルは、友人を集めて自分の得意の曲を押しつけがましく聴かせるもの、アンコールは更に押しつけがましく
 -----  というわけで、このネーミングは自分でも気に入っている。実はこのアンコールは私の技術者としてのささやかな自己主張である。特に始めの二編、「ロードヒーティング」と「LPG地下タンクによる周辺土壌の凍結防止」に関する熱伝導論は、その結果のみを設計や特許出願に利用し、理論は私のファイルの中に埋もれていた。それまで未発表、かついかなる熱伝導の教科書も取り扱っていない問題である。その他は電線製造技術等の話題なので、あかがね倶楽部の皆様には釈迦に説法の嫌いがあるかも知れない。