続・男子厨房に入らず
谷口 啓治

拙稿に呼応するかのごとく、3月6日付け「朝日新聞」の人生デザイン欄に”現役続行術・食事の支度”なる記事が掲載された。
 夫が退職して家にいるようになると、食事の支度で一日が終わる・・・。そう悩む妻が多いことを男性は知っていますか。 などと言う書き出しで、市井の夫婦の例を幾つか紹介し、揚句の果てに「○○さんお勧め、妻に作るオヤジの昼ご飯」と、レシピ紛いを載せていた。
 「おいしい、おいしい」と食べているうちに、どんどんやってくれるようになって、とか
・・・が下手でも、「ありがとう」「助かるわ」とフォローし続けたら、徐々に買い物上手になりました、など”夫(つま)も煽てりゃ木に登る”式の話である。
若干の統計資料も出ていたので、興味のある部分だけを引用する。
平日に家事をする男性の割合は、’95年の50歳台が24%で平均時間が24分であり、’05年の60歳台(つまり同年代の10年後)では50%で1時間13分である由。乱暴な計算をすると、この年代の一人当たりの平均的家事従事時間は10年間で5.8分から36.5分へと6.3倍に伸びていて、どこかの国のGNPの伸びも斯くやと言った塩梅である。

 それはさておき(閑話休題)
 親しい友人とこの記事について話し合った。その「ヒト」の反応は、
うちの淀君は、「おいしい」なんて言ってくれないし、いわんや「ありがとう」でも無く 時には迷惑顔、ビシッと来るときには「塩辛い」「水っぽい」と水を加えたり、醤油で調味したりだよ、とのこと。
そういえば、大分昔のことになるが、市の生活相談を担当している元・校長さんに聞いた話だが、「給料を袋ごと渡しても、御苦労さんでもありがとうさんでもないので・・」と妻のことをこぼす「ヒト」が結構いるとのこと。(現役中、筆者は 前日欠勤した人に「君がいないと寂しいよ」と、ゴマすりしたものだったが)。これなどは、亭主退職イソイソ離婚というパターンの前兆のように思われるのだが、どうであろうか。

 記事に誘発されたわけではないが、翌7日の夕食を久しぶりにヤッテ見た。
ご飯は朝のうちに自らが炊いたもので、七分つき米1、標準米2の「健康食」なり。トントンと、キャベツ、ニンジン、玉ねぎ(いずれも残り物の端材)を刻み水を入れた鍋に浸しておく。並行してノルウエー産の塩サバ・半身を二つに切ってからガスレンジのグリルにかける。目分量で、山芋と大根とを半分ずつすりおろして「ミックスおろし」と刻みキャベツを作る。そのあと、パウチのハヤシライス(亡父は”ハイライ”と言っていて、他人様が「??」だったことを懐かしく思い出す)二個を鍋に投げ込んでおく。
すかさず前記の刻み野菜を(水を切って、新たに作ったダシ汁の)別鍋に入れて、味噌汁作り。パウチの温度が上がった(なー、と思った)ところで皿に盛り付けて、一丁上がり。
 二人で食した。少し塩辛くてお湯を差したが、妻はマンザラではなさそうだったのでホッ!(10年の「単赴」のキャリアーここにあり。)
 でも出来れば、「お前百まで、わしゃ九十九まで」昔ながらの夫婦分業でいたいものだ。

(春早く、心も寒し身もさむし   3月8日)
 平成22年3月