続・二度目の災難
谷口　啓治
前編は、少し慌てて書きなぐったきらいがあって、特別読み辛かったのではないか、と反省している。今回の大地震を二度目の災難、とすれば、小生にとっての一度目は何だったろうか？　多分、１９４５年夏・太平洋戦争が終わったのちも北朝鮮の新義州に残されて母子四人で暮らしたあの頃の事ではないか、と思う。父は、終戦間際に現地召集を喰らって兵役についていた。二等兵で、済州島に配属されていたと、後で聞かされた。８月１５日、終戦を迎えるや否や現地人の日本人に対しての“仕返し”的な行動が始まった。　先ず、日本人社宅への夜襲、子供をけしかけて行う日本人子供への虐待などであり、目ぼしいものを略奪するなどであった。そのうちに、社宅の交換をさせられ、終いには避難所紛いに、独身寮の食堂を改造（板張り床のだだっ広い所を三畳分ほどに木の桟で仕切りを入れ、窓際に二段棚を作り付ける）して押し込まれた。プライバシーなんて・・・。災難１；社宅への野襲は念の入ったもので、人事を担当していた人だけが狙われた。棒きれで窓ガラスを割る、投石するなどで居たたまれなくなった住人は夜逃げならぬ昼間の脱走を企てる羽目に。災難２；　子供への虐待はしつこく、日本人の子だと見ると大きな赤犬をけしかけ、自転車のチェーンを鞭のように使って集団で襲って来た。災難３；　略奪は、ロシアの兵隊よりも早く父の現地人スタッフが連れだって来て　「奥さん、日本に送れるようになるまで預かっておくからネ」と、タンス長持ち一切合財持ち出した。　しかし、父の蔵書には手を付けなかったので、日本人学校が閉鎖されて浪人生活中の筆者は小四ながら宮本武蔵・全巻を通読した。災難４；　現地人の社宅に入って困ったのは、オンドル（床下に煙を通す式の床暖）の所為で南京虫がドッサリいたこと。夜中に這い出て、アチコチを喰われた。皮膚の弱い母が傷跡の化膿に悩んでいた。災難５；　避難所紛いでの生活で、まったく怪しからんと思った事がある。同じ日本人ながら、Aさんが現地人の顔役にBさんのことを「告げ口」して間接的に虐めるのである。　ざっとこんな具合の災難であったが、特に５項の「告げ口」には今も憤りを禁じ得ない。Aさんの名は、苗字だけだが今も覚えているし、東北地方のその人の出身県名も忘れてはいない。母が、父の在職した工場の食堂で賄い婦として働いていたので、当時５歳と２歳の妹をお守しながら、飴切り挟みをチョッキンチョッキンと鳴らしながらやっって来る「朝鮮飴」売りの脅威から逃れたのも災難だったかも。　消息をご存じのどなたさんからは、「お前さんの災難は、他にあるだろう！」と叱責されそうだが、今回はこれにてお開き、と致したい。最後にブロッコリーの新芽の写真を御披露する。３月８日頃に育苗ポットに蒔いたものであるが、スティックセニョールと言う茎を食するブロッコリーで、初めて作る。震災後の１４日から、健気にも芽を吹き始めた。彼らにとって“災難”が起きないように祈るばかりである。
３月２１日　（ホレンソウに放射能！とのニュースを聞きながら）