“老いじたくの栞(その1)



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      “老いじたく”の栞(その1)
             法律監修者の言葉(弁護士 池田 正利
             第1章 はじめに                              
               1.死ぬ前に後悔すること                       
               2.老い先に待ち受けるもの                     
                 【気になる話題】平均寿命、平均余命等            
               3.老後の楽しみ                             
             第2章 老いじたくとは何か                       
             第3章 老いじたくの具体例                        
             第4章 財産管理等からみた老いじたく                
          1.はじめに                              
          2.財産相続の基礎事項の習得                 
            A 相続とは                            
            B 法定相続人と法定相続分                 
            C 代襲相続                            
            D 相続人の欠格と推定相続人の廃除             
            E 相続の単純承認、限定承認、相続放棄           
              【気になる話題】 増える相続放棄               
            F 遺留分制度                              
            G 特別受益の持戻し                          
            H 寄与分制度                              
                   Ⅰ 相続財産                              
            J 遺産分割                               
                  遺産分割協議書の例                   
            K 相続開始(死亡)後の相続税納税までの主な         
              【気になる話題】 死後離婚                  
              【気になる話題】 相続法制の改正へ             

      “老いじたくの”栞(その2)
            3.遺言書作成のすすめ                        
               遺言書の書き方の例                       
               ① 一般的な遺言書の例
               ② 相続人が農家の場合の例
               ③ 妻に全財産を相続させる場合の遺言書の例
           4.尊厳死宣言書(又は事前指示書)の作成           
               尊厳死宣言書の例                        
           5.エンディングノートの作成                         
           6.財産管理・事務代行契約書の作成               
               施設入居中のペット飼育委託契約書の例          
           7.死後の事務委任契約書の締結                 
               死後の事務委託契約書の例                  
           8.任意後見制度の利用・・・判断能力のあるうちに活用・・・  
           9.成年後見制度の利用・・・判断能力の減退・喪失の段階・・・ 
          10.悪徳商法や特殊詐欺への対応                 
             「クーリングオフ制度」                              
          11.相続及び相続税対策                         
           【あとがき】


                             法 律 監 修 者 の 言 葉

 本書の著者である早田康彦氏は、九州大学法学部を卒業された後、旧財閥系の一部上場の大企業に勤務されました。
 会社に在職中は、総務部・監査部などの管理職として、定年に至るまで30年余年間にわたり、さまざまな法律関係業務に従事されるとともに、多くの後進の育成にも尽力されてきました。
 そして、定年退職後は、取手市内に行政書士事務所を開設され、16年もの間、地域社会の人々の相続、遺言、契約、農地など、多岐にわたる法律問題に対処し、貢献して来られました。また、同時に地域のボランティア活動にも積極的に参加され、活躍されました。
 本書は、こうした幅広い法律知識と豊かな社会経験に裏打ちされた著者が、皆様の「老いじたく」の参考として集約・著述された力作であります。
 その内容は、老いに対する心構え、相続に関する諸問題、遺言書、尊属死宣言、後見人制度などのほか、「悪徳商法」や「クーリングオフ制度」にまで及んでいます。
 したがって、本書は、必ずや皆様の老後の諸問題に対する準備や対応に役立つものと確信しております。


    平成29年9月


                      監修者  第二東京弁護士会所属
  
                            弁護士 池田 正利


 “老いじたく”の栞
第1章 はじめに
1. 死ぬ前に後悔すること 
   フジテレビ「エチカの鏡」(平成21.11.15)で、“余命いくばくと告げられた人は、どのような後悔をする
か“を放映していました。(1,000人以上の死を見つめてきた緩和医療医 大津秀一氏の話) その中
で、後悔したこととして、
 イ. 健康を大切にしなかったこと
 ロ. 遺産をどうするか決めていなかったこと
 ハ. 延命治療の方針や自己の葬儀をどうするか示さなかったこと
 ニ. 夢をかなえなかったこと
 ホ. 故郷に帰らなかったこと、墓参りに行かなかったこと
等がありました。
 その他、個人個人により、旅行に行きたかった、グルメを食いたかった、神仏の教えを知らなかった、自己の生きた証を残さなかった、愛する人に「ありがとう」と伝えなかった等の後悔があったとのことです。

 やはり、人によりそれぞれの人生観、哲学、世界観等により、違うこともあるかもしれませんが、① 日常の生活の中で、仕事、家族、趣味、運動などで、悔いのない毎日をおくること、②健康を大切にすること、③遺産をどうするか、④延命治療についてどうするか、は大方の人にとっては、特に後半生での大きな注意点ではないでしょうか。
 
2. 老い先に待ち受けるもの 
     我が国では、ご承知のように、高齢化が進んで、老人がごろごろいる社会になって来ております。
   平成28年の平均寿命は、男80.98歳、女87.14歳となり、総務省統計局の平成29年9月15日現在推計では、65歳以上の高齢者人口は、全人口の27.7%となっています。
ここで、問題になるのは、定年退職からの余命が長いということです。
そこで、待ち受けるのは;
  (1) 孤独感 
       無為に過ごしていると、月日の経つのは早く感じられるものの、一日は長く、長く感じられるようになります。何日も誰からの電話もなく、人の訪れもない状況が続くと猶更です。孤独感は増してきます。
   仕事のある人や趣味に興じることのできる人などは、それなりにこの孤独感を紛らし、有意義な余生を送れることでしょう。しかし、特に現役時代に、バリバリと頑張って来た人々は、定年後になって、はたと戸惑いを感じられることも多いかもしれません。毎日毎日が日曜日で、「今日やること」「今日いくところ」がなくなるか、少なくなるかもしれません。 
   学校の同窓会や会社の同期会等に出席すれば、気分転換や今後の生き方のヒント等を得たりしますが、それも年間数回、開催されるにすぎません。
   自宅周辺の地域社会に地縁、血縁がなく、根を張っていないと、なかなか他人との接触,触れ合いがありません。勿論、老人会や公民館活動、所属自治体のボランティア活動などに 精を出す「積極性」があれば、何とか救われるでしょうが、特に男性は現役時代の役職や地位(社長、役員、大学教授など)にこだわりが強く、地域に溶け込めないケースが見受けられるところです。
配偶者があれば、まだよいのですが、これが「独居老人」となったら最悪です。話す相手も,喧嘩する相手もなく、一日一日無為に過ごすことにもなりかねません。―――孤独感は一層募るばかりです。
 近所に子供や孫たちが住んでいると、孫の面倒をみるなどして、生きがいを見つけ、孤独から抜け出すこともできるですが、現実には子供達は遠方に住むことが多くなっており、「他人」みたいになってしまっている例も多いのではないでしょうか。
 どうしたらこの「孤独」状況から脱出できるかが大きな課題となります。   
  (2)  病気の襲来  
     「生老病死」は人間に避けがたいものですが、特に病気は、老化に伴って次々と、そして色々と襲ってきます。今大病院に行ってみると中高年の患者で溢れています。
 健康をできるだけ長く維持し、「健康寿命」を伸ばすことが課題になります。   
  (3)  悪徳商法と特殊詐欺の襲来  
    ①  今から12~13年前になりますが、埼玉県に住む80歳と78歳(当時)の姉妹(いずれも認知症)が、3年間に数千万円の住宅リフオームを繰り返し、代金を払えずに自宅を競売にかけられたという、痛ましい、ショッキングな事件が新聞等で報じられていました。
 4000万円もの預金があったということですから、認知症になる前にしかるべき“老いじたく”をするとか、近隣との付き合いがあるとかすれば、或は被害を防げたかもしれません。
②  オレオレ詐欺などの特殊詐欺に引っかかって、老人が被害に会った例は今日まで頻繁に報じられてきましたが、一向に減る傾向になりません。
 警察庁の発表によると(平成29年2月2日読売新聞)、平成28年の1年間の特殊詐欺の被害額は、406億円超で、4年連続で400億円を上回ったとのことです。
 手口としては、「オレオレ詐欺」が166億円で40%を占め、「架空請求詐欺」が158億円、「還付金詐欺」が42億6000万円とのこと。最近では、娘を装う「ワタシワタシ詐欺」など新しい詐欺が出ているとのことです。

誰でも年をとっても何時までも元気で、そんなオレオレ詐欺なんかに会わないと思っていても、よくあんなにしっかりしている人が「オレオレ詐欺」に引っかかっているという風に、案外中年の人でも、何時ワナにかかるかもしれません。
 まして、少々認知症気味になったら、判断力や記憶力が衰えはじめますので、大変です。
 これらの詐欺にどう対応するかも、老後の大きな課題です。
  
  (4)  老後の経済的破綻  
    健康体であっても、老後に経済的に破綻ないし苦境に陥るケースも種々考えられます。
①  ギャンブルにはまり、多額の借金に苦しむケース
 日本には至る所に、パチンコ店が繁盛しています。パチンコ等のギャンブルにはまり、いわば中毒症状になって、借金地獄に陥り家計破綻に陥ったり、自己破産したりとかの人はかなり多いのではないでしょうか。
 
ギャンブル依存症になったら、病院受診や相談窓口を通じて、回復支援施設を利用したり、自助グループに参加したりして、回復への道筋につながることが多いとのこと。今年3月発表の厚生労働省等によると、全国でギャンブル依存症及びその疑いがある人は約280万人とのこと。
(29.6.26読売新聞による)

② 他人の多額の債務の連帯保証人になり、保証債務の履行を請求されるケース

 親戚、知人、友人等に頼まれて、他人の債務の連帯保証人になると、その他人が借金を返せなくなると、今度は連帯保証人に請求がきます。
 安易に連帯保証をしたばかりに、とんでもないときに保証人としての責任を追及され、没落して一家離散ということにもなりかねません。

やむなく連帯保証人になるときも、自己の能力以上の保証をすべきでありません。保証額を月収の1~2割程度にするとか、保証限度額を 設けましょう。できれば保証人にならないことを原則にしましょう。
 
(義理を欠くことはときに必要です。

③ 老後に本人その他の家族が病気をして、多額の医療費が必要なケース
 
ある程度の蓄えと医療保険への加入を常々考えておく必要がありそうです。

④  「オレオレ詐欺」その他の悪徳商法に多額の有り金を騙し取られるケース

⑤  熟年離婚したものの、財産分与として貰ったマンションのローン残高を支払えないケース
   やっと熟年になり、離婚は成立したものの、財産分与として貰ったマンションや建物にかなり多額のローン(しかも妻の連帯保証付き)が残っていた場合、ローンは夫が返済するという約束であったとしても、夫が失業した場合等は、ローン返済が滞ることになり、結果として元妻は自らの支払い能力がなければ、マンション等を手放さざるをえなくなり、住む家がなくなることにもなりかねません。

かかるケースではローンが確実に返せることを確認してから、財産分与を受けるべきでしょうが、弁護士、行政書士等の専門家に是非相談すべき事案でしょう。

⑥  認知症にかかり、特定の子供に面倒を見てもらっている間に、その子供に財産を費消し尽されるケース

これを防ぐには、信用ある第三者(弁護士、行政書士等の専門家)に、認知症になる前に相談し、成年後見人などになってもらうことも考えられます。

⑦  配偶者の急逝により、その銀行預金の引き出しが凍結され、生活費にこまるケース
   人が死亡すると、相続が開始します。夫或は妻の一方が死亡したときは、金融機関はその事実を知ると死亡した夫或は妻の預貯金の引き出しを凍結します。
   そのため、例えば、夫が死亡し、その夫婦の間に子供がなく、両親もいないとき、法定相続人は妻と夫の兄弟姉妹となり、相続手続きでその兄弟姉妹の同意・印鑑が必要になりますが、その兄弟姉妹が多かったりしたら、なかなか相続手続きが進まないこともありえましょう。その場合、夫の預貯金を引き出せないのです。それでは、葬儀費用の支出にも事欠くことになり、生活費にも困ることになります。

この場合、夫が生命保険に入ったりすることも対策の一つでしょう

   (注記)以上⑤、⑥、⑦はサンデー毎日29年3月26日号の『弁護士・行政書士は見た!「老後破綻」するお金のラブル』を参考にしました。

⑧  猫多頭飼育による生活破綻
   一人住まいの寂しさを癒してくれる猫――しかし、猫の飼育数が非常識に多いと猫に生活空間を占領されて、生活が破綻していきます。
猫は、計算上は一匹の猫が1年で20匹、2年で80匹に増えていきます。不妊去勢手術をさせて、必要かつ飼育可能な範囲で猫を飼いたいものです。
 新潟県、新潟市等は猫の愛護・管理という面で行政の活動が活発とのことです。例えば、新潟県では飼い主のいない猫の不妊去勢手術の費用を、1頭あたり、オス5,000円、メス10,000円補助するとのこと。

⑨  その他の倒産等による経済的破綻

  
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   【気になる話題】
     厚生労働省の平成28年(2016年)簡易生命表によると;

    1.平均寿命

      平成27年の平均寿命は   男 80.98歳    女 87.14歳
     (注)因みに、昭和22年は  男 50.06歳   女 53.96歳
               同40年は   男  67.74歳   女 72.92歳

    2.平均余命(平成28年)
        年齢       男      女
        60歳     23.67歳    28.91歳
        65歳     19.55歳    24.38歳
        70歳     15.72歳    19.98歳
        75歳     12.14歳    15.76歳
        80歳       8.92歳    11.82歳   
        85歳      6.27歳    8.39歳
        90歳      4.28歳    5.62歳

    (参考)健康寿命(平成22年)・・・厚生労働省資料による
                           男       女
                         70.42     73.62歳
 
 
3. 老後の楽しみ
   今まで、老後に襲来するであろうことを半ば大袈裟なことを含めて述べてきましたが、老後には現役時代に持てなかった自由な時間と幾ばくかの金銭を活用して、自分らしい、自分本位の老後(勿論配偶者との協調の上での)を送ることも老後の楽しみとしてあります。例えば; 
  ① これまでやれなかった趣味に生きる。
   例えば、旅行、山登り、家庭菜園、ダンス、俳句,俳画、ウオーキング、ハイキング、ジョギング、絵画、版画、書道、ゴルフ、読書、囲碁、将棋等々。
   仲間とやると、健康維持にも寄与してくれますね。
   夫婦で、或は仲間で、世界1周のクルージングや国内外の旅行にいくことを満喫することもできますね。

② 老後も現役時代の延長として、週に何回か働く――働きながら上記の趣味に生きる。

③ 資格を活かして、老後を他人或は地域のために働く。
   現役時代に、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、弁理士、調理師土地家屋調査士等の資格を取っておいて、或は定年後に取得して、老後にできるだけ長く働くことも、生きがいあることと思われます。

④ 社会福祉関係その他のボランティア活動を行う。

⑤ 孫と遊ぶ。孫の面倒をみて子供の支援を行う。

⑥ 上記の組み合わせやその他のことをやる。

  
第2章 老いじたくとは何か
 
 
 「老いじたく」とは何か。我が国では、ご承知のように、高齢者が著しく増加し、平均寿命が伸びる一方で、認知症患者もかなり増加すると見込まれています。
   このような状況で、我々は、一般論として、定年後20~30年を第二の人生として、生きねばなりません。このような第二の人生を有意義なものとし、自分らしく生き抜き、尊厳ある、悔いのない人生を送るための方策が老いじたくと考えます。
   従って、この老いじたくは、認知症等の判断力を喪失してからするのでは、遅いと言わざるをえません。
   人は、できれば若年或は中年からでも、将来を見据えて、老いじたくに取り掛かるべきものです。勿論定年になってからも、高年で在職中からも老いじたくに取り掛かってよいことは言うまでもありません。
   問題は、元気で判断力がある間に、老いじたくを認識し、実行することが重要ということです。
 
第3章 老いじたくの具体例
 
 
 老いじたくの具体的方策については、一般的、常識的には次のようなこと  が考えられます。
 1. ある程度の財産の確保
 老後を恙なく過ごすには、先ずある程度の生活資金の確保(年金、預金、貯金、退職金等)と不動産、有価証券等の所有等も必要と思われます。
  ―――恒産あれば恒心あり――― 
 2. 健康維持 
 健康寿命を延ばすため、心身を健全に保つ。若年期から健康を心掛けることも必要となります。 
 3. 資格の取得
  定年後の20~30年余にわたる余生に備えて、いろいろな「資格」や  「免許」を取得しておくこと。
 「資格」には、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、弁理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、測量士、宅地建物取引主任者、フィナンシャル・プランナー(FP)、介護・福祉関係の資格等も考えられます。  
 4. 若年からの趣味や芸事に勤しむこと。 
 5. 良好な友人関係の維持確保―同窓会、同期会、趣味等の同好会等には、熱意をもって出席すること。  
 6. 良好な親子関係を確立すること。  
 7. 地域社会との共生、隣近所との友好関係、相互助けあい関係の確保これは、老後の生活で最も重要なことの一つであります。  
 8. かかりつけ医師、知り合いの弁護士、行政書士、税理士等の専門家を有効に活用すること。  
 9. 定年後、或は定年前から、山間部の山村や島等の漁村に移住し、パン屋、民宿、レストラン等を夫婦で経営し、地域社会と共生し、人生の楽園をを実現すること。(テレビ朝日「人生の楽園 新しい生き方の提案」は、非常に参考になります。)  
10. 財産管理等からみた老いじたく
 (本冊子では、これらについて以下に具体的に説明します。)
     〇 財産相続の基礎知識の習得
     〇 遺言書の作成
     〇 尊厳死宣言書(事前指示書)の作成
     〇 エンディングノートの作成
     〇 財産管理・事務代行契約書の作成
     〇 死後の事務委託契約書の作成
     〇 任意後見制度の活用
     〇 成年後見制度の活用
     〇 悪徳商法や特殊詐欺等への対応
     〇 相続・相続税対策 
11. その他身辺整理等
    
  (注記)老いじたくを考えるのに一般論として、参考になるのが、   
 1. 「定年後 50歳からの生き方、終わり方」 楠木 新著 中公新書刊
   第二の人生をどう充実させたらよいか。取材を通じ、定年後に待ち受ける「現実」を明らかにし、真に豊かに生きるためのヒントを提示する。 (同書帯より)   
 2. 「精神科医が教える定年から元気になる「老後の暮らし方」」 保坂 隆著 PHP文庫
    定年後の「悠悠自適」「趣味三昧」「のんびり暮らす」・・・現役時代には心魅かれるこれらの理想の暮らしも、実は「人生の最終シーン」までを満足させてくれる生き方ではないとの指摘など感銘をうけます。
 
 
第4章 財産管理等からみた老いじたく   
1. はじめに  
(1) 自己の財産を確保し、自分らしい尊厳ある人間的な老後を送るための老いじたくの必要性 
 日本では、ご承知のように、高齢者人口が増加の一途を辿りつつありますが、読者の皆様も共に長生きし、第二の永い老後を送る可能性は高いのです。
 このような状況下、年をとっても自分では何時までも元気でいると思っていても、いつ”ボケ“の症状が出てきたり、怪我や病気で身体が不自由になることがあるかもしれません。
   “ボケ”の症状が進行して認知症になったりしたら、判断力や記憶力が失われてきますが、自分の財産を確保し、自分らしい尊厳ある人間的な老後を生き抜くためには、どうしたらいいのでしょうか。
   また、判断力や記憶力はあるが、怪我や病気で身体が不自由になった方は、自分の財産をどう確保し、預金の引き下しや諸々の支払い、住いの修理工事等はどうすればよいのでしょうか。或は、老人ホームや施設に入居するとき、飼っているペットは、どう処置したらよいのでしょうか。老後には考えねばならないことが一杯あります。
  (2)  早めの老いじたくの必要性
   
認知症等になっても、配偶者、子供、孫等の親族がそばにいて、面倒を見てくれる家庭では、その親族に迷惑をかけることはあっても、一応安心でしょうが、この場合も親族に虐待されないように、又自分らしい尊厳ある生活ができるように、事前に老いじたくを考える必要がある場合もあるでしょう。
   一人住まいの高齢者や高齢夫婦だけ或は高齢者同士だけの生活を送っている方は、特に上述の老姉妹の悪徳商法による被害の例からも分かるように早めの老いじたくが必要でしょう。
   “ボケ”が始まったり、認知症等になったり、身体が不自由になったりすると、普段は疎遠にしている推定相続人や第三者である知人が、介護する等と称して近づいてきて、勝手に財産を処分したり、或はなるべく相続財産を減らさないように、レベルの低い介護施設に押し込んだりすることも、間々あることなのです。
 老後を自分らしい尊厳ある形で生き抜くためには、自分の財産は自分のために使うことを基本にして、早めの老いじたくが必要になるのです。
   
  (3) 老いじたくにおける専門家の活用 
   老いじたくに必要な対策を考えるにあたっては、是非近所の専門家(街の法律家の行政書士、高度の専門知識のある弁護士、税務面での税理士、社会保険関係の社会保険労務士等)に相談することをお勧めします。
   日本人は、専門家に聞けばお金がかかると言って、敬遠しがちですが、一寸相談しておけば防げた事件も自己判断で大きな損害を蒙る結果になることも、往々にあることなのです。
   できれば、必要に応じて、顧問弁護士、知合いの行政書士・税理士・社会保険労務士などを確保しておきましょう。 

 
   
2. 財産相続の基礎事項の習得
   老いじたくとして、自己の死後財産がどう相続されるかを知り、対策を講じることは、次に述べる遺言制度とともに、大切なことと思われます。      
  A. 相続とは
  (1) 相続とは、現行民法では、人が死亡したときに開始し、死という事実(失踪宣告、認定死亡を含む)を理由として、その人(被相続人ヒソウゾクニン)の財産に属した一切の権利義務が法律の規定により、相続人に承継されることです。  
  (2) 扶養請求権などの一身専属的な権利義務は承継されません。  
  (3) 遺言書が残してあるときは、どうなるか。
   遺言書が残してあるときは、遺言書にどういう仕方で財産が承継されるかにつき被相続人の意思が表示されていれば、原則として、遺言書による相続が行われ、遺言書が残されていないときは、原則として民法のルールに従った法定相続により処理されることになります。 
  B. 法定相続人と法定相続分
(1) 法定相続人とは、遺産相続についての遺言書がなくて、人(被相続人)が死亡したとき、誰がその財産を承継するかを民法で定めた人(配偶者と民法の定めた一定範囲の血族)のことです。
       
    〇法定相続人となる者とその順位 
   イ. 配偶者:被相続人の配偶者(夫又は妻)は常に相続人になります。いわゆる内縁の夫又は妻(婚姻の届出をしていない事実上の夫又は妻)は法律上配偶者ではないので、内縁配偶者の相続人になりません。 
  ロ. 血族:
  第一順位:子(実子,養子も同順位です)
        被相続人に子があれば、先ず第一順位の子が 相続人になり、
        第二順位の尊属や第三順位の兄弟姉妹は相続人になりません。
  第二順位:直系尊属(親等の異なる者の間では、その近い人が先になります)
  第三順位:兄弟姉妹
   以上を要するに、被相続人の配偶者は常に相続人になり、
        ⅰ 子があるときは、配偶者は子と共に相続人になり、
        ⅱ 子がないときは、配偶者と直系尊属が共に相続人になり、
        ⅲ 子もなく、直系尊属もないときは、配偶者と兄弟姉妹が共
          に相続人になり、
        ⅳ 子も、直系尊属・兄弟姉妹が共にないときは、配偶者のみ
          が相続人になります。  
  (2) 法定相続分
   法定相続分とは、被相続人が相続分(遺産全体に対する権利の割合)について、何らの意思を表明していなかったとき(遺言がなかったとき)に、民法の定める相続人の承継する遺産全体に対する割合のことです。それは、次の表の通りです。
 
法定相続分 aグループ bグループ
配偶者 直系尊属 兄弟姉妹
ⅰ.子と配偶者が相続人であるときの相続分 2分の1 2分の1 × ×
ⅱ.配偶者と直系尊属が相続人であるときの相続分 3分の2 3分の1 ×
ⅲ.配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときの相続分 4分の3 4分の1
ⅳ.bグループの子や直系尊属、兄弟姉妹がいなくて、配偶者のみが相続人であるときの相続分  100% ―   ―  ―
   
(注記)
   イ.    各グループに複数の相続人がいるときは、そのグループ内での各自の相続分は均等です。例えば、配偶者と子2名が相続人であるときは、それらの相続分は配偶者2分の1、子は各自4分の1です。すなわち、グループ内の相続人が複数いるときは、その相続分を頭割りで等分に分けます。 
   ロ.    婚姻関係にない男女間に生まれた非嫡出子「婚外子」も父から認知されれば、子として父の相続人になります。
   非嫡出子の相続分は、従来嫡出子の2分の1とされておりましたが、平成25年9月4日の最高裁の違憲判決(決定)により、民法が改正され、平成25年9月5日以降は、嫡出子も非嫡出子も相続分は同等になりました。
   ただし、平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続について、上記最高裁の決定後に遺産の分割をする場合は、最高裁の違憲判断に従い、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等なものとして処理されます。しかし、この間遺産分割が成立しているなど、確定的なものになった法律関係には、この違憲判断は影響しないとされています。 
   ハ.    配偶者も直系尊属もいないときは、子(代襲相続の場合はその直系卑属、孫等)が全部相続します。(代襲相続については、以下に説明します。)
   ニ.    胎児は相続に関しては、既に生まれたものとみなされます。無事出産をしたときから相続権を持ちます。 
   ホ.    兄弟姉妹には、遺留分がありませんので、子や父母等の直系尊属もいないときは、遺言により、配偶者に遺産全部を相続させることができます。
   もっとも、子や父母等の直系尊属がいても、遺言書で、遺産全部を配偶者に相続させる手がないわけではありません。ただし、この場合、子或は父母等の直系尊属から遺留分減殺請求をされるおそれがありますので、その覚悟をした上で、遺言書に何故このような遺言をしたのか(例えば、子らには既に多額の生前贈与をしている、配偶者が苦労して財産を作ってきたこと、配偶者の今後の生活が心配なこと等)を分かりやすく付言して置き、遺留分減殺請求をしないように要請する手もあります。要は生前から子らにそれなりの処遇をし、子らの生活が安定している等の事情の下で、信頼関係を築いておくことが重要になります。 
   ヘ.    法定相続分は、遺言によって変更できますが、遺留分に反することはできません。
   遺留分侵害行為は、当然無効というわけでなく、遺留分を侵害された人(遺留分権利者)が、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺留分侵害者に減殺請求し、遺留分を回復できるのです。
   *遺留分については、下記に説明します。
 
  Q: 先妻の子と後妻の子の相続分はどうなるか? 
  A: 先妻及び後妻との間で、婚姻中に生まれた子は、父親の遺産に関してはいずれも第1順位の推定相続人となり、その地位は平等であり、法定相続分は均等です。
   
       父死亡による相続開始で、法定相続分は母2分の1、子4分の1、子は4分の1になります。
   実務的には、上記の例で、父死亡に伴う共同相続人間の遺産分割協議を、後妻の三者で行う訳ですが(遺言書はなし)、往々にして、側と先妻側とが、永年没交渉にしており、父葬儀の際もは呼ばれていない例もあって、側としてはとるものは取るという気持ちが強くなり、遺産の存在に疑心暗鬼になって、もっと遺産はあるのではという気持になりがちのようです。又、あくまでも法定相続分を杓子定規的に貫徹する傾向(側の諸々の事情を斟酌したくない傾向)が見受けられ、そのため、遺産分割協議が難航し、弁護士に解決をお願いすることになり、かなりの費用と時間がかかることがあります。

教訓としては、父はできれば余裕のあるときに、子に対して、それなりの配慮をして置くべきでしょうし、遺言書で遺産を残しておきたいところです。又、法事や葬儀には、子らも参列してもらい、お互いに接触をもっておくことも、困難な心理的事情があるにせよ、望ましいと言えそうです。  
 
   C. 代襲相続(だいしゅうそうぞく) 
  (1)    被相続人の子が相続開始以前に死亡し、又は相続の欠格、推定相続人の廃除があり、相続権を失ったときは、被相続人の子の子(被相続人の孫)が、子(被相続人の子)に代わって、相続人(代襲相続人)になります。この場合には、何世代にわたっても代襲相続が認められます。
   
     
       (上記はの死亡以前に、その子が先に死亡していた事例で、この場合、が死亡したとき、が生きておれば承継できた相続分を代襲相続する。)  
  (2)    この代襲相続は、第三順位の兄弟姉妹が相続する場合にも、認められており、被相続人の兄弟姉妹が相続開始以前に死亡し、又は相続の欠格、推定相続人の廃除があり、相続権を失ったときは、その兄弟姉妹の子(被相続人の甥、姪)がその兄弟姉妹に代わって、相続人になります。この場合、1代限りしか、代襲相続は認められません。
  
     
     (上記は、兄弟姉妹の代襲相続の場合の図で、の死亡以前に、が死亡していたときの事例ですが、の死亡による相続開始により、相続人になるのは、の妻、です。この場合、万一が死亡していたとしても、の子がの相続について代襲相続することはありません。)
 
  (3) この代襲相続は、直系尊属には認められておりません。被相続人の父母がいずれも死亡し、祖父母は何れも生存していたとしても、代襲相続人にはなりません。
  
  (4)  民法の定める相続の放棄は、代襲相続の原因にはなりません。例えば、子の全員が相続の放棄をしたときは、孫以下の直系卑属は相続人にならず、第2順位の直系尊属が相続人になります。その直系尊属がすでに死亡しているときは、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。
   その意味では、被相続人が莫大な負債を残して死亡したときは、その子らはこの相続放棄を行うかもしれず、放棄したときはその負債が兄弟姉妹又はその子らにまで、相続財産として回ってくる(負債を相続する)ことも注意しておく必要があります。
  
   D. 相続人の欠格と推定相続人の廃除 
  (1) 相続欠格                         
   民法の定める次のような一定の欠格事由に該当する行為を行った者は、法律上当然に被相続人との関係で、その相続権を剥奪されます。これが相続欠格制度です。これにより、その者は相続人にも、受遺者(被相続人の財産の遺贈を受ける人)にもなれません。
 イ.故意に被相続人又は相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、
      又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  ロ.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
  ハ.その他民法891条に定める不正な、正義に反する行為をした者

(注記)
 〇 被相続人を殺害した子の子(孫)は、被相続人の相続に関し
   父に代わって、代襲相続することができます。
 〇 遺言書の破棄・隠匿が相続に関する不当な利益を目的とし
      ないときは、相続欠格事由にあたらないとの最高裁判決があります。
  
  (2) 推定相続人の廃除
   遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者)が、①被相続人に虐待をし、②これに重大な侮辱を加えたとき、③その他の著しい非行があったときに、被相続人が相続させたくないと望む場合に、家庭裁判所に請求して、その者の相続権を剥奪する制度です。
 
(注記)
 〇 廃除の請求は、遺留分のない兄弟姉妹を対象にはできません。
 〇 廃除は遺言でもできます。
 〇 廃除は、後で取り消すことができます。
 
 
  E. 相続の単純承認、限定承認、相続放棄  
    前述のとおり、相続とは、ある人が死亡したときに始まり、その人(被相続人)の相続人が被相続人の財産上の権利義務を包括承継する制度ですが、民法の規定によると、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、原則として3ケ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならないと定められています。  
  (1) 単純承認
   単純承認とは、相続人が被相続人の権利義務を無制限、無条件に承継することを承認する相続人の意思表示のことです。単純承認すると当然不動産、預金、現金等の積極財産のみならず,借入金等の消極財産も無限に一切引き継ぎますから、万一被相続人に多額の借入金等の負債があるときは、承継した積極財産で返済できなくて、相続人固有の財産から返済する羽目になる事態も起こりえます。
    これでは、何のために相続したのかということになります。相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則として3ケ月以内(熟慮期間)に限定承認又は相続放棄をしないと、単純承認したものとみなされます。
   従って、被相続人に多額の借財等の負債がありそうなときは、相続開始の時点で、出来るだけ早く相続財産の内容を調査する必要があります。その結果により、次の限定承認又は相続放棄の申立てを原則として3ケ月以内という熟慮期間内にする必要があります。
なお、次の場合には、相続人は単純承認したものとみなされますので注意が必要です。

 
     イ. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(ただし、保存行為等は除く) 
     ロ. 相続人が限定承認又は相続放棄をした後でも、相続財産の全部又は一部を隠匿し、私(わたし)にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき(ただし、相続放棄により相続人になった者が承認した後を除く)
    ハ. 相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則として3ケ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき 

      (注記)
     〇    上記イの「処分」には、財産の原状又はその性質を変更する事実的処分行為(家屋の取壊し、山林の伐採など)や財産の権利の変動を生じる法律的処分行為(土地の売却など)が含まれるとされています。(松尾英夫編著「相続のすべて」民事法情報センター刊)高額の預金を被相続人の口座から引き出して、その葬儀費用に充てること等も、注意を要します。金額の多寡によっては、単純承認を擬制されることも考えられます。
     〇    このような処分により、単純承認が擬制されると、被相続人の財産が少なく、借入金等の莫大な負債があるときは、この莫大な負債を背負うという重大な効果がありますし、又、そもそも相続自体をしたくないと考える相続人にとっては、この処分により単純承認したことになりますので、相続財産に手をつけるのは、極めて注意を要します。 
  
  (2) 限定承認
   限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務及び遺贈を弁済することを留保して、相続の承認をすることです。なお、相続人が数人いるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同でする必要があります。
  
  (3) 相続放棄
   相続人には、相続をしないことを選択する自由が認められており、この選択を相続放棄といいます。
   相続放棄をすると、その相続人は初めから相続人にならなかったものとみなされます。相続放棄をすると、遺産を相続できませんが、被相続人の借金を払う責任から逃れられることになります。又、相続すること自体を潔しとしない人にとって、利用できる制度です。  
     イ. 相続放棄の手続
   相続放棄をする相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則として3ケ月以内の熟慮期間内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければならないとされています。
   この申述は、相続放棄申述書という書面で、上記熟慮期間内に、管轄の家庭裁判所にすることになっています。

【通常の相続放棄申述の手続の流れ】
〇 相続放棄の申述(申立て)・・・相続放棄申述書の提出
             (戸籍謄本等の添付書類が必要)
〇 家庭裁判所からの照会書を送付
〇 相続放棄者からの回答書の送付(裁判所へ)
      〇 回答書の内容審査
    |  ↓
    | 予備審問・審問
    |  |     ↓
    |  |    却下
    |  |     ↓
    ↓  ↓    即時抗告
〇 受理(裁判所) 
      〇 受理通知書の送付
〇 受理証明書の交付申請
〇 受理証明書を裁判所から送付

 上記のような手続きのため、申述から受理証明書の受領まで、相当の期間が必要です。
 又、相続放棄の結果、不動産を相続により取得し、所有権移転登記を申請する場合は、上記裁判所の受理証明書の原本の提出(法務局へ)が必要です。

この手続は、かなり複雑なので、専門家に依頼することも考えてください。  
     ロ. 相続放棄の効果
   上記のとおり、相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、相続放棄した者は、その相続に関しては、初めから相続人にならなかったものとみなされます。その結果: 
〇 負債(マイナスの相続財産)を引き継がない反面、プラスの遺産も取得できません。
〇 放棄の効果は絶対的ですから、放棄者に子(孫)以下の直系卑属がいたとしても、それらの直系卑属は代襲相続人にはなれません。
〇 相続人が被相続人の相続財産を処分するなど民法921条(法定単純承認)の規定に該当する事由があると、例え、相続放棄の申述が受理された場合であっても、相続放棄の効力が失われてしまうことがあります。
〇 相続放棄の申述が受理されても、実体関係を確定する効力はないと考えられているため、相続放棄に法律上の無効原因があると、後日債権者等から相続放棄の無効を主張されることもないわけではありません。
    ハ. 事実上の相続放棄
    正規の相続放棄の申述手続が、やや厳格なこともあって、        この相続放棄の正規の申述手続きを避け、形式上は共同相続したことにしておいて、事実上相続財産を一人に集中し、他の相続人は相続放棄をしたのと同じ結果をもたらす「事実上の相続放棄」が次のような形式等でおこなわれることがあるようです。
〇 遺産分割協議方式
   遺産分割協議で、一部の相続人の相続分をゼロにしたり、不動産を一人の相続人に集中して相続させ、他の相続人には金融資産等を相続させたり、他の財源から補填するなどして、事実上の相続放棄を実現する方法
〇 特別受益証明方式
   共同相続人の一人以外の相続人は、生前贈与を受けているため、相続分はない旨の書面を作成して、相続登記等をすませる方法

(注記)
   これらの事実上の相続放棄は、実体と異なる場合には、後日紛争を生じるおそれもあるので、注意を要するとされています。 
     ニ. 相続開始前の相続放棄は可能か?
   相続開始前における相続放棄は、認められません。又、相続開始前に、他の相続人と相続放棄をする契約をしても無効であるとされます。
 
    【気になる話題
 増える相続放棄  30年で4倍
 司法統計によると、相続放棄は年々増加し、2015年は18万9381件で、4万6227件だった1985年の4倍超に達し、2008年以降7年連続で増加している。(2017.1.26読売新聞による)同新聞によると、その増加の原因を、親の死後借金が判明したケースのほか、離れて住む親が亡くなったとき、空き家になる家や土地を相続放棄するケースが増加している例をあげている。又、この相続放棄が全国の空き家問題に深刻な影響を及ぼしているとしている。 
 
   F.遺留分制度
  (1) 遺留分とは、一定の相続人が相続に際して法律上取得を保障されている相続財産の一定割合をいいます。 
  (2) 趣旨
   誰でも、自己の所有している財産を生前であろうと、死後であろうと(遺言や死因贈与によって)、自由に処分できるのが原則です。
   しかし、例えば遺言書によって全財産を養老院に寄付してしまったりしたら、残された妻や子供の生活はどうなるのでしょうか。又、相続人の一部に全財産を与える遺言をしたら、他の相続人は何も貰えず、公平を欠くことになりそうです。
   そこで、被相続人が持っていた財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する必要があります。
   私有財産制度による財産の自由処分の原則と相続人の保護という二つの要請を調和させるために遺留分制度が設けられているのです。 
  (3) 遺留分の認められる範囲と割合
   配偶者、直系卑属(子供など)、直系尊属(親など)は、遺留分が認められますが、兄弟姉妹には遺留分は認めらません。
   遺留分が認められる割合は、
  イ.配偶者や子供が相続人の場合         相続財産の2分の1
  ロ.親などの直系尊属が相続人の場合    相続財産の3分の1
となっています。
   個々の具体的遺留分は、全部の遺留分を法定相続分に従って配分して算定されます。例えば、被相続人が妻と子供2人を残して死亡したときは、全体の遺留分は2分の1であり、
   妻の具体的な遺留分は、 2分の1×2分の1=4分の1
   子供それぞれの遺留分は、 2分の1×2分の1×2分の1=8分の1 
  (4) その他の注意点
〇 遺留分を侵害された遺留分権利者及びその承継人は自己の遺留分を保全するのに必要な限度で贈与や遺贈などを減殺請求できます。ただし、侵害の事実を知ってから1年以内、相続開始から10年以内に行使する必要があります。
〇 遺留分権利者は、相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て、遺留分を放棄できます。ただし、合理的な理由が必要です。 
 
   G.特別受益の持戻し
  (1) 特別受益制度と持戻し
   共同相続人の中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者(即ち特別受益者)があるときは、共同相続人間の公平を図るため、この特別受益額を遺産の中に回復させることを特別受益制度といいます。
   そして、これらの一定の贈与等を遺産に回復し(持戻し)、それに基づいて遺産分割をするというのが、特別受益の持戻しの制度です。
   民法は、被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に特別受益者の受けた贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、そのみなし相続財産の価額に指定相続分(遺言による)又は法定相続分割合を以って算出された相続分の中から、その遺贈又は贈与の価額を控除したその残額を、その者の相続分とすることにしております。

 【相続開始時の財産の価額+贈与】×その者の相続分-【遺贈又は贈与」=特別受益者の相続分    となります。 
  (2) 持戻しの方法
   価額によって持ち戻すことになっています。例えば、生前に独立開業資金として3,000万円を贈与された事例では、この3,000万円が特別受益となり、被相続人が相続開始時(死亡時)に有していた遺産が1億円なら、これに上記の3,000万円を持ち戻すことになり、被相続人の遺産総額(みなし相続財産)は、1億3,000万円となり、この1億3,000万円を基礎にして、遺産分割を行うことになります。 
  (3) 特別受益の範囲
〇 遺贈
〇 生前贈与 
     イ. 婚姻,養子縁組のための贈与
   持参金、嫁入り道具、結納金、支度金などが含まれます。 
      ロ. 生計の資本としての贈与
   子供の新規開業のための準備資金の提供・贈与や独立して生活するための土地・建物の贈与など、生活の基礎として役立つような贈与は一切これに含まれるとされています。
 教育費は、高校程度は通常これに含まれないが、子供の一人だけが大学教育の資金を受けている場合は、含まれるとされています。 
  (4) 超過受益者に対する取扱
   遺贈又は贈与の価額が、その者の相続分に等しい場合,およびそれを超える場合は、受遺者(遺贈を受けた者)又は受贈者はその相続分を受けることが出来ないことになっています。つまり超過受益を受けた者は、その超過分は返還する必要はありません。  
  (5) 持ち戻しの免除
    「持ち戻しをしない」という被相続人の意思表示(明示又は黙示)があったときは、特別受益の持ち戻しが免除されます。ただし、遺留分の規定に反しない範囲に限られます。
 
   H.寄与分制度
  (1) 趣旨
  この制度は、昭和56年1月1日施行の制度です。例えば、兄弟のうちの一人が認知症の親の面倒を長い間みて、その遺産の維持又は増加に寄与したにもかかわらず、相続分が他の相続分と同じだったら、その面倒をみた相続人は不公平感をもつことでしょう。このような不公平を是正する制度として、寄与分の制度が設けられたのです。 
  (2) 寄与分
   寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持、増加に特別の寄与(貢献)をした場合に、遺産分割に当たって法定相続分を超えて受けることのできる利益のことです。具体的には、共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護、又はその他の方法により、被相続人の財産の維持又は増加につき、特別の寄与をした者があるときは、その特別寄与者の相続分を次のようにします。
     イ. 被相続人の遺産-寄与分=みなし相続財産(a) とし、 
    ロ. 寄与者の相続分=みなし相続財産(a)×寄与者の相続分(法定又は指定)+寄与分
                         
  (3)  寄与の態様  
     イ. 被相続人の事業に関する労務の提供
   被相続人の事業である農業や商工業などに、無給又は無給に近い状態で、相続人が従事する場合等が考えられます。 
     ロ. 被相続人の事業に関する財産上の給付
   金銭の贈与、無利息の金銭の貸与、被相続人名義での事業用財産の取得等 
    ハ. 被相続人の療養看護
   相続人の一人が、認知症の親を永い間看護して、看護費用の支出を免れる場合等 
      寄与分として認められるのは、通常の貢献を超える必要があり、被相続人との身分関係により、通常期待されるような貢献は認められません。扶養義務や夫婦間の同居、協力、扶助の義務、親族間の扶合いの義務の履行とみなされるものには、寄与分は原則として認められません。例えば、妻の夫(或は夫の妻)に対する看護は、原則として特別の貢献としての寄与には当たりません。 
    ニ. その他の方法 
  (4) 寄与分の決定
   まず、相続人間で協議により定めることになりますが、この協議が成立せず、或は協議できないときは、家庭裁判所に決めてもらうことになります。
  
   I.相続財産 
  (1) 相続人は、被相続人の死亡の時(相続開始)から、その被相続人に属した一切の権利義務を承継します(ただし、一身専属的なものは除きます)。 
  (2) 相続財産には、積極財産(権利)と消極財産(義務)があります。 
     イ. 積極財産の主な例としては:
〇 不動産(土地建物)とその付属物件
〇 有価証券等
〇 現金、預金、貯金等の金融資産
〇 動産(自動車、書画骨董、宝石、家庭用動産等)
〇 借地権、借家権、特許権等の権利
〇 債権等々 
     ロ. 消極財産の主な例としては:
〇 借入金債務、ローン債務
〇 連帯債務
〇 保証債務
 原則として、相続人が承継しますが、身元保証契約は、相続時にその保証債務が既に発生している場合は、その発生した保証金額につき承継します。
 又、融資に関する個人の根保証契約については(その例としては、会社が銀行から金銭の借入を将来にわたって継続的に行う場合に、会社の経営者やその親族がその借入金の全部について返済を保証する契約)、保証人の死亡後に行われた融資(借り入れ)については、相続人は責任を負いません。
〇 未払い賃料等々
    生命保険金 ・・・相続財産に含まれないとされています。ただし、保険金受取人を被相続人自身と指定されている場合には、相続財産に含まれます。 
      死亡退職金 ・・・法律や就業規則等で受給権者が決めているは、受給権者固有の権利であり、相続財産に含まれないとされています。 
 
 
  J.遺産分割
  (1) 意義 遺産分割とは、被相続人の死(相続開始)により、相続財産は相続人に承継され、各相続人の持分に応じた共有になりますがこの相続財産を共同相続人の相続分と実情に応じて、各相続人に総合的に分配し、帰属させるための手続を言います。 
  (2) 分割の方法
   被相続人は遺言で遺産の分割方法を指定することができますが、この遺言による分割方法の指定がないときは、相続人全員の協議により遺産を分割することになります。
   この協議ができないときは、又は協議が成立しなかったときは、家庭裁判所の調停等によることになります。 
  (3) 多く行われている協議による遺産分割での注意点 
     イ. 協議の成立には、共同相続人全員の意思の合致が必要です。
 行方不明者などを無視して協議しても、それは無効になります。
 
      相続人の一人が行方不明者であるときは、家庭裁判所に不在者の財産管理人選任の申立てをして、その選任された財産管理人と他の相続人との間で、遺産分割協議をする方法があります。
この協議を財産管理人が成立させるには、家庭裁判所の許可が必要です。 
    ロ. 実務上、遺産分割協議書を作成するになりますが、これには共同相続人全員で、合意の上、各自署名し、実印で捺印します。 
    ハ. 相続人全員の合意の一致があれば、分割の内容は共同相続人の自由に任されていて、特定の相続人の取得分をゼロにすることもできます。 
     ニ. たとえば、父親が死亡した場合で、その法定相続人が母親と未成年の子供であるときは、母親は未成年の子供の代理人にはなれません(母親と子供の間には、利益相反関係があるため)。そのため、家庭裁判所に特別代理人の選任をしてもらい、この特別代理人が遺産分割協議書に署名捺印することになります。 
      ホ. 分割の態様
  遺産分割の方法としては、

〇現物分割
   共同相続人間において、遺産を現物で分配して、分割する方法で、基本的方法です。
〇代償分割
   遺産を多く取得する相続人が他の相続人に代償金を支払って、共同相続人間のバランスをとる分割方法です。
〇換価分割
   遺産を売却して、その代金を共同相続人に分配する分割方法です。
〇その他の方法

があります。 
      ヘ. 土地建物等の所有権移転登記(相続登記)をするときは、この遺産分割協議書(全相続人の印鑑証明書も添付)を添付して申請します。 
    .  遺産分割協議書の作成に当たっては、相続人全員が一堂に会して署名捺印してもよいし、持ち回りでそれぞれの相続人が順次署名捺印してもよいことになっています。
 

 
  遺産分割協議書の例

                                                    遺産分割協議書

   被相続人
      最後の本籍地 茨城県取手市   町  丁目  番地
      最後の住所   茨城県取手市   町  丁目  番   号
      氏    名   取手 一郎
      生年月日   昭和  年   月   日

   上記の者は、平成  年  月  日死亡したので、その共同相続人である妻○○、
長男○○及び長女○○の3名は、その相続財産について遺産分割協議を行い、次の通り
決定した。
1. 相続財産中、次の土地及び建物は、妻○○が取得する。
    ① 土地
          所在 茨城県取手市   町   丁目  
          地番 ○○番〇
          地目 宅地
          地積 ○○.○○㎡
   ② 建物
          所在 茨城県取手市   町   丁目 ○○番地○○
          家屋番号 ○○番○○
          種類  居宅
          構造  木造瓦葺2階建
          床面積 1階 ○○.○○㎡
                 2階 ○○.○○㎡
2. 相続財産中、○○銀行○○支店の故取手 一郎名義の
         貯蓄預金 口座番号 ○○
         普通預金 口座番号 ○○
         定期預金 口座番号 ○○
      の元利合計金については、
         イ このうち、金○○円については、長男○○が取得する。
         ロ 上記金額を除いた残額全部は、長女○○が取得する。
3. 相続財産中、○○銀行○○支店の故取手 一郎名義の
         普通預金  口座番号○○
         貯蓄預金  口座番号○○
      の元利合計金については、妻○○が全部取得する。
4. 本協議書に記載のない相続財産及び後日発見された相続財産は、すべて妻○○が取得する。

   以上の遺産分割協議の成立を証するため、本書3通を作成し、各相続人が署名捺印のうえ、
各自1通を所持するものとする。
  
  平成  年  月  日
  
    住所  ○○
     氏名  相続人 ○○     実印
  
    住所  ○○
     氏名  相続人 ○○     実印

    住所  ○○
     氏名  相続人 ○○     実印



    

  K.相続開始(死亡)後の相続税納税までの主な手続き   
    〇相続開始(死亡)
   診断書、検案書の交付を受ける。
〇葬儀の準備
   火葬許可証、埋葬許可証などの交付を受ける。
〇葬儀の実施
   葬儀費用の領収書はきちんと集めて置きましょう。
  (相続税法上の控除対象)
〇死亡届  7日以内に死亡診断書を添付して届出します。
〇初七日法要
〇遺言書の有無の調査
〇四十九日法要
   一般に四十九日法要が終わってから、遺産分割協議など相続財産の分割などに手を付けるのが普通ですが、緊急のときはそれ以前でも実行せざるを得ないでしょう 。
 
   
(遺言書があるとき) (遺言書がないとき)
*全ての遺産の承継につき遺言がある場合の例: 
自筆証書遺言書があるときは、先ず、家庭裁判所での開封・検認手続きを受ける。
 〇 公正証書遺言書では検認手続は不要。 
 〇 相続財産・債務の調査 
 〇 遺言の執行
   普通当該遺言で遺言執行者の指定をしていますが、遺言執行者は相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持っています。
   遺言書に土地建物を「相続させる」旨の遺言があるときは、その相続人は単独で名義変更の相続登記申請ができます。
 〇 相続の放棄、限定承認をするかどうかを決定し、もしこれらの手続をするなら・・・3ケ月以内に家庭裁判所に申述 
 〇 所得税の準確定申告・・・故人の所得税につき4カ月以内に申告納税 
 〇 相続税申告と納付・・・10ケ月以内
 〇 必要に応じ、適宜の時期に、不動産、動産、預貯金、有価証券等の名義変更をします。    
   


〇  相続人の確認
 〇 相続財産、債務の調査
 〇 相続の放棄、限定承認の手続をするかどうかを決定し、もしこれらの手続きをするなら・・・3ケ月以内に家庭裁判所に申述します。 
 〇 全相続人で遺産分割協議、遺産分割協議書の作成 
〇  所得税の準確定申告・・・4カ月以内に申告納税  
〇  相続税の申告納税・・・10カ月以内
〇  必要に応じ、適宜の時期に不動産、動産、預貯金、有価証券等の名義変更手続きをします。 
          
 
(その他の手続き)
1. 公共料金その他の日常生活上のサービスに関する名義変更、届出
      ・電気・ガス・水道・・・なるべく早く  各営業所へ(名義変更)
      ・電話           同     NTTへ(同)
      ・NHK受信         同     NHKへ(同)
      ・携帯電話           同     各事業者(AU等)へ(解約)
      ・プロバイダー         同       同へ(解約)
      ・会員カード        同     カード会社へ(解約)
      ・クレジットカード       同       同へ(解約)

2. 返却する物
                   ( 期限 )       ( 提出先 )
      ・運転免許証     なるべく早く     警察署
      ・パスポート          同          県旅券課
      ・身障者手帳        同           福祉事務所
      ・国民健康保険証  14日以内       市役所
      ・健康保険証        5日以内        各勤務先
      ・年金手帳       14日以内        社会保険事務所
      ・その他

3. 年金、一時金等を請求する手続
      ・埋葬料、葬祭費の請求   2年以内   市役所、社会保険事務所等
      ・未支給年金の請求      14日以内   社会保険事務所等
      ・遺族年金の請求         5年以内      同
      ・死亡一時金の請求       2年以内      同
      ・死亡保険金の請求    2~3年以内   生命保険会社等
      ・入院・手術給付金請求      同        同
      ・その他の社会保険関係等・・・市役所等に確認

4. その他の手続(一部上記相続手続と重複します)
      ・所得税の準確定申告と納税     4カ月以内     税務署
      ・消費税・地方消費税の申告納税     同         同
       (被相続人が個人営業者等の場合)
      ・市町村民税等・・・市役所等に確認
      ・相続税の申告納税            10ケ月以内      同
      ・土地建物の所有権移転登記     なるべく早く    法務局
      ・自動車の移転登録                同       陸運局
      ・預貯金の名義変更等              同     銀行等の金融機関
      ・株式の名義変更                  同        証券会社等
      ・生存配偶者の復氏届            -          市役所等
       (婚姻前の氏に戻す場合)                
      ・生存配偶者の姻族関係終了届    -          市役所等
       (いわゆる死後離婚といわれるもの)
      ・その他
(注記)上記の手続については、「我が家の相続を円満にまとめる本」弁護士小堀球美子著・実務教育出版と「相続のすべてQ&A」松尾英夫編著・民事法情報センターの記述を参考にして作成した。
 
  【気になる話題】   
    【死後離婚が急増  配偶者の親族と絶縁】
                      ・・・ これは、2017年2月18日付読売新聞の見出しであります。
   亡くなった配偶者の親族(姻族)との関係を法的に解消することを目的として、民法728条による「姻族関係終了届」を市町村役場に提出することを「死後離婚」とか呼ばれているといいます。
新聞その他によると、この「死後離婚」は、
  イ 義父母その他の姻族の介護負担をさける。
  ロ 姻族の法的扶養義務を負いたくない。
  ハ 「家」に縛り付けられたくない。
  ニ 自分の人生は自分で選択したいし、夫の死後まで自分の人生を縛られたくない。
  ホ 義理の父母等と一緒の墓に入りたくない。
   等の理由によるもので、特に女性にその増加傾向があるという。(平成29・2.18付読売新聞他)

 (ご参考)
     *1 法務省の戸籍統計によると、「姻族関係終了届」は、平成27年は2,783件で、
        10年前の平成18年の1,854件の50.1%増となっています。
     *2 この「姻族関係終了届」制度は、戦前の「家」制度の下で、夫死後も夫の「家」に
        拘束されてきた妻の解放を法的に保障したもので、その結果、婚姻により氏を変更
        した生存配偶者は;
         〇姻族関係を維持し、かつ、氏を変えない。
         〇姻族関係を維持し、かつ、婚姻前の氏に復する。
         〇姻族関係を終了させ、かつ、氏を変えない。
         〇姻族関係を終了させ、かつ、婚姻前の氏に復する。
        の四つのうち、いずれかを選択できるようになったのであります。
          (「基本法コンメンタール第5版 親族」日本評論社刊による)
          *3 民法728条
          第1項 姻族関係は、離婚によって終了する。
          第2項 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了
              させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
                   民法751条第1項
          夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
  【気になる話題】・・・・相続法制の改正へ検討されている      
       現在、法務省では、相続に関して、配偶者の居住権の保護、遺産分割(配偶者の相続分の見直し等)、遺言制度の見直し、遺留分制度の見直し、被相続人の療養看護等に関する相続人以外の者の貢献を考慮するための方策に関し改正するか否か、法制審議会において検討中であります。