魚雷の今昔
佐藤 幸彦  
 我等の時代の魚雷は、艦艇の土手っ腹に穴を明けるものだった。1980年頃、特許のライセンス交渉のため、アメリカのシカゴ付近にあるG社を何回か訪問した。G社はカーバッテリーで有名で、その他モーターや配電盤が主な製品だったが、当時ハイテク化指向で非常に前向きにいろいろなことに手を出しつつあった。非常にアメリカ的なやり方だと感心したのだが、G社は新しい分野に乗り出そうと思うと、自社にシーズがあるかどうかに関係なく、直ちに有望な企業を買い取ってしまうのである。「我が社は来年度はコンピューターに力を注ぐことにした」と年報に発表したので、モーター・配電盤の会社がどうやって?と不思議に思っていたら、中堅クラスのミニコンピューターの会社を既に買い取っていた。  そのような方法で魚雷の制御装置を製造するようになっていた。尤も国防省の仕事に参入するのはそう簡単ではないはずであるが。  魚雷の制御装置とはA5ぐらいのサイズの基板に実装した、いわゆるハイブリッドICであった。私の仕事の話題とは関係ないのだが、担当者が得意になって話してくれた。 最近の(1980年現在)魚雷は船腹に穴を明けるのではなく、船腹の下に潜り込んで爆発し、キャビテーション、即ち爆発で大きな真空部分を発生して、艦艇をへし折ってしまうのだと言う。魚雷は自身の持つソーナーによって誘導され、船腹の真下に来た時に超音波で相手に信号を送る。味方の船ならばその信号を理解して、返答の信号を送る。つまり山と川との合言葉である。もし味方と判れば魚雷は通り過ぎて自沈する。合言葉が通じなかったら、直ちに爆発するのではなく、魚雷は一旦船底を通過してからUターンして来て、正確に船底の真下を捕らえて爆発するのである。(私の貧しいヒアリング力による誤りがあるかも知れない)我が国産の魚雷がどのようなものか私は知らない。アメリカの30年前に勝るだろうか?。  最近韓国の哨戒艦が北による攻撃と思われる事故で沈没した。正に艦体をへし折っている。これにはソーナーで魚雷を正確に目標に誘導し、船腹の直下を通過する瞬間に爆発させる技術を伴わなければならない。それを全自動で出来たのかどうか、関心を以て眺めたい。  
平成22年5月