4. 陣羽織キリムの主ボーダーに似したキリム
動物文キリム 
メダリオンコーナーデザイン 
ベルリン国立博物館蔵
イラン イスファハン 16世紀後期 材質 羊毛 絹
寸法 2.21x1.36m(パルデ)

似ているのは主ボーダーにカルトーチが使われていること、およびカルトーチに動物文様が描かれている点である。
しかしカルトーチの絵柄は陣羽織では鹿の戯れ、鹿を襲う獅子、一方ベルリンキリムは走るトラとライオンの走獣文で、かなり図案も色調も違っている。
現在ボーダーにカルトーチを描いた絨毯に出会うのは非常に稀である。イスラム教シーア派の本拠地コム市(テヘランから少し南)はオール絹絨毯(縦横糸、パイルが絹)の製作地として、非常に有名である。この製品の小物(長さ 1.0から1.5m、プシテイ、ザロチャラック)絨毯で見かけることがある。
ここ数十年イラン市場で、天然染料のカルトーチ型ボーダーの古いもの(長さ1.5メートル以上)を探しているが出会ったことがない。もし見つかれば非常に幸運だと思っても間違いない。
名古屋の徳川美術館には数枚ある。
勿論現在ではカルトーチのボーダーキリムなど全く皆無といってもいいだろう。
ボーダーにカルトーチが使われる絨毯でも、カルトーチに動物闘争文が描かれるものは、非常に珍しい。秀吉のキリムのように、カルトーチにも動物闘争文が描かれているのは例外中の例外で、誠に希少価値がある。サファヴィー朝以降、カルトーチに描かれるものはペルシャの有名な叙情詩人“ハーフェズ”“サアデイー”の詩文、あるいは“コーラン”の経文である。そして、その書体は16世紀イラン書道史上最大の書家ミーレ エマードが創ったナスタアリーク体で描いている場合が多い。(右図参照)
この書体は本来耳で聞いて楽しむ詩に、目で見て楽しむという喜びを与えたと云われている。
この他にも花をモチーフにしたシャーアッバス文様、パルメットに枝、葉、帯状雲文などを繋ぎ合わせたデザインが描かれることもある。(徳川美術館蔵)
続く