スペースシャトル事故確率3%の話
川村 知一




7月21日、スペースシャトルのラストフライトの任務を終えたアトランティスが無事ケネディー宇宙センターに帰還した。(写真1)


スペースシャトルは2度の大事故を乗り越えて、約30年間にわたり宇宙開発の歴史的役割を担ってきた。




スペースシャトルが計画されたのは米ソ冷戦時代で、米国の威信をかけたプロジェクトであったため、盛りだくさんの目的が織り込まれ、部品点数は250万個に及んだ。
よく言われる部品点数の話で、懐中電灯10個、トランジスターラジオ100個、テレビ1000個、自動車10,000個、航空機100,000個であるから、250万個という数字は、いかに巨大であるかが分かる。


1998年、豊橋でアルミニウム関連の国際シンポジウムICAAが開催され、招待講演では米国宇宙航空材料の総本山とされる、ヴァージニア大学のStarke教授により、当時開発中であったボーイング777に使用される、新しいジュラルミン材料に関する講演があった。
横道に逸れるが、この講演で残念な情報を得た。
 ボーイング747、757、767までは既存の2000系、7000系高力アルミニウム合金が使用され、古河は手持ちの製造条件(Alcoa StandardPractice)そのままで、ボーイング社の製造認定を比較的容易に取得できたが、777は機体のほとんどに新合金を採用し、アルコア社がボーイング社向け高力アルミニウム合金材料を独占してしまう戦略が伺えた。


ICAAの後、アリシウム(Al-Li合金)国家プロジェクト委員会でStarke教授に、スペースシャトルについて講演をお願いした。
聴講者はアルミニウム圧延各社、三菱重工はじめ機体メーカー、航空宇宙工業会、JRCMなど20名ほどであった。


講演概要

1.スペースシャトルの打ち上げコストは、1kg当たり500万円(為替レートは1ドル=120円)、よって60kgの人間の打ち上げコストは3億円(為替レート80円では2億円)。 

2.米国ではAl-Li合金板が既に実用化され、スペースシャトル打ち上げロケット燃料タンクに採用され(従来は日本のH-Ⅱロケットと同様にA2219合金)、5%の軽量化が可能になった。

3.スペースシャトルの事故確率は3%。


 講演の中で事故確率3%と聞いて驚きを感じた。
講演を聞いた直後、事故確率3%は、さほど裏付けのない数値かと思っていたが、部品点数が250万個に及ぶと聞いて、部品の信頼性から算出された信頼性の高い数値であると思われた。
 チャレンジャーが発射後73秒で爆発したのが1986年、講演は1998年、コロンビアが帰還途中大気圏突入で空中分解したのが、講演の後2003年であった。
 スペースシャトルの打ち上げ回数は135回であったので、Starke教授が言う事故確率3%からすると、ラストフライトの任務を持ったアトランティスの無事帰還において、コンピュータ・トラブル発生など、私には何かと気になるニュースであった。

平成23年7月26日