鉄道車両アルミ化と新幹線車両の疲労寿命など(後篇)
川村 知一

[続き] 後段

その1.東海道新幹線開通とスチール車体の金属疲労)

昭和39年(1964年)に東海道新幹線が開通し、使用された車両は0系と呼ばれスチール製であった。当時の日本では構造用部材としてアルミの認知度は低く、アルミ大型押出形材も供給体制が無い時代であり、実績のあるスチールが自動的に採用された。

開業後しばらくして予想外な事態が生じた。車体の金属疲労が予想以上に早く進行し(気密性の低下→乗客の鼓膜に影響)、金属疲労はトンネル通過回数(気圧変動による圧縮、引っ張りの繰返し応力の発生)に大きく依存することが判明した。

当面の対応として0系車両の廃車基準を13年とし、早期入れ替えを行った。

その後1980年代後半に、対策を講じた100系を投入したが、スチール製のままであった。

(*航空機の機体の金属疲労は離着陸(地上と上空の気圧変動)回数に依存し、新機種の開発時には地上ベンチテストで想定寿命7年の2倍の14年分の繰返し荷重テストを行う、とされる:米国宇宙/航空材料の総本山であるヴァージニア大学シュターク教授の講演より)

その2.初代「のぞみ」300系アルミ車両の登場(写真2

200系、500系については亜流でもあり、話を割愛します。)


大型形材を活用したアルミ車両新幹線が
1990年に登場し、0系以来のフルモデルチェンジであった。当初は「スーパーひかり」で、1992年から「のぞみ」として営業運転を開始した。

構造上の特徴として、スチール車体ではフレームだけで強度を得ていた(スキン=板は覆いだけの役割であった)が、大型ソリッド形材ではスキンも強度に寄与できる構造になり、等剛性で高比強度となり、軽量化が可能になった。

*ちなみに100系の車体本体質量8.5tに対し300系は6.0t2.5t29%)軽量化された。

300系新幹線車両の構造を写真3.に示すが、600mm幅のソリッド形材からなり「シングルスキン構造」と呼んでいる。大型ソリッド形材は四日市の軽金属押出開発の9400t油圧プレスで、角型コンテナーを使用して押出された材料である。

また溶接は形材を長手方向直線的にMIG溶接するので、自動化が可能になり、熟練工を必要としなくなり、工数削減でコストダウンとなった。

しかしながら同時期(1991年)にドイツでは、600mm幅前後のアルミ大型マルチホロー形材を使用した新幹線ICE(写真4)が登場し、一歩リードされた形となり、追随して「ダブルスキン構造」(写真5)を持つ700系(写真6)へと発展していった。

700系は平成10年(1998年)に登場し、最高速度285km/h、車体間ダンパーを装備し、乗り心地が大幅に向上した:それまでは車両の両端部の席、例えば座席番号1Aなどでは横揺れがひどかったが改善された。

    


追記

その1.トンネル通過時の車体変位の確認

金属疲労はトンネル通過回数に依存すると知り、300系「のぞみ」に乗った時にテストしてみた。窓側の席に座り、肘掛けと側壁の隙間に指を入れてトンネルに入ってみると指が圧迫されて抜けなくなった。明らかに車体が車内方向に変位していることが確認された。

その2.ドイツICE

1991年、マンハイムからシュツットガルトまで、開業間もないICEに乗る機会があった。日本の新幹線は高架とトンネルが多いのに比べ、地上走行がほとんどで、当時は15分遅れなどダイヤの乱れが目立った。

特筆すべきは安全関連で、各窓の上に赤いハンマーが備えてあり、万一の時にはハンマーでガラスを割り脱出する、とのこと。さらに天井にはハッチがあり、車体が水没した時の脱出口、だという。(これはバスでも同様であった。)

その3.フランスTGV

1996年、ジュネーブからパリ・リヨン駅までTGVに乗る機会があった。日本の新幹線は高架を走行するので、軸荷重が分散するように電車型であるのに対し、TGVは地上走行なので軸重が大きい機関車型を採用している(ICEも)。客車は剛性感があり、飛ぶように滑らかな走行で、静かで乗り心地は一番良い印象であった。

 

その4.米国オバマ政権「高速鉄道網計画」

米国オバマ大統領による一般教書演説の中に、大型経済対策の一環として「高速鉄道網計画」がある。この計画に対し、TGVのフランス、ICEのドイツ、さらに日本が技術輸出した中国までが受注合戦に加わり、日本は出遅れて半分蚊帳の外、と聞く。

そもそも地下鉄を中国に技術指導と内製を条件に輸出して、その技術で中国は中東に地下鉄を輸出した経緯があった。新幹線も同様な運命が予測され、技術陣は輸出を危惧していたが、経営判断で二の舞となった。

我々がアルコアから教わった技術で、キャン材、航空機材、メモリーディスク、ターボインペラーなどを世界に輸出しているのと同じ? 

でも中国の方が一枚上手! 自己資金の無いカリフォルニア州への売り込みには、1兆円の融資を抱き合わせ、シュワちゃんを中国に招待、とか。(『そうだったのか池上彰の学べるニュース』より)
 

 平成2278