第 4 4 1 回 講 演 録

日時: 2016年10月4日(金)13:00~15:00

演題: 科学で遊ぼう! ~「おもしろ科学探険隊」活動の報告~
講師: おもしろ科学探険隊 代表、あかがね会 会員 関口 秀夫 氏

はじめに

「おもしろ科学探険隊」(http://omoshirokagaku.com/)を立ち上げて、今月で丁度18年になる。一時はこの仕事に関連したことが週の半分位を占めていたこともあったが、最近は縮小傾向にあり、1/3位になっている。ご案内のタイトルは「活動の紹介」ということであったが、内容は「科学好きの子どもにするため 科学で遊ぶ! 不思議、感動、おもしろさの体験」である。ここの講演会としては、極めて異例の内容(タイトル)である思う。

1.「おもしろ科学探険隊」を立ち上げた動機

退職の翌月に「おもしろ科学探険隊」を立ち上げたが、退職前から退職後に何をしようかと考えていたところ、幾つかのチャンスがあった。①技術屋の社会貢献として、科学のおもしろさを子どもたちに知ってもらうことができたら良いと考えていた。②息子の幼稚園の先生と山登りなどで長く付き合いがあり、その先生が近所で保育園の運営を始めたので、その保育園を使って何かイベントができると考えた。③スタッフとしての協力者がいた。これら三つのことから、「おもしろ科学探険隊」は199910月に保育園の一室でスタートした。

大好きな言葉は日本で二番目にノーベル賞を受賞した朝永振一郎さんの「科学のこころ」で、「不思議だなと思うこと、これが科学の芽です。よく観察してたしかめ、そしてよく考えること、これが科学の茎です。そうして最後になぞがとける、これが科学の花です」である。特に最初の言葉「不思議だなと思うこと、これが科学の芽です」は重要なことで、科学技術庁の科学技術週間のキャッチコピーにもなっている。最近ノーベル賞を受賞した大隅教授は、東京大学教養学部の助教授時代に学生が来る前に研究室で顕微鏡を覗いて酵母が活発に動いているのを見て不思議に思ったのが、ノーベル賞の芽になった。二番目以降の言葉は、小学生低学年から対象にしているので、なかなか難しいく、最初の言葉が「おもしろ科学探険隊」を立ち上げた動機である。

2.「おもしろ科学探険隊」で子どもが科学実験を体験する意味

理科がおもしろいと感じるのは教科書に載っていることではなく、まず実験でおもしろさを知るのだと思っている。すなわち学校の授業で抽象的な内容が始まる前に、実験で理科のおもしろさを知ってしまうことが重要であると考えている。また少し危ない実験の方がおもしろいが、今の学校では先生1人に生徒が30人で危ない実験はできない。大勢の大人の目の元で、少し危ない実験もしておもしろさを知ってもらうのが狙いでもある。

3.活動の方針

われわれの取り組みの三つのキャッチフレーズは、「身近な場所で」「身近な人たちと」「身近な材料で」である。「身近な場所で」は家の近くで、寺子屋的に小グループでということである。「身近な人たちと」は先生や講師とではなく、お父さんやお母さんと一緒にやることである。「身近な材料で」はキットで買ってくるのではなく、できるだけ身近な素材を加工して使うことが良いと考えており、100円ショップで売っているものや身近にあるものを使って子どもたちがやりたい時に何でも挑戦できることを知ってもらいたいと期待している。

4.目標

目標は科学(理科)が好きになることが第一である。科学(理科)はおもしろいということを知ってもらうことで、それには好奇心・観察力が必要で、不思議・感動を体験してもらうことである。また科学の実験にはスキルが必要で、スキルが向上すればより難しい実験ができるようになる。

もう一つの目標は、「科学するこころ」である。「なぜだろう?」ということを感じるようになって欲しい。最近の子どもはテレビとゲームで、また活字としての本を読まないことで想像力が損なわれており、想像して感動することがなくなってきている。

5.活動の進め方

(1)基本方針

会社、博物館、大学などが夏休みなどに臨時に人を募集して活動しているケースが沢山あるが、それとは異なり原則的には同じメンバーで継続的に活動することが重要であると考えている。大きなメリットは、①やさしいことから、だんだんレベルを上げて難しいプログラムに挑戦できるようになる、②参加する子どもたちの様子が分かるので、スタッフは危険防止やサポートがやり易くなる、③募集のための活動が減らせるのでスタッフの負担軽減にもなるなどである。ディメリットとしては固定メンバーなので参加できる人数が限定されることであるが、この点は長く続けることで累積参加者数は大きくなる。

(2)具体的な進め方

実験プログラムは原則2時間休みなしである。休むと気が抜けて立ち上がるのに時間が掛かり、おもしろければ2時間なら集中できることが分かってきている。プログラムを作り、材料を決めて購入し、予備テストを行う。さらにスタッフは2時間の子どもたちと全く同じプログラムをリハーサルし、改良点があれば内容を微修正し、子どもたちによる本番のプログラムとなる。子どもたちの反応を見て改良点を見つけ、プログラムの再度の微修正を行い、次回以降に反映させる。

スタッフは「身近な人たちと」と言ったが、その地域の大人に呼び掛けて、子供が好きで好奇心のある人なら誰でも良く、科学の専門家でなくても良い。子どもたちの保護者や祖父母、それ以外に地域で活動に興味の持った人もいる。リハーサルは子どもたちと同じプログラムを行うので、科学は本当におもしろい、もっと早く知っていたら人生が変わっていたかも知れないと言うお母さんもいて、大変盛り上がる。

プログラムは原則として一つの科学の原理に基づいており、原理の理解のための小実験とメインの実験から構成されている。

(3)活動の場

いろいろな場所で行っている。団地の自治会館または集会所で、スタッフは親と有志であるケースが標準である。保育園を使って保育園の先生がスタッフとなり、子どもたちは保育園のOBや近隣の子どもたちのケースもある。地域ケアプラザなどの公共施設では、世代間交流グループとタイアップしてやっているケースもある。コミュニティハウスを使って、親と子に来てもらって親子一緒に科学体験してもらうケースもある。最近増えているのがアフタースクールで、学校とは別に放課後キッズクラブなど児童とキッズの先生で活動しているケースもある。また、地域の祭りやフェスティバルで屋台を作って15分位のプログラムで科学体験をしてもたったりもしている。

(4)子どもたちの不得意種目

活動を通じて子どもの不得意な種目が明確になってくる。学校では危ないことをやらないのが原則のようであるからカッターナイフの使い方を知らない、はさみを使ったことがない、紐を結ぶことができない、文具を正確に使うことが教えられていないなど驚きである。プログラムに取り込んで、できるようにするよう指導している。

(5)本来目的としていなかった活動

近隣の小学校が経済産業省の「エネルギー教育実践トライアル校(全国で25校)」に選定され、特別授業(理科6年生全員)に協力して、「モーターの原理説明実験と簡単なモーター作り(クリップモーター)」を行った。「おもしろ科学探険隊」のスタッフは地域ごとの「おもしろ科学探険隊」で活動しているが、この場合は各地域のスタッフの有志に集まってもらって行った。

最近高齢者を対象に科学体験教室を行った。高齢者が楽しめれば孫に伝わることが期待できるので、前からやりたいと思っていた。たまたま昨年横浜市にある65歳以上の元気な高齢者の活動拠点とタイアップして、4回シリーズの科学体験教室を行った。所長と担当者が転勤になって、残念ながら継続はしていない。

6.活動をとうしてみた課題

2時間休みなしでも集中力が途切れることがなく、科学がおもしろいことは体験してもらえるが、やがて科学離れする。その原因の一つは塾通いの低年齢化である。かつては6年生、早くて5年生が塾通いしていたが、最近は4年生、早ければ3年生から塾通いが始まる。活動に参加しても直ぐに理科の成績が上がることは期待してないので、参加していた子どもたちが塾通いに変わってしまう。われわれだけでなく、同業者も同じことを言っている。もう一つの課題は、科学はおもしろいということを体験できても、「不思議だな」と思う科学的な態度がなかなか身に付かない。さらに、活動を手伝ってもらえる人は結構いるが、活動の主体になってもらえる人がなかなかいない。

活動を通じてサプライズもある。両親が音楽家で音楽の道に進むと考えていた1期生で、中学校・高校と科学が好きになり、音楽家にならずに科学者になったケースもある。しかし、基本的な流れとしては、理科離れは変わらず進んでいると思う。

7.18年の歩み

定年後に「3ちゃん工業」的に立ち上げ、寺子屋式に近くの保育園とタイアップしてスタッフ4名(私と家内とスタッフ2人)と隊員10名でスタートした。その後少しずつ拡大していくが、大きく変わったのは横浜市栄区で地域に活動の輪を広げる「まちづくり事業」のひとつに取り上げられてから、新しく3グループの探険隊がスタートした。この事業の助成は、3年間で100万円位の資金援助があり、実験器具を揃えたり、プロジェクターを用意したりすることができた。また、この事業によって他の活動グループ(世代間交流など)とタイアップした活動が加わり(不定期)、他の組織の自主事業(アフタースクール、コミュニティハウスなど)との提携も広がった。「まちづくり事業」は3年間で終わったが、その後は横浜市栄区社会福祉協議会から年間4万円程度のサポート(助成金)を受けている。

活動は評価され、社会福祉協議会(栄区、横浜市、神奈川県)からの感謝状・表彰を受け、2014年には横浜市から表彰された。一時は1か月に平均して150人位の子どもたちを相手にしていたが、最近は80人程度になっている。

スタッフは無料奉仕(講師は謝金がでるところもある)で、材料費として1回500円を集めて、3か月程度で均して使っている。支援としては横浜市や栄区の支援の他、科学技術振興機構から2年間の助成を受けたりもしたが、国の予算が打ち切られ制度がなくなった。

8.具体的な内容(プログラム)の紹介

70種類位のプログラムがあり、ほんの一部であるが紹介する。(記録者注: 実演を交えて紹介された。詳しくは次のサイトを参照されたい。http://omoshirokagaku.com/program/programindex.html

(1)お金の掛からない科学で水遊び

250mℓのコップと500mℓの水の入ったペットボトルを用意し、素早くペットボトルを逆さまにしてペットボトルの口がコップの中に入るようにして水を注ぐと、科学の原理によって、よそ見していても水がコップから溢れることはない。逆さになったペットボトルの上部の空気は減圧されて、ペットボトルの口の部分が水の中にあればストッパーになって空気が入らないので、水はある程度出るがバランスしてそれ以上出なくなるからである。小鳥に水を与えるのに、同じ原理が使われている。最近見たのでは、小学校の理科の体験として朝顔やトマトを容器の中で育成して夏休みに持って帰るが、同じ原理を利用して水切れが起こらないように容器の端にペットボトルが差し込んであった。

水がペットボトルから出るのは、空気が入っていくからである。そこで2ℓのペットボトルに水を一杯入れて、水出し競争をする。子どもたちはペットボトルを振るか押しつぶすかして水を速く出そうとするが、水が間欠的に出る。ペットボトルを回転すると、渦ができて空気が入るのと水が出るのが一緒になって水が速く出る。

(2)ころころアイス

最も人気のあるアイスクリーム作りのプログラムである。毎年5回か6回はやっており、1月や2月にやることもある。ステンレスの缶に砂糖、牛乳、卵、生クリームを入れて封をし、その缶をもう少し大きいプラスティックの容器に入れて、その間に氷と塩を3:1の割合で入れる。15分位ころころ転がすと、かなり氷が融けるので氷と塩を足してやる。添加物が入っていなくて美味しアイスクリームができる。科学の実験なので、牛乳や生クリームはメスシリンダーで測り、砂糖は天秤で測る。氷と塩が寒剤で3:1の割合で混ぜると-22℃まで下がるという科学の原理が使われている。家庭用の冷蔵庫より低温になることを、温度計で確認させる。

幕末から明治にかけてのフランスのアイスクリームを作るレシピが最近国内で見つかった。ほとんど同じ方法であり、樽に氷と塩を入れ、茶筒に材料(砂糖、牛乳、卵で生クリームは入っていない)を入れて茶筒を回転させる。

(3)卵を科学しよう

生卵と茹で卵の違いは光を透過させれば識別できる。生卵は中身が液体なので光を通すが、茹で卵は固体なので光を通さない。昔は卵の鑑定に光を当てて見ることが行われていたと思う。

卵のアーチ構造は強いと言われているが、あまり試した人がいない。買ってきた卵のケースの蓋を開けて、その上にクッションと板を置いて乗ってみる。卵1個で圧縮力3㎏に耐えると言われているので、卵30個を使えば90㎏の圧縮力に耐えることができる。変な乗り方をすれば割れることもあるが、静かに乗れば大丈夫である。子どもたちだけでなく、スタッフのお母さんたちにも乗ってもらうことで、卵が強いことが体験できる。ローマ時代の水道橋やサン・ピエトロ大聖堂のクーポラなどのアーチ構造は強いと言われているが、卵も強いことが体験できる。

卵のたんぱく質の固まる温度の違いを使って温泉卵を作る。黄身は67℃位で固まるのに対して、白身は80℃位で固まる。70℃位に加熱して温泉卵を作って食べましょうというプログラムで卵の性質を知ってもらう。

(4)ロケットシリーズ

①ドライアイスロケット(下図①参照)

ドライアイスの性質を知ろうということで、冷やす能力や空気との重さの違いを調べるが、それとは別にドライアイスはガス化すると750倍に膨張する。ペットボトルに水とドライアイスを入れてゴム栓をして立て掛ける。ドライアイスが気化して内圧が上がって、ロケットは100m位飛ぶ。

②ペットボトルロケット(下図②参照)

水を入れたペットボトルに自転車の空気入れで圧力をかけて、ある圧力になったら発射させる。まともに飛ばすと160m位飛ぶので、飛ばす広場がないため角度を少し上に向けて空高く飛ばす。

③ペンシルロケット(下図③参照)

鉛筆のキャップにストローと羽根を付けて、後ろにつないだペットボトルを足で潰すとペットボトルの空気が一気に出てペンシルロケットが勢いよく飛び出す。誰のロケットが一番飛ぶか競争させる。

④すっ飛びロケット(下図④参照)

の三つは後ろに噴射すれば飛び出すという作用・反作用の原理を使っている。スーパーボールを使ってすっ飛びロケットを作る。スーパーボールに竹ひごを取り付け、竹ひごにステルス爆撃機のようなロケットを差し込み、垂直に落とす。スーパーボールが落ちると位置エネルギーが運動エネルギーになり、下にぶつかると作用・反作用の法則で跳ね返ってその力がロケットに伝わり、ロケットがすっ飛ぶ。発射台はスーパーボールが1個のものと写真(下図④右)のように2個のものがある。スーパーボールが1個のものは垂直に落ちなくても斜めに飛ぶが、スーパーボールが2個のものは垂直に落とさなければならないので、1個のもので練習してもらう。2個のものは1個のものより高く飛ぶ。

(5)セロハンアート

光の複屈折という難しい性質を利用している。光はいろいろな方向に振動する波が混ざり合っている。偏光板を通してある方向だけの光で透明なセロハンを見ると、光はセロハンで複屈折を起こして厚さの違いで色が付いて見える。右図は小学5年生の作品で、ひまわりの絵である。作品だけを見るとセロハンが貼ってあるだけなので何も見えないが、偏光板を通して見ると、偏光板の角度を変えることによって違った色が付いて見える。

(6)不思議な物体

スライムは洗濯糊(ポリビニルアルコール)にホウ酸ソーダ水溶液を入れると、ドロドロした高分子ゲルができる。普通は触覚を楽しんで遊ぶが、「おもしろ科学探険隊」としてはそれだけではおもしろくない。高分子のイオンゲルなので、酢を混ぜるとゲルが切れて元の洗濯糊に戻る。塩を混ぜると多量の水分を含んだ高分子ゲルから水分が出てゴム状になり、スーパーボールのように弾むようになり、さらに乾燥させると硬い塊になる。少し変わった洗濯糊を使って大きな風船を作ることもできる。

イクラが高価だった頃に人工イクラが作られていたが、その手法を使って水玉を作ることができる。昆布に含まれるアルギン酸ソーダ水溶液を薄い塩化カルシウム水の中に入れると、ナトリウムとカルシウムが入れ替わって一種の含水高分子ゲルになる。色を付けると虹色の水玉が浮いて見える。

片栗粉を水に入れると溶けきれないので沈殿する。その沈殿したものは、ダイラタンシ―という性質があり、力を加えると硬くなり、力を抜くとダラダラと流れ出す。感触がおもしろく、お祭りの屋台では30分位いじっている子どももいる。

(7)動くものシリーズ

ホバークラフトは昔大分空港から別府や大分市に乗客を運ぶ交通機関として使われていたが、現在は米軍のみが使っている。自衛隊も持っており、地震で港が破壊されても、上陸用舟艇なので海からそのまま上陸できる。船の周りにゴムのスカートを取り付けた構造で、中から空気を吐き出して若干浮いた状態で水上でも陸上でも走ることができる。

小学校低学年用プログラムで簡単な風船ホバークラフト(右図左)を作る。CD盤の上に写真のフィルムケースを取り付け、その中に風船を通して膨らませると、空気がCD盤と床の間から出てCD盤が少し浮き上がる。誰が一番遠くまで走るか、競争する。

もう少し高級にしたのが、右図右である。モーターでファンを回し、斜めの邪魔板で風が水平方向と垂直方向にいくようにすると、浮いて走る。

(8)新エネルギー・・・風力発電

ペットボトルを使って風車を作る。扇風機で風車を回して発電する。モーターは何らかの力で回すと発電機にもなる。普通のモーターでは発電効率が低いので、マイクロモーターを発電機用に改造したものがある。われわれの1回の材料費の上限が500円だが、1個460円と高い。風車と発電機はゴムベルトで連結する。扇風機で風車を回し、LEDランプが光ることで発電していることが分かってもらえる。

(9)地震の科学

地震があった時に振動とは、どういうことか。土壌の液状化の実験もしている。右図左では長さの異なる振り子を作って振動の性質から、三つの振り子の内の一つだけ動かすことができる。右図右では三つの高さの違う材木を板に乗せて揺らして、一つだけを倒すことができる。これらは固有振動を見つけることにより、固有振動の範囲は狭いので、一つだけ振り子を動かしたり、一つだけ材木を倒したりすることができる。

(10)万華鏡

2枚の鏡を立てて2枚の鏡の角度90度にすると、下図に示すように下にあるパターンが鏡に写って4個のパターンが見える。60度の場合には6個のパターンが見える。360度を2枚の鏡の角度で割った数だけ見えることになる。万華鏡はさらに1枚の鏡を増やして、3枚の鏡で正三角形の配置にするのがポピュラーな万華鏡である。前の方にパターンができる具材室を置いて、後ろに鏡を配置すると、60度で6個並んだ下図のようなパターンが無限に広がっている。4枚の鏡で正方形に配置すると、下図のようなパターンになる。

上図④のような万華鏡は2時間で作るが、短時間で作るには右図左にある簡単万華鏡がある。鏡を正三角形に並べて、先にビー玉を半分差し込む。万華鏡は具材を動かせばパターンも動くが、簡単万華鏡ではビー玉は固定されているので動かない。ビー玉と鏡の隙間にカラーセロハンを工夫して差し込むと、右図右のような綺麗なパターンになる。ビー玉の代わりに球形レンズを仕込むと、レンズの向こう側にあるものが拡大されたパターンとなって写っておもしろい。

11)不得意種目の克服

短い実験の時に半分の時間を使って、不得意種目の克服を行っている。紐結びは使い道の多い10種類の結び方を選び、結び易いように色違いの組み紐を使って練習する。カッターナイフの使い方の訓練には鉛筆を削るのが一番良いが、今は鉛筆を削らないので、割り箸を端から端まで全部削らせ、次に竹箸を使ってガリガリプロペラを作らせる。

Q & A

聴講者の一人から「小さい孫がいるので、活用させていただきたい。非常にためになるお話をうかがうことができました」との感想が述べられ、下記の質疑が行われた。

Q1:対象としているのは中学生までか?

A1:特に年齢制限は設けていない。下は原則として小学3年生以上で、1・2年生は保護者同伴である。「親と子の科学体験」は親同伴なので、幼稚園の園児でも良い。上は制限がなく、本当は中学生も対象としたい。小学校の理科のカリキュラムは動植物が圧倒的に多く、われわれのプログラムは化学・物理系統なので授業との関連性があるからである。当初は参加していた小学生が中学2年になるまで参加していたが、最近は小学6年生で終わってしまう。

Q2:スタッフは何人いるか?

A2:私と家内は全ての「おもしろ科学探険隊」に出向いて、私は進行役を務める。スタッフはそれぞれの「おもしろ科学探険隊」に属しており、場所にもよるが原則として子ども4~6人に対してスタッフ1人が付く。一つの「おもしろ科学探険隊」でスタッフは6~7人、多いところで10人いる。毎回全員が出てくることはなく、4~5人が出てくる。

Q3:最近の子どもは小さい時からスマホやパソコンなどのIT関係の知識を身に付けているが、科学するこころに結び付かないのか?

A3:ロボットやパソコンに特化した教室がある。必要な技術なので、それはそれで良い。自然現象はそれ以外沢山あるので、抜け落ちている分野が沢山ある。

Q4:最初に「おもしろ科学探険隊」に連れて行くには、おもしろいと思って興味を持たせる必要があると思うが、その切っ掛けは?

A4:おもしろいプログラムを作っている積りであるが、おもしろいものとそれ程おもしろくないものがある。予想外の結果が起きると多分おもしろいと思う。それだけで良いか、おもしろくなくても必要なこともある。例えば、学校でも使い慣れていない上皿天秤や顕微鏡はおもしろいと思うが、キッチン秤やメスシリンダーは慣れてしまうとおもしろいと思わなくなる。メスシリンダーは目の高さで目盛りを読まないと駄目だと言っても、やる子どもとやらない子どもがいる。おもしろくなくてもやってもらうのは現実的には難しい。

Q5:他の探険隊はどのように分かれているのか?

A5:最初に一つの探険隊「みどりが丘おもしろ科学探険隊」ができ、その後に活動の支援を得て、「オレンジおもしろ科学探険隊」や「みどりおもしろ科学探険隊」ができた。私と家内は全ての探険隊に参加しているが、「オレンジおもしろ科学探険隊」にはオレンジという団地のスタッフがいて一緒にやっている。各探険隊の会計と活動日は別であるが、プログラムは全体の活動の中で選んでいる。材料調達の観点から、できるだけ共通なプログラムにしようとしているケースもある。

Q6:特に感銘を受けたのは「今の子どもはテレビとスマホで不思議に思わない」とのであるが、こどもに限ったことではなく、電車やバスでスマホをやっていない人がいないくらいである。科学だけでなくても自分でものを考えなくなってきているので、何とかしなければならない。20年近くやってきて最初に参加した子どもたちは社会人になっているが、理科系の方にインテンションを与えたことはあるか?

A6:古い人たちとの接触はなく、先程紹介した理系になった女性も最近どうしているのか分からない。テレビと本を読まないことで、何を見てもその時はおもしろいと思うが何も感じない。最初の頃に小学2年生の子どもが、フレミングの左手の法則でクリップモーター作ったが、家に帰ってお母さんにフレミングの法則でモーターが回ることを説明したということを聞いて嬉しかったが、最近はそういう話を聞かない。

Q7:高齢者向けのプログラムは?

A7:高齢者向けも同じプログラムである。万華鏡のプログラムで、脳梗塞後に初めて完成品を作って喜んでいたというサプライズもあった。

(記録:池田