第 4 4 0 回 講 演 録

日時: 2016年09月14日(水)13:00~15:00

演題: 地熱発電の仕組みと展望
講師: 富士電機株式会社 社会インフラ事業本部
           発電プラント事業部 火力・地熱プラント総合技術部 主任 小山 弘 氏

はじめに

日本では地下資源開発リスクなどの経済的側面や国立公園内での開発規制、温泉事業者を含む地元の人たちの温泉源や環境への影響を懸念する声などで、2000年以降、地熱発電所建設はなかなか進まなかった。しかし、2011年の東日本大震災以降の再生可能エネルギー活用拡大の動きを受けて、ベースロード電源となりえる地熱発電にも注目が集まっている。今回は地熱発電の仕組み、歴史ならびに実施例について紹介する。

1.地熱発電の概要

(1)地熱発電とは

地熱発電システムは、蒸気を取り出す部分とその蒸気を利用して発電をおこなう二つの部分で構成されている。

地下の深い所にあるマグマ溜まりから熱が伝わり高温高圧の状態で地下水が留まっているエリアがある。これを貯留層と呼ぶ。ここに抗井(井戸)を掘って熱水を取り出す。貯留槽内は高圧になっているので、抗井を掘ると多くの場合、自噴する。自噴しない場合はダウンホールポンプを用いて熱水をとり出す。

多くの場合、熱水と蒸気が混ざった二相流の状態で地上に噴き出すが、後述するフラッシュ式の場合は発電に利用するのは蒸気のみなので、気水分離器で蒸気と熱水に分離する。取り出した蒸気をタービンに供給して、蒸気が膨張していく力を利用してタービンを回転させ、接続されている発電機を回して発電するというのが、地熱発電の仕組みである。

(2)二酸化炭素(CO2)の排出量の比較[1]

化石燃料を使う火力発電に比べ、再生可能エネルギーは圧倒的に二酸化炭素の排出量は少ない。製造、建設時も含めたライフサイクルで考えると地熱発電は太陽光や風力と比べてもより少ないのが特徴である。さらに、太陽光や風力に比べエネルギー密度が大きく、かつ天候に左右されることなく安定して発電できる。再生可能エネルギーの中では水力と地熱発電は、ベースロードとして利用できる非常に価値の高い再生可能エネルギーである。再生可能エネルギーは純国産のエネルギーであり、地熱発電では蒸気とともに出てくる熱水を地域暖房など多目的利用も可能であるという特徴を併せ持っている。

(3)地熱発電の歴史[2][3]

地熱発電は1904年にイタリアのラルデレロで世界初の実験が行われており、100年以上の歴史がある技術である。国内では1925年に別府で地熱発電の実験が行われている。その後少し時間をおいて、1958年にニュージーランドのワイラケで、後述するフラッシュ方式が世界で初めて適用され、地熱発電設備容量が大幅に増加していく。

2015年現在、世界の26ヶ国で地熱発電がおこなわれている。国内では1960年に箱根の小涌園で日本初の実用自家用地熱発電が導入されたが、この発電設備は富士電機が納入した。1966年に松川発電所で国内初の商業用地熱発電が始められた。松川発電所が建設されて50周年になる今年、松川発電所が運転開始した10月8日が地熱発電の日に制定された。

(4)地熱発電が可能な地域

地熱発電を行うには地下に貯留層が必要である。貯留層が形成される3大要素は熱と水と亀裂である。水は雨や地下水から供給され、熱はマグマから供給されるが、マグマからの熱により地下水が熱せられるには、その地下水が留まるための亀裂が必要である。実際の熱水は図に示したような大きく袋状に溜まっているのではなく、亀裂の間に溜まっており、そこに坑井を掘り当てなければならないとのことである。地下探査技術の発達した今日でも掘り当てることはなかなか難しいと資源開発を行っている方から聞いている。

大型の地熱発電で使用している坑井は、一般的に温泉井より深いため貯留槽が異なっていると考えられるが、これらが水理的につながっていないとは言い切れないので、発電所建設を行うには地元との合意形成が重要である。

5)地熱発電所[4][5]

世界で地熱発電ができるのは地下活動が活発なエリアに限られ、地域的には偏在がある。日本も属するプレートがぶつかり合う環太平洋地域、アイスランド近辺、イタリアを含む南ヨーロッパ、アフリカの大地溝帯地域などである。

世界の地熱発電設備容量は順調に増加しており、2015年の設備容量は12,635MWとなっている。アメリカ、フィリピン、インドネシアで世界の半分以上を占めており、伸び率ではインドネシア、ケニアが大きい。両国とも国が主導して設備投資を進めている。

日本には世界で3番目の地熱資源があると言われているが、設備容量では9位となっており、2005年から2015年の間で若干減少している。オイルショック以降電力会社主体で大型の地熱発電所が建設されたが、2000年以降地熱発電所の建設は停滞してしまった。その背景には経済的な問題、地元との合意形成の難しさ、さらに有望な地熱資源の多くが国立・国定公園内に存在しており開発が制限されているという事情があった。近年、電気の固定価格買取制度が制定され、東日本大震災以降、小型の地熱発電が多くつくられているが、設備容量の伸びは大きくない。それでも地熱発電に対する理解が進み、温泉地域で未利用の熱水を有効活用する流れが生まれており、大型地熱発電所の建設が今後進む可能性はある。

2.地熱発電設備の仕組み

(1)発電方式

 (ⅰ)流体による分類

発電に用いる流体により次の3種類に分類される。

①ドライスチーム方式・・・坑井からでる乾いた蒸気をそのまま利用する方式

②フラッシュ方式・・・熱水ないし二相流体を気水分離して蒸気を利用する方式

③バイナリー方式・・・熱水、又は熱水と蒸気を利用し、低沸点媒体をタービンの作動媒体として使用する方式

(ⅱ)タービン排気による分類

発電用タービンに利用した後の蒸気の排気方式では次の2種類に分類される。

①背圧式・・・蒸気をそのまま大気に放出する方式

②復水式・・・蒸気を冷却して復水させる方式

(2)シングルフラッシュ背圧式

右図はシングルフラッシュ式発電システムの概略を示したものである。生産井から蒸気と熱水を取り出し、気水分離器で熱水と蒸気に分離し、熱水は地下に還元する。蒸気はタービンに供給され、タービンを回転させ発電する。利用した蒸気は大気中へ放出される。このタイプは復水式と比較すると発電効率が低く、大型なものはできず、自家発などに利用されている。

(3)フラッシュ復水式

大型の事業用に用いられるのがこの復水式である。気水分離器を用いて蒸気を取り出すところは背圧式と同じであるが、発電に利用した蒸気を復水器で冷却することでタービン排気圧力を真空にして、より大きなエネルギーを取り出すことができる。冷却され液化した水は冷却塔で冷やされて冷却水として使用される。余った水は還元井に戻されるのが一般的である。

気水分離した熱水にまだ十分なエネルギーが残っている場合は、その熱水を減圧した蒸気をつくり、タービンに投入することで発電効率を高めることが可能である。蒸気を2回取り出せばダブルフラッシュ方式、3回であればトリプルフラッシュ方式と言われる。

シングルからダブル、トリプルとなるに従いシステムが複雑になり設備費が高額になる。また、還元井に戻す熱水内のスケール成分(温泉中に含まれるシリカや炭酸カルシウム等)が濃縮するため、スケールが析出して配管等を閉塞させる可能性が高まるので還元熱水温度に気を付ける必要がある。その他の特徴として、地下から取り出した蒸気には不凝縮ガス(二酸化炭素や硫化水素など)が含まれているため、復水器内の真空を保つためにガス抽出装置を設置する必要がある。

(4)バイナリー式

この設備は地熱流体(蒸気、熱水)と作動媒体(炭化水素、アンモニアや代替フロンなど)の二つのサイクルで構成されていることからバイナリー発電と呼ばれている。原理は水よりも沸点の低い媒体と地熱流体を熱交換させて媒体を蒸発させその媒体蒸気を使ってタービンを回して発電する。こうすることでフラッシュ発電には向かない低い温度域でも発電が可能となる。また、原則、使用した地熱流体を100%還元することが可能である。

(5)ハイブリッド式

フラッシュ式とバイナリー式を組み合わせた方式で、蒸気は通常のフラッシュ発電として使用し、還元する熱水でバイナリー発電を行うものである。

(6)発電方式のすみ分け

富士電機では、これらの発電方式について、熱源温度と発電出力により概略図のようなすみ分けが行われている。大型の発電所ではフラッシュ式が適用されるが、温度の低い領域ではバイナリーを適用する。

3.地熱発電所の建設事例

講演者が建設に携わったインドネシア スマトラ島の南部に位置するランプーン州のウルブル発電所の例を紹介する。

地図に示すランプーン市は比較的大きな町であるが、そこから100㎞ほど離れた山奥に発電所がある。ランプーン空港からは車で3~4時間かかる。

これは完成後の発電所の写真で、中央の建屋にタービンや発電機が設置されている。3か所の生産井基地と1か所の還元井基地が発電所のからはなれた場所(写真では配管のみが写っている)にある。生産井と還元井は広い範囲に点在することが多い。発電設備は55MW、2ユニットから成る。

地熱発電所は火力発電所などと違って山奥にあることが多く、インフラ設備を始め建設条件は悪いことが多い。機材の輸送にも道路の確保・維持などが大きな課題となる。

4.富士電機の地熱発電への取り組み

(1)世界市場における富士電機

現在、世界におけるタービンの出力容量では日本の三菱日立パワーシステムズ、東芝と富士電機の3社で世界の7割のシェアを占めており、富士電機はトップランナーの1社として地熱発電の拡大のためにさらに努力するところである。

(2)地熱発電所の事例

近年はインドネシア市場が活発である。先に説明したウルブル発電所の他、カモジャン4号機、5号機等、多くの発電所を納めている。

2010年4月に運転開始したニュージーランドのナ・アウ・プルア発電所は出力139MWであり単機の発電容量では世界最大である。トリプルフラッシュを採用している。

アイスランドは脱炭素社会を宣言している国で発電電力量のほとんどを水力と地熱で賄っている。日本に比べて圧倒的に人口が少なく、小さい国だからできるという側面もあるが、国として自然エネルギーの活用に取り組んでいる成果と言える。スバルトセンギ発電所はタービンの途中から蒸気を抜いて活用する抽気システムを持っており、地熱発電では珍しい構成である。スライドに写っている海のようなものがあるが、これは地熱発電用に組み上げた熱水を使った温泉の湖となっており、観光地となっている。アイスランドも数年前に通貨危機以降、地熱発電所の建設が停滞していたが、ここ数年また活発になって来ている。

5.今後の動向

地熱発電は100年以上の歴史の中で、先に紹介したような発電の技術開発が進められてきた。近年では地熱発電のシステムとして、人工的に地下に亀裂を発生させて貯留層を作る技術や既存の貯留層に人工的に水を送り込む技術などEGSと呼ばれる次世代技術の開発が進められている。貯留層に人工的に水を送り込んだ事例として、アメリカのガイザーズ地区がある。同地区の生産井は蒸気卓越型であり、熱水が還元されていなっかったので、一時期急激に蒸気量が減ったことがあった。それを回復させるために近くの町の生活排水を処理して地下に流し込むことによって、蒸気を復活させた事例がある。

マグマ発電は地下深部まで掘って、マグマ溜まり近くの高温高圧の蒸気を利用するものである。アイスランドでは450℃の高温蒸気を取り出すことに成功した。日本でも深部まで坑井を掘り超臨界状態の熱水を発電に活用する研究が進められている。数年で実用化できる技術ではないが、将来、この夢のような技術が実用化されることもありうる。

2015年度末の国内認可出力合計に地熱発電が占める割合は0.2%と小さいが、日本は世界で3位の地熱のポテンシャルを持った国であり、さらに開発が進められ、日本を代表する発電方式となる事を願うとともに、技術者として課題克服に向けた技術開発を継続していかなければならないと考えている。

出典

[1] 電気事業者連合 「原子力・エネルギー図面集2015

[2] Stories from a Heated Earth – Our Geothermal Heritage, 1999, GRC / IGA

[3] 地熱発電の現状と動向(2014年)、火力原子力発電技術協会

[4] What is Geothermal Energy? (International Geothermal Association,

http://www.geothermal-energy.org/314,what_is_geothermal_energy.html

[5] 日本地熱協会ホームページ

Q & A

Q1:北海道の倶知安町で地域おこしの活動をやっており、その一環として地熱エネルギーの活用を検討している。この地区では雪も多く太陽光よりは、安定したエネルギー供給が期待できる地熱の利用の方が適していると思っている。ニセコは現在観光開発が活発で、多くの投資がされている。ここで地熱の利用を促進したいので、その際には協力をお願いしたい。所で、調査等の費用はどのくらいかかるのか。

A1:資源開発側の事は分かりかねるので、費用の事には答えられないが、経済産業省もJOGMEC経由で補助金などいろいろ助成しており、それらを活用されている地域があるように思う。このような方向からの検討もあるのではないかと思う。

Q2:現役時代は原子力や火力発電所向けにコンデンサチューブの販売の営業をやってきた。冷却に海水を利用するのでチューブの材質がステンレスからチタンに変わった。地熱発電所では普通の水を利用するようだが、コンデンサチューブの材質はどの様なものか。また、冷却塔は上が空いたドーム型で空冷をしていると思っていたが、水を利用していると話なので、ここのコンデンサチューブの材質は何か。

A2:火力発電では冷却水の純度は非常にきれいに保たなければならないので間接接触式というものが用いられるが、地熱で多く用いられている復水器は直接接触式復水器というものである。地熱発電では地下からの熱水をそのまま利用し、またそのまま地下に戻すので、復水器の中で蒸気と水を直接接触させて、復水させており、冷却にチューブを利用していない。ただし、大気に不凝縮ガスを放出できない時には間接接触式復水器を用いるのでチューブを使う。一般的に地熱水は腐食性が高いため、ステンレスが用いられる。

Q3:地熱発電所開発のプロジェクトでは、水蒸気が出るか出ないかが大きな問題だと思う。プロジェクトの契約時点で事前の調査で水蒸気が出ることが分かっているものだけが契約対象になるのか。

A3:ケースバイケースである。事前に発電に必要な坑井が掘られているような場合もあるが、多くの場合、坑井は数本掘られているが、事業化するには発電事業者がさらに何本か掘らなければいけない場合が多いように思う。なかには発電事業者が坑井を掘っても水蒸気が出ないこともある。まず出ている範囲で発電事業を開始し、追加で坑井を掘削することもある。発電設備を納めるという契約では、水蒸気が出る出ないで契約が変わることはない。

Q4:地熱発電技術の今後の動向であるが、バイナリーのような方向に変わっていくのか。

A4:事業用には大型のフラッシュ式発電が伸びていくと思われるが、国内では環境アセスメントなどにより建設に時間がかかってしまう。一方で固定価格買取制度の導入で最近伸びてきている領域は小容量でありバイナリー式は今後伸びていくと思われる。

Q5:日本で地熱発電がなかなか進まないのは、事業主体者が出てこないというほかに、熱源が国立公園の中に多いとか、蒸気の温度が低いとかというような理由があるのか。また今後どのように変化してくのか。

A5:一般に言われているのは、ポテンシャルの高い地熱資源が国立公園の中に多いことや地元との合意形成、経済性の三つが大きな問題である。国立公園の開発規制はここ数年緩和の動きが出てきており、経済的な問題にも国からの支援が進められている。地元との関係についても地域人の理解が進みつつあり、今後開発が進むことが期待される。

(記録:田邊輝義