第 4 1 9 回 講 演 録


日時: 2014年7月17日(木)13:00~15:00

演題: 猛暑と豪雨の季節がやってきた ~都市気象と環境~

講師: 東京工業大学 大学院理工学研究科 国際開発工学専攻 教授 神田 学 氏

はじめに

この季節は猛暑と豪雨の季節で、それに関連した研究をしているので、皆様のお役に立てればと思う。普段は東工大で、スーパーコンピューターを使って、都市化による気候の変化を研究している。本日は一般的ではあるが、皆様が聞いたことがないようなことを選んで紹介する。

1.基礎編・・・「都市の温暖化と地球温暖化の違い」

-1.温暖化の速度

地球温暖化は地域によって異なるが、この1世紀の間に地球平均で0.60.7℃温度上昇した。地球全体で測るのは難しく、全世界の7,000箇所の気象データを使うが、海上に観測点はないので平均値を得るのが難しいが、いろいろなテクニックを使って計算している。日本の緯度では地球平均と同程度であるが、北極や南極ではその数倍である。この程度の温度上昇は問題にならないと思われるかも知れないが、平均は変わらなくても猛暑や豪雨のような極端気象で変動が大きくなる。

一方、東京やアメリカのメガシティなどでは都市の温暖化により最大3℃温度上昇した。地球温暖化より、圧倒的に温度上昇が大きい。地球温暖化の計算では、都市の面積が地球全体の0.5%しか占めていないことから、都市の温暖化を除いている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも都市の温暖化を除いていたが、都市に50%以上の人間が住んでいることから、最近は都市の温暖化も考えようとしている。

-2.温暖化の原因

地球温暖化の原因は温暖化ガスで、一番大きいのは水蒸気であるが自然に存在するので避けられず、CO2、メタンなどが問題である。地球の温度は太陽と地球の間の放射のバランスにより決まるが、温暖化ガスによって放射のバランスが崩れて地球の温度が高くなる。人類は沢山のエネルギーを使っているが、地球温暖化には寄与せず、将来の予想温度でも考慮していない。

逆に都市の温暖化には温暖化ガスは寄与していない。熱の排出、緑をコンクリートにしたことなどによる蒸発熱の減少、建物の存在が原因である。

このように都市が局所的に温暖化していることと、地球が温暖化していることは全く異なる原因によるが、東京などの都市の温暖化はヒートアイランドの効果と地球温暖化の効果の両方が足し合わされている。

-3.温暖化による影響

地球温暖化により、雨が降ったり降らなかったり、暑くなったり寒くなったりという異常気象が引き起こされ、東工大付近の呑川でのユスリカの大量発生のような生態系異常が引き起こされている。生物や植物の生息域が気温の変化に追いつけない。

都市の温暖化では熱中症などの健康被害、異常気象による豪雨被害、生態系異常が引き起こされる。

2.データで見る編・・・「暑くなる身近な空気と水」

東京の明治からの100年間における2月、8月と年間の平均気温の変化を図1に示す。それぞれの100年間の気温上昇は、2.6℃、1.7℃、2.2℃である。地球温暖化による気温上昇である0.60.7℃を差し引いたのが、ヒートアイランドによる気温上昇である。アメリカのフェニックスや大阪などでは、東京よりもう少し高い。

ヒートアイランドによる気温上昇は、夏よりも冬の方が大きく、昼(最高気温)よりも夜(最低気温)の方が大きいという特徴がある。「東京砂漠」といって砂漠に例えられるが、砂漠とは決定的に違う。砂漠は日中の気温が高くても放射冷却により夜はとても冷えるが、ヒートアイランドは砂漠と違って夜の気温が下がらない。

都市の最低気温が下がらないので、熱帯夜が急増している。図2に東京の熱帯夜の年間日数を示す。特に高度成長期以降が顕著である。昔は日没後には涼しくなっていたが、現在は日没後でも暑い。

        図1.東京の平均気温の変化            図2.東京の年間熱帯夜日数   

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図3.東京都の年平均放流水温

暑くなっているのは空気だけでなく、水も熱くなっている。データは高度成長期からしかないが、図3に50年間の年平均放流水温を示す。

風呂や給湯で使った水は処理されて放流されるので、下水放流水温は水道水温より高いが、年々差が開いてきている。エネルギー消費量が増加し、エネルギーを使って暖められた水は全部処理場に集められるが、空気に較べて体積が限られていることから、当然ともいえる。

冬の多摩川の水温は10℃位であるが、下水処理水が流れている東工大付近の呑川の水温は18℃位と高い。蚊が発生したり、普通棲めなかった虫が出てきたりすることになる。全て東京湾に流れて行くので、東京湾の海水温も高くなってきている。

3.原因を知る編・・・「何故、冬、夜がより暑くなるか?砂漠と何が違うのか?」

マスコミの説明でよくある原因は、アスファルトやコンクリートが増えて蒸発が減ったことである。これ自体は間違いでないが、これだけでは説明できない。もう一つの原因は、暖房・給湯などで使ったエネルギーを空気や水に捨てることである。これでも、冬の夜にヒートアイランド効果が顕著なのが説明できない。正解は建物が建て混んでいることである。

地球観測衛星ランドサットから撮った1985年と2000年の衛星写真(省略)の比較から、森や林や畑が市街地化されてアスファルトやコンクリートが広がっていることが分かる。これほど市街地が広がっているのは、世界のメガシティでも東京だけである。このように市街地化が進むと、海風などの自然の風にも影響が出てくる。

東京のエネルギー消費はラスベガスなどに較べれば少ないが、かなり多い。8月の13時におけるエネルギー消費量の23区の分布では、銀座、大手町、新宿、池袋が高い。太陽からのエネルギーは800ないし900W/㎡であるが、新宿副都心の熱排出は1,000W/㎡にもなり、太陽が2個あるのと同じである。23区で消費されるエネルギーは年間で平均すると、太陽の1/4個分に相当する。使ったエネルギーの8割は大気に、2割は水に捨てられている。

空気が暖まるのは、太陽からの光が地上に届いて地面が暖まってからである。したがって、地表面での熱配分、届いた熱が蓄熱されるか、蒸発熱になるのかが問題である。建物が建て混んで地表面が凸凹になると、熱配分が変わってくる。これがヒートアイランドの大きな要因である。真っ平らなコンクリート面では太陽光の40%が反射する。砂漠も同様である。ビルが沢山あると、屋根では反射するが、壁に当たった光は多重反射して吸収されてしまう。その結果、10%位しか反射されないことになる。

夜になると砂漠では熱が赤外線として天空に抜けて行くので、放射冷却で冷える。一方都市の場合は、空がほとんど見えない状態なので、ビルの凸凹に蓄えられた熱によって放射される赤外線はビルの壁にトラップされて放射冷却され難い。また、ビルの凸凹は海風の抵抗にもなり、熱や汚染物質がこもり易くなる。午後になると海風が熱と水蒸気を持って一気に埼玉の方に流れて行く。

2004年のプロジェクトで、埼玉の東武動物公園にある100m位の実験場に、一軒家を1/5にして建物に見立てたモデルで、建物の配置を変えて、建物の凸凹による反射率などを調べている。得られた知見は、前述の説明や後述のコンピューター・シミュレーションに取り入れられている。

大気境界層は地上1㎞位まで地球を覆っている薄い空気の層である。大気圏は二層構造になっており、大気境界層の上は自由大気である。大気境界層はグチャグチャに空気が混ざり合った層で、大気汚染があれば色が着いて見え、自由大気は風が強いが真っ青で綺麗な層である。

我々が問題にしている気温や大気汚染は大気境界テキスト ボックス:  
図4.自由大気と大気境界層の気温変化
層の中でのことである。自由大気では全く違った気象になっている。図4はオクラホマの4日間の気温の例であるが、大気境界層(97.5kPa)の地上気温は昼上がり、夜下がる。自由大気に少し出たところ(85kPa)では、昼夜の変化がなく緩やかに変化している。地面の温度が上がり空気の温度が上がるのは大気境界層の中でのことで、自由大気まで及ばない。自由大気では寒気や暖気によって気温が緩やかに変わっている。

大気境界層の厚さは日中・夏季には1㎞位であるが、夜間・冬季には200m位になる。したがってNOXなどの大気汚染物質や花粉は、大気境界層が低い夜や冬季には濃度が高くなる。ヒートアイランドの人口排熱も同様で、東京では夜も意外に排熱が多いが、建物に日中蓄えられた熱が夜にユラユラと出てきて、大気境界層が低くなるために、夜の気温が下がり難い原因にもなっている。

建物の存在が熱をこもり易くさせていることと大気境界層の増減を理解しておくと、砂漠気候との違いや夜の気温が下がり難くなることが理解できる。

4.ヒートアイランドの影響編Ⅰ・・・「都市の集中豪雨」

-1.ゲリラ豪雨

非常に狭いエリアに強烈な雨が突発的に降るのがゲリラ豪雨である。川では上流で降ると下流で降っていなくても、鉄砲水のような状態になる。図5は東工大付近のゲリラ豪雨の例である。図5(A)は後述する東京アメッシュによる図で、10㎞の狭い範囲で猛烈な雨が降っており、その周辺は降っていないことを示している。図5(B)では1115頃から雨が降りだし、猛烈な雨が1時間降ったのち止んでいる。下流域の呑川の水位は、雨が降り出したときにはゼロで、30分後に立ち上がり、1.2mに到達したのち30分後には何もなかったように水位はゼロに戻っている。まさに鉄砲水である。

テキスト ボックス:  
(A) 東京アメッシュの図            (B) 雨量と水位の時間変化
図5.ゲリラ豪雨の例
-2.雨水の処理

都会に降った雨がどこに行くかを知っておくと役立つ。少ない雨が降ったとき、流域に降った雨は地面に浸み込んで川に出てくると地学では教えている。都会に降った場合は全く違い、東京では一部は地面に浸み込んでいくものの大部分は下水管を通って下水処理場に行き、処理されて東京湾に流れて行く。豪雨になると下水処理場では処理しきれないため、糞・尿を含む下水と一緒に都市河川へ流れ出してくる。これが合流式下水道である。都会では豪雨以外の雨水は下水管が担っており、東京23区の水道管ネットワークは、まるで毛細血管のように張りめぐらされている。

呑川は上流と東工大近くの工大橋からの下流が分断されている。分断されたところは蓋がされた暗渠で緑道になっている。上流では地下水をくみ上げた危なくない親水(環境水)が人工的に循環されている。このような仕掛けが都内の至るところにある。下流には新宿区の落合浄水場で処理された高度処理水が、工大橋のところから川が干上がらない程度に流されている。国土交通省の提唱している「清流復活事業」によるものである。豪雨のときは、呑川に横から雨水と糞・尿を含んだ汚水が流れ込んでくる動画。暗渠の流域で降った雨は工大橋のところから一挙に出てくる。雨が止んだあとにはトイレットペーパーが残り、蒲田付近では臭気の問題がある。

呑川や目黒川は溢れそうで溢れないように造られている。呑川が中原街道にぶつかるところで、水位が上がってくると横に流れていって広大な貯水池に溜まるようになっている動画。目黒川も荏原に洪水調整池がある。洪水調整池で有名なのは環状7号線と国道16号線の下にあるが、洪水調整池は公共の土地でないと造れない。神田川の周辺では洪水調整池を造ったことにより、浸水被害が激減した。巨額のお金が掛かるので批判もあるが、安全との兼ね合いである。外環道路の下にも着々と造られており、最終的には全てを繋いで東京湾に流そうとしている。

-3.東京都下水道局のホームページ

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図6.東京アメッシュ
降雨状況をリアルタイムで見るには、国土交通省のXレーダーによる情報もあるが、東京に限っては図6に示す東京都下水道局の「東京アメッシュ」(http://tokyo-ame.jwa.or.jp/)がよい。下水道局は雨水の処理をしなければならないので、一番優れたレーダーを持っており、二重三重に地域をカバーしている。

ゲリラ豪雨といっても、突然現れることもあるが、大体は雨域が拡大したり縮小したり移動したりするので、30分とか1時間先の雨の予想が大体できる。また、自分の住んでいるところが増水する可能性があるかも分かる。

東京都は進んでいて、ハザードマップとしての浸水域想定図(省略)もホームページからダウンロードできる。この図は過去の浸水実績と標高を基に作成されている。

-4.東京の降水量の変化

東京の100年間の降水量の変化を図7に示す。年降水量は平均してトレンドをみると1,5001,600mm/年で、ほとんど変わっていないか、若干少なくなっている。しかし、豪雨年と渇水年で各年の変動が大きくなってきている。テキスト ボックス:  
図7.東京の降水量の変化

雨の総量はあまり変わらないが、降り方が時間と場所で偏ってきているのは、世界の先進国でみられる傾向である。結論付けるのは難しいが、地球温暖化により水蒸気が増えて、時間と場所に偏りができると考えられている。さらに、ヒートアイランドの効果が加わるとゲリラ豪雨が20%増えることが、最近の研究で明らかになった。

東京都のゲリラ豪雨の発生回数を表.1に示す。年々ゲリラ豪雨の発生回数が増えていることが分かる。1時間に100mm以上の雨は、年間降水量が1,500mm位なので凄い雨である。

表1.東京都のゲリラ豪雨の発生回数

S52S61

S62H08

H09H18

時間雨量50mm以上の年平均回数

20.0

23.4

31.3

時間雨量100mm以上の年平均回数

2.2

2.4

5.1

東京23区内でも、降水量の多いところと少ないところがある。山手線の東側では少なく、環八沿いの北西部では多い。何故か?相模湾からの海風と東京湾からの海風がぶつかるところが環八付近である。雨が降るときは九十九里の方からも海風がきて、三方挟みうちの状態になり、練馬辺りで収束し易い。さらにヒートアイランドがあると環八付近で風が滞り易くなっていることが、コンピューター・シミュレーションで分かっている。

-5.スーパーコンピューターによる気象・天気予報(ヒートアイランドの影響を考慮)

気象庁の天気予報に使用されているスーパーコンピューターのモデルでは、建物があれば海風の抵抗になったり熱がこもったりすることが考慮されていない。前述の実験や知見(第3項参照)を考慮した新しいモデルを作って、スーパーコンピューターで現行のモデルとの違いを比較した(従来モデルの動画最新モデルの動画)。新しいモデルでは、建物の影響で海風が遅れて入ってきて抜け難いことが分かる。

雨についても同様にスーパーコンピューターで現行のモデルとの違いを比較した(従来モデルの動画最新モデルの動画)。新しいモデルでは、建物やヒートアイランドの影響で雨が20%位強くなっている。ゲリラ豪雨の予想は未だ未だ難しいが、技術が進んできて天気予報の精度が上がりつつある。

5.ヒートアイランドの影響編Ⅱ・・・「熱中症」

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図8.年齢階級別累積熱中症死亡数
(1968~2003年)
真夏日や熱帯夜が多かった年は、当然ながら熱中症死亡者も多い。図8に19682003年における累計の熱中症死亡者数を示す。5歳までは車内閉じ込めによる死亡者が多く、それ以上では女性が少ない。70歳を過ぎたころから発汗量が少なくなるために高齢の死亡者が多くなり、男女がほぼ同数になる。高齢者は運動で死亡することもあるが、日常生活で死亡する人が多い。夜はクーラーを使用しないと、窓を開けても風がないと建物にこもった熱は出て行かない。

次に多治見市でのプロジェクトを紹介する。人間にセンサを取り付け、体感温や発汗量を測れる装着型人体温熱気象計測システムを作った。多治見市民にも協力してもらい、30人位が多治見駅周辺を2~3㎞歩いた。アメダスで気温が33℃となっていても、アスファルトのところは高く、川沿いは涼しく、場所によって±2~3℃の違いがある。風や放射を受けたときの理論に基づく体感温度は、気温が30℃でも50℃にもなるところもある。屋外がいかに危険であるかが分かる。

人間は恒温動物であるが、皮膚温度は変わる。同じ体感温度でも、女性は男性よりも発汗量が少なく、皮膚温度が高くなる傾向がある。また、痩せ型の人は発汗量が少なく、皮膚温度が高くなる傾向がある。性差は冷房においても、女性が男性より高い設定温度を好むことになる。

6.ヒートアイランドの対策編

都市の温暖化抑制技術には、透水性舗装、フラクタル素材、緑のカーテンがある。屋根をフラクタル素材(葉のような小さいパーツ)の組み合わせで造ると温度が下がる。東急病院は壁面を緑化している。対策としては、元々緑を減らしてヒートアイランドにしたので、緑を増やしていくのが地道で正攻法と考えている。緑地は気温低下、大気浄化、洪水抑制などの作用もある。草よりも樹木の方が効果的である。

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図9.神宮の森の気温
(クールアイランド)
神宮の森は1900年頃に100年後の完成を目指して造られた。13万本の木が植えられており、世界に誇る人口林である。原宿の参道から入ると、森林の効果で気圧が低いため、そよ風が吹いて涼しい。図9に示すように原宿口は34℃であるが、社殿のあるところでは30℃と低い。

1996年に宮司さんにお願いして、35mのクレーン車を持ち込んで種々のデータを取って効果を調べた。サーモグラフィで写真(省略)を撮ったが、新宿副都心は温度が高く神宮の森は蒸散により冷えていることを示している。秒速1m位の弱い風が吹き、上空で暖められて汚れた空気が下りてくる。神宮の森は半径1㎞位であるが、全体で1秒間に1.5ℓのペットボトル100本分の水蒸気を出している。大気浄化機能にすると、100台の車がアイドリングして出す排気ガスを吸収してくれている。非メタン系の炭化水素であるテルペンの放出やCO2吸収の効果もある。

これらのデータからどの程度の緑地を造れば良いかが分かり、定量的な経済評価に役立てることができるようになる。今後は神宮の森のようなものを造ることはできないが、13万軒の家に1本ずつ木を植えれば、神宮の森と同じ本数になる。分散して植えれば、オアシス効果により、神宮の森の1.5~2倍の効果がある。壁面緑化と学校や個々の家の植樹は、積分されると既存の大規模公園を凌駕することができる。

Q&A

Q1: 環八の辺りで雨の量が多いとのことで、善福寺川が氾濫したりするが、環八のどの辺か?

A1: 示したデータは10年間位の統計データで、実際には毎年変わるので、そこまでピンポイントには分からない。雨が降るのはドンドン強くなっているが、地下貯水池ができたことで川が溢れるリスクはかなり減ったと聞いている。

Q2: 温暖化防止のために、排熱よりも環境を悪化させるガスCO2が問題か?

A2: 地球の温暖化はCO2などのガスが問題なので、温暖化を緩和させるにはCO2を出さないのが第一義的である。我々だけではCO2削減に限界があり、ヒートアイランドもあって、極端気象が増えてくるので、何とか我々で適合しようとする流れが全世界的にある。人工排熱を減らし、木を植えることは地球温暖化には効かないが、ヒートアイランドに効果があるので、大事である。

Q3: ヒートアイラドの防止策で、屋上緑化より木1本植える方が効果的か?

A3: 屋上緑化の面積にもよるので、コンピューター・シミュレーションによらないと比較ができない。屋上は真っ平らで東京23区では膨大な面積があり、緑化すれば蒸発熱に変わるので効果がある。オープンスペースでは草より木の方が洪水抑制効果もあって良いが、屋上は木が根を張れないので、芝生で良い。

Q4: 地球温暖化は万年単位では氷河期がきたりするが、10年、100年で考える必要があるか?

A4: 地球温暖化は長いスケールで、空間的にも地球がクローズアップされ過ぎている。ヒートアイランドは切迫しており、我々のアクションは時間的にも空間的にも直ぐに効くので、そこを強調した方が良いと個人的には考えている。ただし、地球温暖化は長くて、氷河期が繰り返すので考えなくても良いと無視するのも問題である。東工大のある先生は地球温暖化に懐疑的であるが、未だに決着がついていない。IPCCのいうように、ここ20年間の温暖化は過去の気候変動からは到底説明できない上がり方で、人間の出したガスによることは世界的なコンセンサスになっている。

Q5: 過去100年での0.60.7℃の温度上昇は、線形でなく二次曲線ではないか?

A5: 1世紀の間の温度上昇は直線ではなく、1960年頃に上がって下がってまた上がることがあった。数世紀では更に凸凹があり、その変動は太陽活動や地軸の変動に起因している。

Q6: 東京都の緑化の具体的施策は手が打たれているのか、今後の施策は考えられているか?

A6: 東京都はやっていると思う。屋上緑化は数値目標があり、環境カルテでは現在の屋根面積に対して可能な面積を試算し、それによる効果が出されている。行政は意識が高まり最近かなり力を入れているが、都民に周知されていない。東京は進んでいる方だと思う。

Q7: 都市の温暖化には建物が影響するが、建て方や素材で温暖化を緩和する研究は?

A7: 壁の素材、屋根のフラクタル素材などいろいろあるが、素材を変えるのは二次的、三次的効果しかないといわれている。屋根に高反射塗装をするのは効くが、道路面や壁面では反射を繰り返すだけで最終的には吸収されてしまう。壁面の塗装や材質を変えても劇的な効果はなく、むしろ壁面は緑のカーテンにして熱が室内に入ってこないようにすれば、冷房の電力消費量を減らすことができて効果的である。

Q8: 建物の凹凸により、太陽光の反射が40%から10%になるのは差が大き過ぎないか?

A8: 屋根の面積と空間の面積の割合による。屋根が30%で、空間が70%とすると、屋根の部分からの反射は変わらず空間の部分からの反射がないとすると大体10%になる。不思議なことに、世界中のどこの都市でも、材質が違っていても10%程度である。

Q9: 都市工学の観点から行政との対話は大事で、どのような形でやっているか?

A9: 研究者としては大変大事である。都市気象学自体が1990年頃から立ち上がった新しい学問で、旧来の物理学や電気学と違い、分野横断的で国土交通省の研究者や気象庁の研究者が連携して研究している。コンピューター・モデルは国土交通省が使ったり、気象庁は最新技術を取り込んだりしている。東京都には環境研究所があり、最新の研究が政策に反映されている。地球温暖化は政治問題化しているので、行政の政策との距離が近い。ヒートアイランドの研究はその次に近い。現在は競争的資金で研究する場合、行政も入れなければならない。多治見市の研究では、市民の要望を聞きながら行政と一緒になって行った。それ以外に、目黒区や大田区では区民大学のようなところでお話をして、接点を持っている。

 

(記録:池田