第 4 1 7 回 講 演 録


日時: 2014年5月12日(月)13:00~15:00

演題: アベノミクスの成果と課題

講師: サクライ・アソシエイト 国際金融研究センター 代表 櫻井 眞 氏

はじめに・自己紹介

東大大学院時代は、浜田宏一教授(現内閣参与、イール大学名誉教授、東京大学名誉教授)の下におり、一緒に論文も書いたこともある。大学院ドクター2年の時に当時の輸出入銀行、現在の国際協力銀行(以下輸銀)が研究所を作ることになり、研修のための講義依頼があり浜田教授に代わり講師を務めた。その後大学院終了後大学に残らず輸銀に勤めることになった。この選択には大学との給与の差がインセンティブとして働いた。その後数年たって米国への留学の機会が与えられ、浜田先生に相談した結果、MIT、ハーバード、イールのつしか紹介しないと言われ、この中では割とのどかな雰囲気のイールを選択した。

帰国して、2年目くらいから大蔵省と銀行と半々くらいで勤務する様になった。当時大蔵省関税局長長富さんの秘書官を仲間二人と一緒に勤めた。その一人が現在国会議員の山本幸三さんで、この人はアベノミクスの実質的な仕掛け人であるが、秘書官時代からの付き合いが今も続いており、アベノミクスの初期から関係することになった。もう一人の秘書官が竹中平蔵さんで、彼は日本開発銀行からの出向であった。

その後1980年代半ば、中曽根首相のころ日本経済の発展で貯まった経常収支の黒字を円借款として発展途上国に還流し、資金を有効活用することになった。輸銀はIMFや世銀との円借款協調融資の窓口であるため非常に忙しく、年間180日くらい海外に出掛けていた。

その後民間に移り、三井海上の研究所の所長となったが、一人で仕事をしたいということで会長・社長のアドバイザーのみ行っていた。

1.アベノミクスとは何か?

(1)アベノミクスの背景

アベノミクスが何時から始まったかと言うと、国会の党首討論会で総選挙が決まった201211月である。この時から為替と株が動き始めた。今の安倍総理がなぜ「アベノミクス」を構想し、それを施策として実行することになったのか?それには第一次安倍内閣の失敗の経験が大きく影響している。この失敗がなければ現在のアベノミクスはなかったと言ってよい。

第一次安倍政権では、小泉総理の後継総理として長期政権を狙い、「美しい日本」を掲げ、憲法や教育基本法などを取り上げた。あの当時国民が一番望んでいたことは景気対策を何とかして欲しいということであったが、経済問題はプライオイティの高い政策としてほとんど上がって来なかった。そうこうしている間に閣僚のスキャンダルや健康問題で1年も持たずに退任となった。安氏は経済についてはあまり得意ではなかったが、経済問題を役人の言う通りに鵜呑みにしていいのかという疑問を持つようになっていた。

その安倍氏が経済問題を本格的に勉強するきっかけになったのが、東日本大震災である。震災により増税はしばらく延期した方がよいとの考えから、山本幸三氏が事務局長として、衆参両院・与野党の議員からなる「増税反対議員連盟」を結成し、安倍氏が会長に就任し、勉強会を実施した。そこに浜田教授や今の岩田日銀副総裁らが来て、経済問題が話された。アベノミクスの一番の特徴は総理大臣が経済について自ら勉強し、総理大臣自身が自分の考えを持てるようになったことである。ここが歴代総理大臣と違う所である。唯一の前例は1950年代の池田総理による「所得倍増計画」である。第二次安倍政権が発足した12月の時点で既に、今のアベノミクスの骨格にあたる三本の矢などはほとんど出来上がっていた。これに市場が直ぐに反応し円安、株高が急速に進んだ。

2)アベノミクスの主要内容

かつて日本銀行は、1985年のプラザ合意の後通貨供給量を増やした。それがその後のバブル経済につながった。それが日銀のトラウマになって、その後不況になっても、通貨供給量を増やしていると言いながら、実はほとんど増やしていなかった。実質的には引き締めに近い状態が続き、これが「失われた20年」の主因になった。日銀の政策に対する批判は、国内では大きな声とはならなかったが、海外の多くの金融専門家、学者の間では日銀の金融緩和は不十分であり失敗であると指摘されていた。2005年から2010年、11年頃の日銀のバランスシート=通貨供給量・保有国債の拡大は約30%であるのに対し、アメリカは4倍、イギリスは3倍、ヨーロッパは少ないと言われながら、それでも2倍に増えている。日本銀行が金融政策を適切に実施しないので不況が続くとともに、円高になった。不況が続けば、選挙のたびに政治家が財政支出拡大を行ったので財政赤字がどんどん拡大していった。

安倍政権のプライオリティの一番に挙げていたのが、日本銀行の金融政策を変えさせることであった。金融緩和の遅れが円高になった最大の要因であり、円高是正をしない事には景気の回復はありえないので、安倍政権ではまずは本格的金融緩和政策をやろうという事になった。しかし、量的金融緩和については、経済界や日銀からは過激で、インフレを起こす可能性があるから危ないなど反対論があったが、安倍総理は日銀法を改正してでも実施すると固い決意でいた。自民党が圧勝しそうになり、日銀も急遽方針を転換し金融緩和策に協力するようになった。従来の日銀は量的緩和の枠を拡大してもそれを使い切らない保守的傾向を持っていた。

 三本の矢の、第一の金融緩和政策に次ぐ二つ目の矢は財政の拡大で、二つの目的がある。つは景気対策としての震災復興加速で、もう一つは老朽化したインフラ設備の補修再建である。三つ目は、今話題になっている成長戦略である。この三つの矢の経済政策を実行することになった。

2.アベノミクスと安倍政権1年の成果

(1)アベノミクス1年間の成果

201212月の政権発足(「アベノミクス」の発表は201211月)からこの5月で1年半経ったが、その第一の成果としては為替レートが約80円から102円前後になり、対米ドルで27%くらい下がったことである。円安の効果としては、まず企業収益が大きく上ることである。日本の一部上場の製造業では海外生産比率が50%、少なくても30%と高いので、円安効果で企業は何をしなくても利益が増える。実際この3月期の決算では一部上場企業で利益が2倍くらいになっている。次に株価が日経平均で約8500円から14000円台に、時価総額が270兆円から400兆円近くまで大幅に増加した。これによる即時的な資産効果が非常に大きい。もう一つ、失業率が4.1%から3.6%に低下した。それにつれて有効求人倍率が0.87から1.07に上がっている。景気が良くなり労働市場に人が戻ってきて、この数値以上に雇用状況が良くなってきている。予想以上の雇用の改善で、今人手不足が深刻になっている業界が建設業と外食産業である。これら業種のように不況を前提とした低賃金、長残業依存型のビジネスモデルは成り立たなくなってきている。デフレ対策では昨年の6、7月頃から消費者物価上昇率がプラスに転じている。前年比で1.21.3%となっているが、ただ、これは円安による効果が半分以上を占めているので、不況から脱却したと素直には喜べない。また、不況が長期に続き企業が設備更新投資を抑えてきたため設備年齢が高くなり、業種によって違いがあるが、平均的に90%以上のフル稼働状況で、労働力を多く必要とするようになったことが雇用拡大につながっている。

アベノミクス1年半を見て思うことは、安倍総理自身が勉強して理解してくれたからこそ初めからスピード感をもって実行できた。もう一つ重要なことは「レジームチェンジ」に近い政策転換が起こっていることである。例えばTPPの交渉参加と交渉の進展である。それに安倍政権は8年ぶりに初めて2年目を迎えられ、2回予算を組んだ政権である。どの政権も構造改革や成長戦略に近いことを言っていたが、どの政権も法案提出を含め、具体的に手を付けられなかった。しかし、安倍政権では発足時には既にアベノミクスの骨格が出来ていたので、臨時国会だけで改革関連30本の法案が成立している。安倍政権の法案成立率は約80%であるのに対し、以前の民主党政権時は40%程度と低いうえに1年ずつの政権交代で、到底改革を出来る状態ではなかった。昨年12月に浜田教授は講演で、安倍政権1年の評価は「ABE(金融政策=A、財政政策=B、成長戦略=E)」であると、成長戦略に一番低い点数を付けられた。しかし、来月には法人税減税などの成長戦略関連の法案が出てくると思われる。成長戦略は長いタイムスパンを前提として実施するものであるから、これからの成果が問われるべきものである。

過去1年間、株価と為替の間にはきわめて強い相関関係があり、円が1円安くなると日経平均が約300円上がっていたが、この関係は、円が100円前後で推移することを前提にして、今年前半に終わり、それ以降は各個別企業の業績が株価に反映されるようになって行くだろう。今後の円の見通しは、米国の金融政策やウクライナ情勢、中国経済の見通しなどの不安定な外部環境を前提としても、当分110115円まで円安が簡単に進むことはないかも知れないが、再び9596円まで上がることもなく、100円前後で推移すると見ている。現在の世界経済全体で見て先進国で調子の良いのは米、英、日の3か国である。イギリスが良いのはユーロに入っておらず、金融政策も自主性を持っているからだ。アメリカ経済はベースで2.5%から3%近く成長しており、中長期的にはシェールガス、シェールオイルの寄与で成長ポテンシャルの高い経済になりつつある。

(2)評価に関連する諸問題

アベノミクスは1年半たって割と成果が出ているが、多少問題が出ているのは政策のスピード感が昨年の夏ころに比べやや遅くなっていることである。例えば金融緩和がもう一回あると言われているが、なかなか決まらない。一番重要な事は、安倍政権が7月か8月に内閣改造をやる予定で、新しい大臣になり今までと同じスピード感が保てるかどうか。今回の安倍政権は準備をして来たので、1年目から立て続けにいろんな事が出来た。内閣改造後も役人任せにせず、これまでのように官邸がリーダーシップをもって政策実行が出来るかである。

(3)アベノミクスと安倍政権の政治と外交

安倍政権には二つの側面がある。経済面ではアベノミクスが順調に進展しているが、一年半たって一番問題になるのは憲法問題、靖国問題など政治外交面である。少し修正はしているが、依然大きな課題である。

第一次安倍政権と比較して異なっているのは、経済の問題の他に所謂「お友達」と言われる側近の取り扱いである。第二次政権ではお友達と称される人たちの多くは閣僚から外し首相補佐官や内閣補佐官にしたが、このうち何人かが問題を起こしている。この人達をすぐに更迭しないのが一つの問題ではないか。ただ、今回オバマ大統領の訪日で、TPP交渉の進展、尖閣安保適用などで予想以上の成果があり、転換点になる可能性が大きい。靖国参拝や集団的自衛権についても少し時間をかけるなど抑制的対応をしつつあるが、政治外交面でこのあたりは課題である。

3.アベノミクス2年目の課題

(1)アベノミクスと日本経済の現状

これからの課題はほとんどのものが中長期の課題である。中長期の課題に取り組んで行くには、毎年景気拡大を維持しなければならない。これが出来なければ政権基盤が弱くなり法律が通せなくなる。だから最初から全力疾走して行かなければならない。長期政権を狙うのではなく、結果として長期政権になるのが一番望ましい。

経済の中長期目標は、名目成長率を約3.5%、実質の成長率を1.5%位としている。なぜこのような数値が出てくるかと言うと、3.5%と言う数値は大体20年で倍になる数値である。大学を出て定年まで40数年働くと大体所得が4倍になる。それであればある程度夢も持てる。少なくとも名目所得で3.5%を何としても達成し、それを前提に財政問題等を考えていくことになると思う。

2年目の課題を考えるにあたって、1年目の雇用と賃金がどうなるかに注目していたのであるが、今年の春闘で賃金は平均すると5%以上あがった。全体で60%以上の企業がベースアップと一時金で賃金増を行った。これは今回の消費税アップに対してやや緩和材料になっている。今回の消費税3%アップについても政府内でも当初いろいろな意見があった。安倍総理が最後に消費税は3%上げる、その代りいろいろな財政処置で2%緩和し実質1%の負担にしようと決断し、それが今年度予算に反映されている。7月になるともっといろいろ数値が出てくるが、4月の時点での消費動向をみると、結果論ではあるが、財政上の緩和処置はいらなかったのではないかと思われるほどの状況である。これからすると今年の経済成長率は1%から1.5%になるのではないかと期待される。

あと一つの焦点は、企業が好調さをどこまで維持できるかということである。2015年3月期の企業決算見通しを見ると、トヨタは営業利益額の伸びはないものの、営業利益率は9%と非常に高い。発表された見通しの数字を見ると今年度の営業利益率の予想は5~10%の所に分布が集まっている。円安が進まなくても比較的に好業績が維持出来るという見通しの企業が多い。それがあって、今年の後半は為替と株価の相関が切れてくる可能性が高いとみている。後は、円安依存ではなく、企業本来の業績次第ということになろう。

雇用について、今までの所は上手く行っているが、あと長期の雇用にどう上手くつなげるか。成長戦略で、雇用に関する規制緩和と雇用の安定をどうバランスを取って行くかが課題である。安倍政権になって失業率は0.5%下がったが、菅政権の時と比べると1%程度下がっている。労働市場に参加を諦めていた人が戻っていて、予想以上に雇用が改善されていることを示している。

アメリカやヨーロッパがアベノミクスの何に注目しているか言うと、基本的には二つの項目である。つは成長戦略がどのようになるか、もっと具体的な中身が欲しいということである。これには安倍政権が必死に対応していかなければならないが、今年後半に農業などの問題にどこまで切り込めるかが問題になる。TPPなどの交渉の状況をみると日本は全体品目の95%の自由化率を想定していたが、アメリカの原則100%の要求に対し、9697%あたりで落ち着くと思われる。TPP成立後でも日本の農業はコメの価格をはじめ問題が多く、消費税増税対応のためにも、その改革の成否が成長戦略の中でも象徴的に見ている。もう一つの注目点は金融政策が継続して行われるかということである。金融政策はこのまま続けられると思うが、その結果インフレになる心配よりむしろ、自由化による輸入価格低下が円安による価格上昇に勝り、逆に思うようにインフレにならない懸念もある。

もう一つ、外国はあまり注目していないが、エネルギー政策がどうなるかである。エネルギー基本計画はついこの間決まったばかりであるが、安倍政権の政策のスピードが落ちていることの表れで、実は当初の予定では昨年11月に決まっているものであったが、3月までずれ込むことになった。原発をある程度動かせる前提でいたが、なかなか予定通りに行かない。これを加速しないと、国際経常収支の改善が進まない可能性が高い。

(2)アベノミクスの課題と今後の安倍政権

1年半たって日本経済に随分変化が出ている。例えば日本の貿易収支の赤字が定着してしまっている。貿易赤字は年間10兆円から11兆円赤字である。震災前は全く反対で7兆円から8兆円の黒字であった。随分違ってきている。経常収支ではゼロか若干のプラスになっている。それはなぜかというと、海外投資収益で稼いでいるからである。今海外投資収益は15兆円から20兆円で、この分が貿易赤字の穴埋めをしている。

なぜ円安になっても輸出が伸びないのか。企業は国内では設備投資を控え、主に賃金コストなどで有利な海外で設備投資をして来た。国内では赤字が出ないようにするのが精一杯であった。このような状況の中で急に景気が良くなってきたので増産に入り稼働率が100%近くになり、量的な輸出余力がない。例えば、マクロ経済学でいう「需給ギャップ率」で見ると、現在は日本国内の需給ギャップ率が99%とか99.5%で総供給能力と総需要がほぼバランスした状況にある。菅政権のころには92%とか93%の需給ギャップがあった。一方、円が27%下がり、円で見た輸出価格は15%から18%上がったが、輸入国通貨で見ると輸入価格は10%程度しか下がっていない。このように輸出が伸びない原因とか状況は非常にはっきりしている。今後国内設備投資などで輸出余力が出てくればある程度輸出が伸びて、国際収支に変化が出てくるだろう。それから原発がある程度稼働すれば天然ガスの輸入が減ってくるし、火力発電分野でも新規設備投資が始まっており、熱効率の良い設備になるので燃料費負担も減って来るだろう。2017年からはアメリカのシェールガスが入って来る。これが国際収支構造に変化をもたらす可能性がある。

財政赤字に対しては、いろいろ議論があったが、増税が決まって消費税アップも実施された。緩和処置も行われ、結局は1%の負担増になっている。財務省は法人税を減税するのであればその分の財源が無ければだめだというのが昔からの言い分である。法人税の減税による法人税収減のマイナスと景気が良くなって企業収益が上がり法人税収が増加するプラスの効果とのバランスをどうするかの問題である。この一年間を見ても、ある程度、法人税を納められる企業がかなり増えてきていることが分かってきた。このあたりを含めて、頭の切り替えをする重要な時期に来ている。

Q & A

Q1.設備投資についてお伺いしたい。海外で儲かっている会社は、じゃぶじゃぶのお金を使って他企業や事業の買収をやり会社自体は大きくなるが、日本経済全体では良くなってこない。必要なのは国内での設備更新投資で、それにより能力も上がり増産に結びつくという好循環に入るであろうということは理解できる。しかし安倍首相は賃金を上げてくれとは言っているが、設備投資をやってくれとは少しも言っていないのではないか。この点はどう考えればいいのか

A1.大部分の企業は未だ国内設備投資をやろうという所までは行ってない。ただ、業種によっては、話題の炭素繊維の企業のように新規の工場を造るとの動きもあるが、それが一般化しているかと言うとそうではない。設備投資に関する当初の目論見では昨年の10月くらいから多少増加してくると考えていたが、減少はしていないものの、回復がずっと遅くなってしまっている。現在の日本経済の回復は消費と公共投資で支えられている。設備投資は足を引っ張ってはいないものの、成長に貢献はしていない。これから設備投資がどうなるかについては法人税減税時期も関連していて、企業は税が安くなるまで待とうと考えてなかなか踏ん切りがつかない。27%円安になったからといって海外の生産コストが劇的に上がったかというとそうではなく、やはり海外での生産の方がまだまだ安いのが実態である。しかし、国内経済がプラスの成長が維持出来ていれば製造業だけでなく、サービス業を含めれば設備投資は随分出てくると思われるので、そこを最初のきっかけにしてほしいというのが今の状況である。設備投資金額が増えなくても最新技術による新鋭設備への更新投資が行なわれれば、企業収益にも貢献するが、未だその動きははっきり見えてこない。

Q2.6月か7月には第二次金融緩和が噂されているが、見通しは如何か

A2.経済指標次第だと思われるが、黒田総裁は「必要があればやります」と言質を取られない言い方をしている。我々は数字的には経済は確実に良くなってきているので、インフレなど特別悪いものが無いのだったらもっとやって良いのではないかと考えているが、日銀には二つの考え方があり、なかなか踏み切らない。日銀の政策委員会委員は9人いるが、半々か6:3くらいで慎重派が多い。安倍総理になって代えられたのは総裁、副総裁だけで政策委員会の委員の多くは以前のままである。マーケット側は3月までにはもう一回やるのではないかとの読みであったが、その後は5月かな、今は7月かなと言う状況になっている。むしろ我々が心配しているのは第1四半期あるいは第2四半期の数字が良いと最終的にやらないのではないかという可能性が出てきたことである。海外ではクルーグマン教授がNYタイムズのコラムの中で、金融緩和政策については「逡巡の罠」を中央銀行はどこも持っており、緩和し過ぎて失敗したときの責任を問われるのを一番嫌うので、引き締めは簡単にするが、なかなか緩和をしない。しかし、殆どの国が景気回復のために大胆な金融緩和をやっているのだからもっとやって良いのに、日本とスウェーデンは特に逡巡が強いと述べている。バーナンキ議長は通貨供給量を3倍に増やしたが、黒田総裁はこの1年間で80%しか増やしていない。

Q3.日経記事に外国が注目する成長戦略の要点を①法人税率の低減、②公的年金の株式投資の拡大、③移民受け入れの3つだと簡単にまとめているのだが、法人税率の低減は話を伺ってある程度理解できたが、公的年金の株式投資拡大については政権運営の生命線と見定めた株価との綱引きと言っているが、分かりにくいので具体的に噛み砕いて教えてほしい。

A3.年金運用基金は株式への運用を制限している。しかし4月の時点でその解禁がほぼ決まっている。問題は運用額をどこまで認めるかである。これは何兆円という資金になるので、株価にかなりの影響が来るかも知れない。ただ、今年は業績相場になると思うので、企業の利益を反映した株価になるだろう。EPS(株価収益率)で1518を目処にすればよいであろう。

Q4.移民の受け入れについては労働力不足への対策と思うが、高齢者や女性の活用もうたわれている。雇用規制緩和の中に外国人労働者の受け入れも含まれるのか

A4.すべて含むものであるが、日本は規制のきつい国である。先に述べたように、日本の経済成長は3.5%の成長率で40年後は4倍になる予測である。一方この間人口は減っているので、一人あたりでいうともっと増えている。しかし外国人を含めもっとオープンにしないと活力がでない。これは何も3Kに外国人を入れるというのではない。典型的な例は大学である。日本の大学のランキングは毎年のように下がってきている。この辺りも考えてレベルの高い外国人を積極的に入れないといけない。

Q5.アベノミクスはこれまで順調だが、スピード感にかげりが指摘されている。この先これが「アベマゲドン」になっては困るのだが、そうなるような要因はあるのかアメリカの長期金利がいま2.5%から2.7%くらいにとどまっており、円安が進まない状況になっているが、イェレン新議長のもとでの見通しは如何なものか

A5.アベノミクスの経済政策はある程度整合性は保たれており、党内や各官庁からのいろいろな抵抗を排除して進めており、政策としての問題はそれほど出ていない。しかし、その外側にはいくつも問題がある。一つは、安倍首相の関心が憲法や靖国のような問題に傾斜し過ぎると、そもそも政権自体が動かなくなる可能性がある。もう一つは経済面では外の経済が本当に悪くなった時はどうしようもない。ウクライナについてはイデオロギーの対立ではないのでそれほど心配していない。心配なのは中国で、問題が分かっていても自らの首を絞めることになる改革はそう簡単にできない。中国が混乱すると大変である。現在の中国に感じる不安は習近平国家主席が将来に向けて何をしようと考えているか非常に分かり難いことである。

Q6.近年の日本は学校と産業界と連動が無いため学ぶことの評価が正しくなされていない。そのため、本当に出来る人を活かすような仕組みが出来ていない。社会人が学校などで学んでも会社ではそれを評価するようになっていない。安倍首相の政策を見ていると教育委員会改革などで小中学校には目が向いているが、高等学校以上の教育には目が向いていない。社会で役立つ人をどういう風に活用していくかがあまり議題になっていない。経済界も以前の日経連では教育問題も扱ったが、日本経団連になってからは経済面ばかりで、どこも教育問題に関心を持たず、教育に関する良い参謀がいなくなったように思うが、如何か?

A6.全く同感だ。国の予算を見てもOECDの中でGDPに対して教育費が占める割合が一番少ないのは日本である。根本的に考え直さければいけない。教える側を含め高等教育のレベルを上げなければならない。安倍政権の成長戦略では10%の外国人教師を入れるとしているが、10%では効果は出ない、3割とか4割にするくらいでないとだめだ。今、大学院の文化系の先生になる一番の近道は、役人になるか新聞記者になることである。しかし、この人達は大学院で教育を受けていない。この様な事は考え直さなければいけない。大学のランク付けを見ても日本の大学はどんどん低下している。真剣に高等教育の改革を検討しなければいけない。教育でも目指すのは2番目ではだめで、世界トップでなければならない。そのためには強い意志を持たなければならない。

それとジョブ(job)に対してのロイヤリティと組織に対するロイヤリティとのバランスのとり方をきちんと教えなければならない。日本の場合、なかなかこのバランスを保つことが難しい。とくに組織の中にいる時に専門家としてのロイヤリティを保つことはそう簡単ではない。日本ではジョブローテーションシステムのため難しいが、もう少し専門性を育てて行くようにしなければならない。それ以前に先ず大学が遊ぶ場ではなく、きちんと勉強する場であってほしい。グローバル化は企業だけではなく、教育もこれに対応しなければならない。

(記録:田邊輝義