第 3 9 5 回 講 演 録

日時: 201213() 13:0014:50
演題: 東日本大震災から1年:地球内部の変動と地震

講師: 東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻 教授 岩森

1.研究内容

地震発生を研究するのではなく、地球がどのようにしてできたか、地球の46億年の歴史の中で地球の熱エネルギーがどのように地球の営みを起こしてきたか、大きいスケールでの研究を行っている。テーマは「地球内部ダイナミクス」という言葉で表現される。その枠組みの中で地震や火山の現象、日本列島のようにプレートの沈み込む場所、地球特有の水の役割、地球の惑星としての進化を対象としている。文部科学省のプロジェクト「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の中で「沈み込み帯のマグマ発生と地殻変動のダイナミクス」を代表として立ち上げている。地震の予知をする喫緊の研究ではなく、地震や火山噴火を理解するための基礎研究であるが、東日本大震災で責任を感じており、そのような観点からお話をする。

2.東北地方太平洋沖地震

(1)世界の巨大地震

東北地方太平洋沖地震はマグニチュード(M)9.0であった。過去100年間に起こった地震の中では、1960年のチリ地震が最大でM9.5である(下図)。マグニチュード1の違いは約30倍のエネルギー差に相当し、東北地方太平洋沖地震との差は大きい。マグニチュードはおよそ断層の動いた面積(下図の黄色の面積)で決まり、チリ地震では南北3000~4000kmにわたって動いた。東北地方の地震は想定外と言われているが、地球規模では下図のように巨大地震が多く発生している。

 

(2)東北地方太平洋沖地震の特徴

広い範囲、南北450kmにわたりプレートが東側に最大50m程度ずれた。海岸付近では地盤が最大1mぐらい沈降した。地震発生直後に割れ目がどのように広がったかを地震波から解析することができ、三陸海岸と日本海溝の中間で破壊が起こり、日本海溝の方に向かって拡がって行き、60~80秒後に広範囲な大きなすべりが発生した。その後もすべりが続き、90秒間にわたる非常に長い破壊であった。すべりは450km×200kmの広範囲で起こった。歪エネルギーの解放(応力降下)は20MPa(200気圧)で余り大きくないが、岩石は200MPaぐらいで破壊するため、これ以上の歪エネルギーを蓄えることができない。東北地方は東西に圧縮される状態であったが、ほぼ全ての歪が開放された。このことにより、少しの擾乱によって引張りと圧縮の両方の地震が現在起きている。

(3)津波

 1時間後に大きな津波が押し寄せて、その後も打ち寄せたり引き返したりする振動を繰り返した。東京湾、駿河湾、伊勢湾にも数10cm程度の津波が及んだ。観光船をビルの屋上に持ち上げたのは尖った高い波で、平野の奥深くまで及んだのは広範囲に盛り上がった長波長の波が押し寄せた。東北地方の太平洋沖は北米プレートに太平洋プレートが沈み込んでいるが、海溝付近で北米プレートの先端がブロック上に押し出され、広範囲で起こった変位とともに上記のような津波を引き起こした。その結果、波高の高い波と長波長の波の両方が押し寄せた。

(4)海底地形変動

海洋研究開発機構が地震直後に海底を観測した結果によると、海溝軸付近で北米プレートは東南東に50m、上方に7m移動していた。特に海溝付近の北米プレートの先端部はブロックとして壊れて押し出され、今回の津波の特性をもたらしたと考えられる。

(5)何故大きなずれが起こったか?全く予測できなかったのか?

① 地震発生以前の予想

地震発生の2ヶ月前の2011年1月11日に内閣府の地震調査研究推進本部は、2011年から30年間の地震発生確率を発表した。プレート境界型の大地震が起こりそうな場所として、千島列島から北海道沖、東北沖、茨城県沖、関東沖、東海、東南海、南海、日向灘、日本海側にもプレート境界があり秋田県沖などが挙げられている。これらの中で、宮城県沖地震の予想は2011~2041年にM7.5の地震の発生確率は99%で、ある意味では当っていたが、規模は桁外れであった。

 ② アスペリティモデル

マグニチュードを見誤った理由のひとつは、アスペリティモデルとそれに基づく予想に関連する。沈み込む太平洋プレートとその上に乗る東北地方の岩盤の間を繋ぐ貝柱のように固着した場所があり、これをアスペリティと呼ぶ。アスペリティは、通常期はプレートが沈み込むのを妨げているが、耐えきれなくなったときにそこで地震が起こる。東北沖のアスペリティは30年程度で強度を回復し、再び地震が起こる。限られた範囲で地震が起こることが分かり、モニターして周期を把握しておけば、東北地方から茨城県沖までの地震は±数年の範囲で予想できるのではないかと考えていた。アスペリティ以外の領域は安定かつ定常的にすべると考えられていたが、実際にはこの領域にも大きな歪エネルギーが溜まっていた。考えを変えて、アスペリティは脆弱域であるために数十年に1度の繰り返し地震を起こし、安定すべり域は広域固着域で数百年に1度の大地震を起こすとした方が自然であるとも考えられるが、今後の研究が必要である。

 ③ 安定すべり域の歪エネルギー

安定すべり域と考えていた領域が、実際には固着し歪エネルギーを溜めていたことも指摘されていた。沈み込んで行く太平洋プレートと東北地方の岩盤に溜まった歪を地表のGPS観測から推定することができる。諏訪氏らは2006年に「プレート境界面の固着分布」についての論文を発表し、北海道沖と東北地方太平洋沖が固着しているらしいことを捉えていた。実際に東北沖では大地震が起こった。北海道沖は400年前に大地震が起きて以来歪が蓄積し、再び大地震が起こる可能性がある。GPSのデータを動画にしたものも国土地理院から発表されている。1996年4月から1999年10月の3年半の間に太平洋プレートが日本列島を圧縮している様子が分かり、東西方向に10cm程度縮んでいる。上下方向に関しては、太平洋側の釧路から福島の間の潮位の観測から、どこでも100年間に数cmから数10cm沈降している。太平洋プレートが日本列島の下に沈み込むことにより、引きずり込まれた結果と考えられる。

④ 地質学的歪速度と測地学的歪速度

東大の池田氏らのグループは過去12万年間の東北地方の歪を地形や地質のデータから推定した。東北地方は東西に圧縮されることにより、盛り上がるところと沈み込むところが繰り返して褶曲している。水平方向の短縮速度は1cm/年以下である。褶曲と断層が観察されところを元に引き伸ばして見ると、数百万年間で10数km短縮したことになる。地質学スケールでは1年間に1cm以下の短縮を起こしたことになる。GPSのデータ、潮位のデータおよび三角測量のデータによる過去100年間の測地学的歪速度は地質学的歪速度のおよそ10倍であることに気付いた。池田氏はこの矛盾を解消する巨大地震の発生を論文ではっきりと指摘した(池田、1996、2003):測地学的歪速度で弾性的歪が蓄積されて数百年に1度巨大地震が起こり、大部分の歪が開放されるものの、歪が少し残こる。この現象を繰り返し、地質学的歪が蓄積されると考えた。

 ⑤ 巨大津波

  産業技術総合研究所(旧地質調査所)の岡村氏のグループは津波堆積物から津波を復元する研究を行い、2006年に「仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波 -1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域-」を発表した。2011年の津波と併せて考えれば、数百年に1度巨大津波が東北地方に起こっていたことが分かる。福島原発の委員会で津波の基準が甘いことを再三指摘したが、活かされなかった。

  産業技術総合研究所は北海道から高知に至る、津波が押し寄せたと考えられる場所で、かつ海岸近くの沼などの津波堆積物が飛散・流出しないで残る場所で、丹念なボーリングや地層の調査を行っている。海浜堆積物や泥炭質シルトの中に砂粒や小石が混ざった層が津波の堆積物である。仙台石巻平野でのボーリング調査で3000年間の歴史が分かる。巨大津波の痕跡は、14世紀または1611年の慶長津波、869年の貞観津波(十和田火山の噴火による火山灰が直上に堆積し年代が良く制約されている)、2100-2300年前と2800-3100年前の津波に対応していると考えられ、およそ500年に1回程度巨大津波が襲ってきたことになる。南相馬市の2000年間の調査でも500年に1回巨大津波が襲ってきたことが分かった。

(6)地震発生後の地殻変動

東大の池田氏が(5)④で指摘した巨大地震による歪の解放は、東北地方太平洋沖地震では完全には解放されておらず、より深部において現在もゆっくり進行している。研究者間で意見が一致していないが、歪の解放は10年間ぐらい続き、その後再び長い歪蓄積期間に入ると考えている。このことは、国土地理院が毎日発表している東北地方のGPSによる鉛直方向の変位データからも示唆される。矢本(宮城県東松島市)では、地震直後には急激に盛り上がり、その後通常の地震では数ヶ月で落ち着くが、矢本の場合は直線的に隆起し、最近は隆起が加速しているようにも見える。山田(岩手県下閉伊郡山田町)では、地震直後にはプレートに引きずられて急激に沈降し、その後は沈降が終わり、ここ数ヶ月は隆起に転じている。地震後の隆起(余効変動)は、通常は速やかに減衰するが、今回の地震では余効変動が衰えず、10年程度かけて広域的な隆起が起こる可能性がある。このことは、深部での流動、より深部のマントルでの現象(マントルプロセス)が重要であることを意味する。日本列島に沈み込んでいるプレートの境界域は、震源域では数10kmから最大50kmであるが、歪の影響はマントルにまで及んでいるので100kmないし150kmにまで達している。深部の流動、広域的な隆起が起こると、日本列島全体に歪が及ぶ可能性がある。1610年頃に起きた大地震の後には、60年間にわたり複数の海溝型大地震が起こり、1700年初頭には富士山の宝永噴火が起きた。経験的には、今後50年間ぐらいは大きな海溝型地震や内陸地震および火山噴火を覚悟した方がよいと考えている。

3.地震に関する留意点

(1)関東大震災と地形

 関東の直下型地震である。武村氏の本には東京都山手線内側の震度分布が示されているが、揺れの大きかったところは震度6~7、比較的揺れの小さかったところは震度5以下で、震度にして2の差がある。標高の図では、元々海であった隅田川以東の浦安、および入江や河口であったと考えられる赤坂谷、渋谷川、などの低いところは震度が大きく、台地に乗っているところは震度が小さい。地形・地盤を見て建物を建てることが重要である。古代人もそのことを知っていて、弥生人は東大本郷キャンパス近くの安全な台地に住み、海に降りていって貝や魚を獲っていた。縄文人の大森貝塚も同様である。

 ところが我々は、治水ということを知ったために本来居住に適さないところにも住宅街を拡げた。江戸時代には江戸と下総の間は通行不能な沼地や荒地で、洪水にも度々見舞われた。したがって、江戸からの物流は、三浦半島から上総(房総半島南部)を経由して下総(房総半島北部)に行っていた。現在は掟を破って中央線・総武線を通し、通行不能であったところに広大な住宅街を作っているので、それらを踏まえて今後の対策を講じる必要である。

(2)東北で起きた巨大地震による遠くの巨大建造物の揺れ

 関東平野は7kmの深さの砂や泥が溜まっている場所で、豆腐の上に大きなビルを建てているような状態である。豆腐は細かい揺れは伝えないが、ゆっくり揺らすといつまでも揺れる。関東平野の揺れの固有周期は6~10秒である。50~100階建てのビルの固有周期は関東平野のそれと一致しており、共振によって壊れ易い。石油タンクの固有周期も同様で、市原の石油コンビナートで火災が起きた。地震そのものを防ぐことができないが、地盤と建造物の振動の固有周期を理解しておくことが防災面で重要である。

(3)今後の地震発生の可能性

 東北沖で地震が発生したが、他に大地震の可能性を孕むころは沢山ある。プレート境界型地震については、十勝沖、房総沖、東海、東南海、南海、日向灘、日本海である。関東下では2枚のプレートは折り重なって状況は複雑であるが、ここでも警戒が必要であろう。どの程度切迫しているか、見極めなければならない。

 東北地方は去年の地震で歪が解放されたので、現在は安全である。十勝沖は余り話題になっていないが、400年間地震が起きおらず、大きな歪が溜まっていると考えられる。東海、東南海、南海の三連動地震が懸念されている。1605年の慶長地震はM7.9、1707年の宝永地震はM8.4、1854年の安政地震はM8.4で、いずれも三連動地震である。1944年にはM7.9の昭和東南海地震、1946年にはM8.0の昭和南海地震の二連動地震が発生している。100年から150年の周期で発生していることが分かる。東南海と南海は最後の地震発生から60-70年しか経っていないが、東海は150年を過ぎた。東海と東南海は東北地方で起きた地震により、地震が誘発され易い状態になっている。

 地震の予知はできないが、大局的には日本列島は東北地方の地震で大きな影響を受けている時期であり、北海道沖や東海・東南海、および関東で地震が起こる可能性を頭に入れておく必要がある。

4.地球内部の変動と地震

(1)日本列島を取り巻くプレート

 日本列島の大部分は、ユーラシアプレートと北米プレートの上にある。東からは太平洋プレートが、南からはフィリピン海プレートが押し寄せてきている。伊豆半島はフィリピン海プレートに乗ってきた島弧が衝突してできたものである。日本列島は四つのプレートがせめぎあう世界でも稀な変動地帯である。

(2)地球内部の状態

 日本列島付近の地球内部の状態を地震波トモグラフィー(地球のレントゲン撮影)で見ると、太平洋プレートは大きくて冷たく重く、中国大陸の下まで入り込んでいる。沈み込んだスラブは錘の役割をして、太平洋プレートを強力に引きずり込もうとしており、地震や火山噴火の原因となっている。このような錘は世界中に何処にでもある訳ではなく、日本列島の下にある錘が一番大きいので、日本列島は世界でも最も激しい変動帯の一つである。地球全体を玉ねぎの皮を剥くように、深さ70km、160km、280km、400km・・・とコアの境界の深さ(2891km)まで見てみると、地表に近いところでは、暖かくて軽いところと冷たくて重いところが隣り合っている。この状態がプレートを動かす原動力になっている。深くなると一様になってくるので、原動力は小さくなる。

(3)マントル対流

 プレートの運動はマントル対流の地表表現である。地球は一種の熱機関で、地球内部の熱エネルギーは膨張と収縮を引き起こし、重力場では垂直方向の運動に繋がる。膨張したところは密度が小さくなって浮力で浮き上がり、収縮したところは密度が大きくなって沈む。この垂直方向の運動は、地球表面では水平方向の運動、すなわちプレートの運動に変換される。

 地球内部の対流を仮に味噌汁の対流に例えると、その状態は鍋の中で下面から加熱されている状態ではなく(「五右衛門風呂対流」ではなく)、茶椀に入った味噌汁の対流(茶碗の底は断熱されて、表面冷却が駆動する対流)の状態である。茶椀に入った味噌汁を上から見ると、下から上がってくる部分は味噌粒が多く混じっており、表面から下がっていく部分はお澄まし状態で、プレート境界のような模様が見られる。

(4)地球の個性

 火星や金星は地球と同じ岩石型の惑星であるが、表面が放射冷却で冷えて硬化している。火星や金星は地球と異なり、1枚のプレート(シングルプレート)でできていると考えられており、物質やエネルギーの循環は停滞しがちであり、それゆえ地震や火山活動は地球に比して不活発である。一方、地球は沢山のプレート(マルチプレート)でできており、プレートが動くことによって物質やエネルギーが激しく循環し、地震や火山活動が活発である。この違いは自分の研究テーマの一つであるが、おそらく地球表面に液体の水が存在することに関係していると考えている。岩石は水と反応することによって強度が低下し、地球のプレートは硬いにも拘らず、その縁は柔らかいという不思議な性質を持っている。その最たる場所が沈み込み帯である。沈み込みに伴って岩石と水が反応すると、特定の元素が沢山溶けるという化学的作用も伴う。溶けた元素が運ばれてきたのが大陸地殻の岩石(安山岩~花崗岩質)で海洋岩石(玄武岩質)とは種類が違い、火星や金星にはない。大陸の岩石は、アイスキャンディ(マントルの岩石の例え)から最初に溶け出してきた甘みの強い汁(液体に溶け易い元素を濃集したマグマ)が固まってできた砂糖菓子のようなものであると例えられる。

(5)沈み込み帯と水

 地球の個性を代表する場所が日本列島のような沈み込み帯である。ここではプレート境界型地震、火山噴火、断層・褶曲・隆起・沈降などの地殻変動が激しく起こる。プレートが沈み込む際に、水が地球内部に持ち込まれる。水は潤滑剤の役割をして、地震が発生する。また、沈むプレートから放出された水は岩石の融点を低下させてマグマを作り、大陸地殻を作る。このような物質循環や地殻変動は、前述したマントルの温度構造や対流および熱エネルギーの循環によるものであり、地震の理解の一つをとっても、これらシステム全体の理解なしには不十分である。

    
 地震、マグマ、火山、鉱床、ある種の温泉が一連のシステムの中で関連しているのではないかと考えている。数値シミュレーションにより、沈み込みによって日本列島の下に入っていった水がどのように循環するかを調べている。水は軽いので吐き出されて上がっていく性質があり、吐き出された水は地震を引き起こしたり、温度によってはマグマを作って火山を形成したりする働きがある。

 火山の化学組成を調べることによって、沈み込んだプレートから日本列島の下にどのような成分が供給されているかを検出することができる。その結果、日本列島の下にはかなりの量の水が供給されている。小笠原から富士山にかけては約0.1%で、岩石の溶ける温度が300℃ぐらい下がる濃度である。新潟から飛騨にかけては平均1%程度と多い。新潟から神戸にかけては歪集中帯といわれ、日本列島でも特に軟らかく歪み易いところと考えられ、供給される多量の水と関連があるかも知れない。東北地方下では約0.2%で、少ない数値ではない。西南日本の九州から中国地方にかけては0.5%とかなり多く、マグマができ易い。

 数値シミュレーションでは、火山を作る水が深いところから供給される一方、沈み込み入口の比較的浅い所に水柱のようなものが立っているのが分かる。火山ができない前弧領域に下から熱水が来ることを示唆している。そのような熱水の候補として有馬温泉が挙げられる。有馬温泉の熱水は海水の約3倍の塩分濃度をもち、スラブから直接やって来た可能性がある。

 水が岩石と反応するとどうなるか、変形実験をすることで再現できる。水を含んだ岩石の方が軟らかく、壊れ易いことが分かる。このような物性を調べることで、沈み込み帯の何処で地震が起き易いかを考えられるようになるのではないかと思っている。

5.まとめ

①ここ数10年の最新装置による日本列島の地質学的精密観測は世界で一番発達した。その結果、過去100年間の東北地方での地震をうまく説明する「アスペリティモデル」が提唱された。このモデルがあったため、巨大地震の発生予想を妨げた嫌いがある。一方では、歪が蓄積しているとの示唆も沢山あった。

②地質・地形学者は、数100年~1000年ごとに大きな地震が起こったと考えられる証拠(地形、歪蓄積、津波堆積物等)を持っていた。

③両者を、惑星「地球」の仕組み(例えば水の働き)の十分な理解に立脚して統合し、沈み込み帯現象解明に取り組む必要がある。

6.質疑応答

Q1:最近東大の先生が今後4年以内に70%の確率で巨大地震が起きると言っているが、過去の地震発生の周期やプレートに溜まった歪の量で地震発生の予知ができるか?竹内先生の話では、地震の予測は不可能なのに、極論だが研究費が欲しいから予測ができると言っている。現在でも経験則が主体か?

A1:何月何日に発生するかは分からないし、その意味で予知は不可能である。特に、岩石は不均質なので予知は困難である。しかし過去の観測結果から経験則に基づいてある程度予測ができる。また、沈み込み帯システム全体の理解も重要である。予知に向けた基礎研究はそのような方向を目指すべきであり、そのための予算を申請するように科学者コミュニティーの意識も変わってきている。

Q2:NHKの解説者は天気予報と同様に地震は予知できると言う驚くべき発言をしていた。学会でも発言に留意された方がよいと思うが、ご感想は?

A2:その通りと思う。天気予報はスーパーコンピュータを駆使して、いろいろな観測点があるにも拘らず、翌日の天気が当らない。気象現象は非線形性が強いので、単純な延長線上では予測ができない。地球を相手にしている点で似ているが、地震は気象よりさらに難しい。

Q3:中国四川省の地震は、浮き上がる力によるか、沈み込む力によるか?

A3:基本的にはそうである。太平洋プレートは地球上で一番大きく、最も速く10cm/年の速度で動いている。日本列島の下にある大変大きな錘が原動力となっており、他のプレートにも影響を与えていると考えている。

Q4:2000年頃から世界各地で大きな地震が次々と起こっているが、それぞれの地震が関連して起こる可能性があるか?東北地方の地震と東海地震との関連は?

A4:世界の十分に離れた地域同士で直接相互作用が及んで地震が起きるとは考え難い。プレートの変形を通して巡り巡って影響を与えることはあるかも知れない。しかし日本列島規模では、ある大地震が他のプレート境界地震等を誘発することがあるので、東海地震は注意すべきと考えている。

Q5:貞観地震の余効変動の調査はされているか?

A5:調査はされているが、証拠が乏しく、これから調査が進むと期待される。貞観地震の前に富士山が噴火し、青木ヶ原の樹海ができているといった事例もある。何処かで大きな変動があると相互作用する可能性もある。

Q6:大地震と火山噴火は相互関係があるか?東北地方の地震による噴火の時期は?

A6:相互関係はあるが、必ず起こる訳ではない。例えば、2010年2月にM8.8のチリ中部地震が起きた1年後に近傍の火山が噴火した。1960年のチリ地震の時にも同じ火山が1年後に噴火している。日本列島でも富士山や新燃岳も同時期に噴火した記録もある。今回の地震の翌日に富士宮でM6.5の地震が起きたが、震源は富士山のマグマが存在していると考えていた場所だったので、富士山が噴火するのではなかと思った。いつ噴火しても驚かない。

Q7:水が引きずり込まれ、岩石を融解して噴火に繋がるか?

A7:水が岩石の溶ける温度を低くし、マグマができて、噴火が起きる。今回の地震で水が大量に供給されて、マグマが一杯できて噴火するのか、地殻の中の力学的な歪が伝わってマグマの発砲現象が促進されて噴火するのかは分かっていない。

Q8:関東大震災は太平洋プレートの沈み込みが原因か?

A8:関東大震災は北西方向に沈み込んでいるフィリピン海プレートが原因である。安政地震は千葉の直下型地震である。今度起こるとすれば、どちらのタイプか分からない(両方が考えられる)。

Q9:地震の前にFM電波が届き易くなったとの発表があったが、正しいか?

A9:岩石が歪むことによる圧電効果で電気的な変化が生じて、自然界の磁場と相互作用することによって何らかの変化が現れる可能性は否定できない。地表で捉えられるか、やってみないと分からないと思う。

  (記録:池田)