日時:平成21年7月8日(水) 12:30~ 演題:東京湾・相模灘地区の津波・高潮対策の現状と問題点 講師:早稲田大学理工学術院 教授、横浜国立大学 名誉教授 柴山 知也 氏 1.津波・高潮に備える沿岸防災―減災のための共同研究 津波・高潮災害の防災対策は従来「完全防災」を目指していたが、近年は主に「減災」 のための対策・研究が行なわれている。具体的には、少なくともこれら災害による死亡 者を発生させないことを目標としている。災害による被害の態様は発生地域の社会的文 脈地域の地理的・地形的な状況などにより千差万別である。「減災」のためには地域ご とに 、現地の実態調査と数値シミュレーションによる「減災シナリオ」をつくり、それか ら得られる「イメージ」を地域住民と共有し有事に備えなければならない。 2.津波・高潮災害の研究・対策で目指している方向 3、国際的な連携の必要性 災害は特に低開発国・地域に重大な影響を与える。そのため日本―アジア―アフリカー北米などの被災国・地域間の緊密な連携が必要である。また各国の中央政府―地方政府―地域社会―市民団体の連携が求められる。国際的連携においては日本への留学生がそれぞれの国の災害対策関連職務にあたっており、彼等との連携が有効である。 私は津波・高潮などの災害が発生すると、発生後できるだけ速やかに調査隊を結成し主に隊長として現地に赴き、詳細フィールド調査を度々行っている。 4.最近の国内の沿岸災害調査 5. 最近の海外での津波、高潮調査 下記は何れも日本への外国人留学・卒業生との連携による調査。 津波は地震による海底地盤の変動により、高潮は低気圧による「海面の吸い上げ」と「吹き寄せ」により引き起こされる。ここ数年サイクロンの挙動が極めておかしく、進路予測が困難なものが多い。過去の記録にない「非常識な」ルートを通過したり、あるいは停滞しても勢力が衰えなかったりする。これは温暖化の影響で全般に海水温が高くなった上に温度分布が不均一になったためと考えられる。地形的には沿岸・湾岸部の前の海底に陸棚が広がっている場合、高潮の被害を受けやすい。スマトラ沖地震によるインド洋大津波ではスマトラ島北部のバンダーアチェの近くで津波の世界最高到達点48.9mを発見した。日本でも明治三陸沖地震で30.5mを記録しているが、波力に地形的な条件が重なると局所的に想像を超える高い位置まで波が駆け上ることがある。 サイクロンによる高潮災害に対しては「シェルター」(高床避難施設)が有効であり、バングラデシュでは「シドル」による被害は過去に同国を襲った巨大サイクロンに比べ死者数が大幅に減った。ミャンマーでは過去にサイクロン高潮の被害を受けたことがなく、対応が遅れたため「ナルジス」では主要河川を3~4mの高潮が遡上し、支流、農業用水路を伝って各地で氾濫を起こし、甚大な被害を蒙った。ハリケーン「カトリーナ」はその巨大さに比べ、来襲地域の人口密度の低さ、対策の迅速さにより、アジアのサイクロンより人的被害は遥かに少なかった。 6.津波(地震による海底地盤の変動) 7.海岸災害 ① 高潮(台風による「吸い上げ」と「吹き寄せ」) ② 高波(冬季の高波、台風) 8.東京湾における検討事項 気圧低下による「吸い上げ」の海面上昇は、一般に気圧差1hPa
X 0.9 cmで得られる。例えば気圧1,014hPaが916hPaまで下がった場合の海面上昇は(1014-916)x0.9=88cmとなる。これに加えて風による「吹き寄せ」効果があり、「100年に1度」級の台風では海面上昇は数mにも及ぶことになるので、防潮堤の高さはこれに対応できなければならない。天文潮位の満潮時に[吸い上げ]や「吹き寄せ」の異常潮位が重なると被害は広範囲に及ぶことになる。 9.津波・高潮などの自然災害に対する心構え それぞれの住民の置かれている自然環境や社会環境が多様である限り、受ける被害も多様である。まず自分がおかれた状況下での「災害ポテンシャル」に日頃敏感になっていなければならない。地域行政が作成するハザードマップなどのツールにより、それぞれの地域の個別の視点からシナリオを作成し、災害に応じて選択すべきである。人命は 構造物だけでは護れない。地域自治体、住民が災害シナリオ・避難計画を共有し、適時、適所に避難を心がけることが肝要。 (記録:井上邦信) |